雪太郎編 雪椿が咲く雪解けの季節
番外編ということで、雪太郎と天華、夜の出会いになります。
短い内容ではありますがよろしくお願いします!
太陽の降り注ぐ暖かい光を遮断し、薄灰色の空が広がる灰色の雲からまるで白い綿毛のような雪が降る。
天空から降る雪は人の体温で溶けて水滴に変わってゆくも、大地に降り注ぐ雪は溶けることもなく容赦なく降り積もる。
一年を通して溶けることのない雪が大地に残った不思議な場所にそれは倒れていた。
「んー?」
黒い髪、金の瞳の女は降り続く雪と寒さに身震いをしていたが視界の隅で倒れて雪に半分埋もれてしまっている小さな人影を見つけ慌てて走り寄っていた。
「だ、……だい、……大丈夫??」
彼女は、倒れている影の上に降り積もった雪を掻き分けて助け起こしてみたが、目を閉じている幼子のその弛緩してる身体の異様な冷たさに驚いていた。
「ぎゃあああ! し、しんで???」
その身に纏う薄い生地の着物も少し暖かくなってきている小春日和の時に着るような着物で、極寒の場所へ訪れる着物ではないことを触って気づいてしまった。
まだ、体内にある温もりが消えてしまっているわけではないことも気づいた彼女は「えっ?! いきて? 何? 何どうしたのこれ?!……ひとまず温めるべきよね?!」と寒いとも言ってられない事態に自分の着ている分厚い布のマントを幼子に巻き付けて抱え上げた。
少しでも、彼女は幼子にぬくもりを分けてこの寒さで生命の灯火が消えないようにしようとしている。
「て、……天華さまー!」
屋敷に居て今現在、側に居ない彼女の女主人の名前を大声をあげて目に涙を浮かべて走り出していた。
黒髪を肩口で乱雑に切り揃えて涙目の金眼を館を見据え腕の中の幼子を落とさないようにしっかりと抱えてまっすぐ走る彼女は夜。
馬頭鬼と呼ばれているものであるが今は、人の姿を取っている。
屋敷の門を潜り抜けてバタバタと廊下を走り、天華の部屋まで一直線に走る様は、馬でなく猪であると見たものは答えるだろう。
「天華さま! たすけて!」
夜はマントに包んで抱え上げていた小さな生命を天華に見せて声をあげる。
「夜、怪我でもした……」
天華は言いながら夜を見やると、夜の腕の中で力なく眠る幼子に気づいて最後まで後になることがなかった言葉を飲み込んで天華は素早く動く。
小鬼にあったかくした白湯の用意とお湯を持ってくるように指示をし、布を直し込んでいる葛籠を開いて比較的分厚い布を数枚取り出して幼子のために布団を作った場所に夜は幼子を寝かせる。
天華は、自身の妖力を抑え込んで囲炉裏に火を灯して部屋の中を温める。
「なんで、天華さま力を抑えるんですか?」
夜は天華の様子を見て首を傾げる。
「人の子は、寒すぎても生命を落とすんですよ」
夜に天華は簡潔に説明をしながら徐々に暖かくなる室内を確認して扉という扉を部屋を締め切る。
「だから、囲炉裏に火を入れたんですね!」
……夜は扉を閉じていく天華の方を勢いよくみる。
「天華さま、天華様は逆に暑いと死んじゃいませんか?!」
慌てたように声をあげて夜は幼い姿の人の子と天華を交互に見つめて困ったような顔をしている。
「……半分人間みたいなものだから暑くてもそうそう倒れないですから、安心して」
天華は夜の勢いに冷静にいう。
「お二人本当に仲良いですよね」
小鬼Aは微笑みながらお湯と布を持ってきていた。
「あ、白湯も持ってきました!」
小鬼Bも急いで持ってきている。
「一応、身体に怪我がないか見ますよ」
天華はマントを広げて身体の隅々を見ていた。
霜焼けになって痛々しい足先と指先をみて、天華は治癒の力で治していく。
温めた布で体を温め、夜は上半身を起こして上げてお湯を人の子の口に持っていって少しずつ体内に入れてあげていた。
「あれ? 夜さま、そんな繊細な作業が苦手だと思ってました」
実質上司なのだが、そんな上司の夜に対して小鬼たちは目を丸くして夜の姿を見ていっていた。
「…確かに…粗暴なところもありますけど……」涙を流しながら夜はうなづきながら呟いていた。
「天華さまのお部屋ですが、この子は、こちらでよろしいですか?」
「意識を取り戻すまでこの部屋でいいですよ。 ……でも動けるようになったら囲炉裏のある客間に移動させますね」
小鬼は何か言いたげな顔をしていたのだが、天華の付け足した話を聞いて、小鬼たちは何も言わずに頭を下げて出ていっていた。
「持ち直してくれたらいいんだけど……」
夜は人の子の側に座り心配げに呟いていたのである。
「……抱えて体温で温めてあげるのも有効だと思います」
「わかった! 私がやります」
天華の言葉に夜は人の子が寒くないように人の子を抱え込んでいた。
夜は気が緩んだのかすぐ寝息を立てて寝落ちていたのだった。
「夜。……夜?! 人の子が潰れる!」天華は慌てて夜を眠った夜を人の子の上から退かせて人の子を夜の下から引っ張り出しなんとか腕だけ人の子の上に乗っかる形に落ち着かせていた。
夜にも寒くないように厚手の布を被せて天華は囲炉裏の火の番になって、布団の中で眠る夜と穏やかな息遣いに変化した人の子を眺めて笑っている。