雪太郎編 雪椿が咲く雪解けの季節4
体調が良くなり、雪太郎は天華の館を周り小鬼たちの手伝いをしつつ力の使い方も把握して来ている。
天華は時折煉華に会いに人の世界に行ってるようなのだが、雪太郎は人の世に興味は出ないようで小鬼相手に手合わせをしてもらっているようだ。
手合わせと言っても彼女らは術専門らしく肉弾戦を知らない為、雪太郎は術縛りでしか手合わせをしたことがない。
「雪太郎くん、私たちじゃ歯が立ちません」
黒髪長い髪をおさげにした、緑金の小鬼Aは箒で術の行使をしていたらしく穂先が氷で固められてボロボロになっていた。
「ってか天華様にどう言い訳しましょう」
箒を見つめて小鬼Aはあわあわと焦っている。
「箒、溶かせるよ」と雪太郎は手を横に振ると箒の穂先の氷が溶けていった。
「天華様並みの術の行使です」
「いやいや、まだまだだと思う」
小鬼の言葉に雪太郎は首を横に振っていた。
「ちなみに私もまだまだ未熟者ですが……」
後ろから声がかかり雪太郎は振り返った。
「天華さま!」
声の主を発見して走っていく。
「……お帰りなさい」
雪太郎の声を出したと同時に天華は雪太郎の頭を撫でて笑っていた。
そのうちに、雪太郎は天華の背を追い越してそして生きる時間すらも追い越していくんだろうなと思う。
雪太郎を見送るのは天華と夜たちの役目になるだろうが、果たして“人間の友達”というものを作らせることはしなくて良いのかと天華は思う。
人の世で、煉華たちが保護した子たちが確か雪太郎と同じ年代だったはず。と思い出し雪太郎をみた。
「友達、欲しくありませんか?」
天華の突然の言葉に雪太郎は若干、戸惑いの光を目に宿しながら天華の金の目を見つめる。
「なに……それ?」
「友達っていうのは……」
説明しようと天華は口を開くが「説明なんていらない! 友達の意味くらい知ってる」と雪太郎は怒ったようで悲しいような複雑な顔で言う。
「そんなのいらない。……俺、天華様だけで良い!」
ゆっくりと天華に近づいて着物の袖を握りしめて興奮の為に大声を出して息を切らせた雪太郎に天華は困った顔をする。
「……捨てた奴らのいるところの奴らなんて皆、同じだろ」
雪太郎の震える声に対処がわからずに天華は黙っていた。
「夜と小鬼たちはだけで十分だ。お願いだから追い出さないで……」
小さな体で縋り付く雪太郎に天華は息を吐く。
「……天華さまー!」
夜の泣き声と足音までも聞こえて来た。
「なんで私、鬼城所属なんですか?!」
天華に縋り付いて“いやですー”と泣き言を言う夜。
「私、天華様の従者なんですよ!! なんで鬼狩り所属なんですかー!」
「……おにがり?」
夜の言葉に雪太郎は天華を見上げる。
「え?……雪太郎?」
雪太郎の声に夜も泣き言を止める。
「……どう言うこと?」
雪太郎の底冷えする声に夜は震え上がっている。
「……夜……天華様の敵になるってこと?」
雪太郎の冷たい怒気に晒されて夜はカタカタと震えて天華の後ろに隠れている。
「ち……ちがう。」
フルフルと首を横に振り夜は否定していた。
「人間の味方をしている鬼は狩られる対象にならないよ」
天華は怯えてしまって口も回らなくなった夜の代わりに答えている。
「煉華姉様も所属してるのだし、下手な事件にはなりませんよ」
天華の言葉に雪太郎は「……必要な時だけ擦り寄って来て、要らなくなったら裏切られるだけだよ」雪太郎は天華を見て言う。
「けど半鬼の子たちも保護していますし、保護して来た子達に力の使い方教えるって姉様と約束しちゃいましたし」
天華の言葉に雪太郎はため息を吐き、“……一緒に行く”と嫌々ながら雪太郎が声に出していたのだった。
「ただし、そこのまとめ役と話させて」
雪太郎は天華に頼み込んでいた。
数日後、天華は雪太郎を連れて夢茨に面会を頼んで連れていっていた。
「……めっちゃ冷静なんだけど、えっ?? ほんとに俺より年下?」
夢茨は雪太郎を見て驚いていた。
「ともかく……よろしく」と夢茨は握手のために手を差し出すも、雪太郎は手を見下ろすだけで微動だにしない。
天華は申し訳なさそうに苦笑して雪太郎を見ていた。
「なんで……よろしくしなきゃなんないの?」
冷たい声と態度で夢茨を見て雪太郎は声を上げた。
「鬼狩りの頭なんだろ?」と雪太郎から冷たい殺気か夢茨に向かって来ているのを夢茨は感じているようで雪太郎をみた。
「鬼狩り、……うん、そう名乗ってるけど良い人……なんて言うか、天華様や煉華様たちは狩らないよ」
雪太郎の刺激をしないように言葉を選びながら話す夢茨。
夢茨の言葉に嘘が見えないことに呆気を取られて殺気が霧散していた。
「ただの人間なのに?」
「そうだね。だから協力者として助けてもらってるんだよ」
雪太郎の問いに夢茨はうなづいて素直に答える。
「そこで、頼みなんだけど、……雪太郎、術の責任者になって貰えない?」
夢茨は首を傾げて雪太郎に問いかけている。「今は、天華様にお願いしてるんだけど組織として形になっていくと完全にお願いできないんだよね」と考えている雪太郎の耳に遠くで聞こえている。
「未完成の組織なんだ?」
雪太郎は夢茨をみた。
「俺の見る組織は完全に半妖とか半鬼が来るってこと?」
「若干名は純粋な人間が入るかもしれないけど……そうなる、かなぁ……」
雪太郎の言葉にうなづいて居る夢茨。
「そして、そうなったら多分、雪太郎でないと……あの子たちは守れないんじゃないかな?」
夢茨は迫害されていた保護した子たちを考えて呟く。
「だから、……術の責任者の話はほんとに考えてほしい」
夢茨の言葉にめんどそうな目線を投げて、天華の手を引っ張って行っていると廊下の途中で纏っている気配がおかしい少女に出会う。
「……」
怯えている表情を見せたが後ろにいる天華を見てほっとした顔を見せた。
「前話してた、雪太郎だよ」
天華が少女に雪太郎を紹介した。
「こんにちは……えと仲良くして貰えたら嬉しい」
少女は少し声に緊張の色が見えた。
「……時々でいいから話し相手になってもらっていいかな?」
天華も雪太郎に伝えた。
「穂香ちょっと人の多い所に来て雪太郎が疲れているから今日はもう戻りますね」
穂香もうなづいて天華と雪太郎に手を振る。
鬼の世界の天華の屋敷に戻り雪太郎は自分の部屋に入る。
天華の言っていた友達云々は半鬼や半妖の人たちの話なのだと理解して雪太郎は頭を悩ます。
少しなら交流してもいいかなと思う心と裏切られたら?という心が入り混じり明確な答えが出ない。
こんな時はどうしたらいいんだろうと悩み続けるもそんな迷うことはこれまで無かったため戸惑っていた。
「雪太郎くん、お帰りなさい」
小鬼Aはお茶を持って来ていた。
「やらないで後悔するよりやって後悔する方がいいと思いますよ。それに雪太郎くんはやって失敗しても、失敗は取り戻せるほどの力はあるはずです」
小鬼の言葉に雪太郎ははっと迷いも戸惑いが晴れた顔をしていた。
「ありがとう」
小鬼が持って来たお茶をのんで雪太郎が天華のところに向かうのを応援する小鬼の姿があった。
雪太郎が鬼である天華との出会いと人間側である夢茨との出会い。
雪椿咲く雪解けの季節はこれにて完了です。
またお話が作れましたら、更新していきたいと思います。
その日までお待ちくださいませっ!