閑話 流行は塞翁が馬
ゲームの中では商会長で大金持ちの冬雪も、現実世界ではただの学生だ。
もちろん大金を手にしているわけではない。
そんな冬雪にも当然友人がいる。
「冬雪、いつもその格好だよね」
「ええ、ファッションの流行に左右されない上に、考える必要もない効率的な格好よ」
「私的にはもう少しいろいろ着飾らせたいんだけどなぁ〜」
「本当に彩香はファッションに目がないわね。どこからそんなお金が湧いてくるのか……」
彩香と呼ばれた少女──とはいえ冬雪と同期の大学生だが──は冬雪の呟きが聞こえていないのか、冬雪に着せたい服を見繕う。
「この服なんて、派手で可愛くて冬雪に似合うよ!」
「彩香……私にそんな若い格好はできないわ……」
まるで女児服のような、着る人のファッションセンスが試される服を遠慮なく持ってくる彩香に、冬雪は苦笑する。
「大丈夫だって!冬雪は何着てもかっこいいし可愛いんだから!それに、センセーもいいこと悪いことあっても最後にはうまくいくって言ってたよ」
「何度も聞いたわよ。その超解釈塞翁が馬は主人公が彩香じゃないと機能しないのよ」
「もう、そうやってすぐに可能性を否定するんだから」
文句を言いつつも、彩香は楽しそうに服を取っては戻してを繰り返す。その舞うような姿は冬雪も見ていて美しいと思うほどに洗練された動きだ。
結局買わないで帰るのがいつものパターンで、今日もまたそうだった。
「それじゃ、時間もいいしそろそろ帰ろっか」
「そうね」
冬雪はこういう意外とあっさりしている彼女の一面を意外だと思っている。ほかの人ならば、近くのカフェのコーヒーの匂いに釣られていたところだろう。
彩香と別れた冬雪も、帰り道を急ぐ。
明日は桜の入学式だ。今日くらいは少しちょっとしたご馳走を食べようか。そう思った冬雪は、都心の方のホームに降りた。




