変化の書 オウィディウス・リドゲイト著④
フィカの家に帰り、湯浴みも夕食も済ませたエセルは、昨日同様にクローゼットの奥に隠してあった『エクレバー冒険記』を引っ張り出してベッドに入った。
「えぇっと、昨日はどこまで読んだんだっけ」
魔法書と違い、著者がエセルの読んだ部分を記憶して勝手にページをめくってくれたりしないので、自分でページを開かなくてはならない。ページを閉じてしまうと、どこまで読んだかわからなくなってしまった。
「うぅーん。確か三章の真ん中まで読んで、寝ちゃった気が……あっ。あった。ここからだ」
該当箇所を発見したエセルは、早速続きを読み始める。
ところが、いくばくも読まないうちに問題にぶち当たった。
どうやら本を閉じている糸の劣化が激しかったらしく、読んでいるとページがボロボロとこぼれ落ちてくるのだ。
「わわ、わっ」
ばらばらになったページがベッドに散らばりそうになる。これでは、本を読むどころではない。
慎重にページを元の箇所に収めるが、糸は完全にちぎれてしまっていた。
「うぅ……これじゃあ、読んでるうちにどんどんバラけてきちゃう」
どうしようもなかった。続きを読むのを楽しみにしていたエセルはガッカリした。
しかししょんぼりしたのも束の間、エセルはひらめいた。
「……そうだ。この本を図書館に持っていって、直す方法がないか聞いてみようっと」
魔法図書館にはさまざまな本があるのだし、本の修復方法について書かれたものがあってもおかしくない。エセル一人ではどうしようもなくても、本の知識を借りたらどうにかなるかもしれない。
「確か、フィカさんから鞄をもらっていたはず」
クローゼットの扉を開けてごそごそ探る。
「あった!」
背負うタイプの鞄が見つかった。
白い鞄は箱の様に四角く、バッグ本体を覆うフタがついていて、それを二つのベルトで留めるデザインになっている。
エセルは壊れかけの本を慎重に鞄の中にしまい込むと、パチンと留金を止めた。
「これで、よしと」
あとは明日、本を持っていき、魔法図書館の本たちにどうにかする方法がないか尋ねればいい。
どさっとベッドに横たわったエセルは、早く明日にならないかなぁと思いながら夢の中へと落ちていった。




