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魔法図書館の日常  作者: 佐倉涼@もふペコ料理人10/30発売
第二章 エルフの少女と滅亡の魔法都市

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秋のお散歩①

 倒れた日からエセルの意識は浮上しては落ちていくを繰り返していた。

 混濁する意識の中、時折フィカやロフやロネの声が聞こえる。

 口元に薬湯をあてがわれ、無理やり飲み込まされたりした気もするけれど、はっきりと覚えていない。

 見る夢も楽しいものではなく、うなされることの方が多かった。

 そうしてどれほど経ったのかわからなかったけれど、徐々に体の辛さが取れ、耳に音が聞こえるようになる。意識が鮮明になり、ふっとごくごく自然に目を開けた。

 まず初めに飛び込んできたのは、見慣れたランプが吊り下がっている自室の天井。

 それから鼻には金木犀の微かな香り。


「目が覚めましたか」


 ゆるく視線を移動させると、ベッドの脇に座っていたのはフィカでもロフでもロネでもなく、ドライアドのローラスだった。


「ローラスさん? リスさんたちは、いいの?」


 来るべき冬に備えせっせと木の実を蓄えるリスたちのために、ローラスはここ何日もずっと月桂樹の姿で図書館前に立ち尽くしていたはずだ。移動してしまっていいのだろうか。

 エセルの訴えに、ローラスは苦笑をもらして右手を持ち上げる。

 肩からひょこりと姿を現した小さなリスが、腕を伝ってローラスの掌にちょんと乗っかった。


「話せば、わかってくれるものですね。エセルさんの看病に行くことを伝えたら、ついてきました」

「そうだったんだ」

「調子はどうですか?」

「大分いい、と思う。まだ起き上がれないけど」

「フィカが言うには、疲労だそうですよ。無理がたたって体が疲れていたと」

「フィカはどこ?」

「薬になる薬草を探しに行っています」

「そっか……迷惑、かけちゃった」


 エセルは顎の下ギリギリまで毛布をひっぱり、モゴモゴした。


「エセルさんは、少し、焦り過ぎです」


 ローラスは薄緑色の目を伏せてエセルを見やる。掌から膝にリスを移動させ、その背をゆっくりと長い人差し指で撫でている。


「以前に言ったでしょう。もっとゆっくりやればいいと」

「うん」

「やりたいことがたくさんあるのは良いことです。ですが、全部をやろうとすると破綻する。ひとつずつ、一番やりたいことから、やればいいのですよ。時間はたくさんあるのですから」

「うん。前にも同じようなこと言われたね」

「あの時は聞く耳を持ってくださいませんでしたね」

「ごめんなさい」

「良いのですよ。ですがこれからは、少しは私の話も聞いてくださいね」

「うん」

「目を覚ましたと、ロフに伝えてきます。水の一杯でも飲んだ方がいいですから」

「ありがとう」


 素直に礼を言うエセルに微笑みを一つ残し、リスを肩に乗せたローラスが席を立つ。

 扉を開けたまま居間へと去っていったローラスを見送り、ふぅと息をついた。

 あれもこれもと欲張って色々やろうとした結果、倒れてみんなに迷惑をかけてしまった。

 今のエセルは結局、どれも成し遂げられていない、中途半端な状態だった。


「……ローラスさんの言う通り、もっとゆっくりやってみようかな」


 焦る気持ちを一度落ち着かせて。一番やりたいことに優先順位をつけてやってみよう、と思った。


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