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魔法図書館の日常  作者: 佐倉涼@もふペコ料理人10/30発売
第一章 エルフの少女と魔法図書館

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「本喰い虫」駆除大作戦⑤

 エキナリウスは壁を上れるらしく、短い足を動かして垂直にちょこちょこと駆け登って行った。

 程なくして聞こえてくる「ギィッ」という本喰い虫の太い声と「チィッ」というエキナリウスの高い声。

 エキナリウスは本当に本喰い虫を捕まえるのが上手く、エセルたちが三人がかりで数匹しか捕まえられなかった本喰い虫を、ものの数分で十匹以上捕獲した。

 エキナリウスはエセルたちを「飼い主」と認識したらしく、本喰い虫を捕まえてはしきりに見せに来てくれた。後ろの二本足で立ち上がり、口に本喰い虫を咥え、黒い小さな瞳をキラキラさせて得意げな様子である。

「褒めて!」と言わんばかりの態度に、エセルも「すごいね!」と素直に賞賛した。本当にすごいと思った。

 特に丸く太り気味のエキナリウスは見た目の割に俊敏さを発揮し、四匹も五匹も捕獲しては、バリバリと本喰い虫を食べていた。その光景に、思わず体をのけぞらせ、背後にいたローラスにしがみついた。


「エキナリウス、可愛いのに食べる時は結構容赦ないんだぁ……」

「基本、肉食ですからね」


 エセルは捕食風景を直視しないようにそっと視線をずらす。


「ともあれ、本喰い虫は彼らが退治してくれるでしょう。数が多いので一日で駆除するのは無理でしょうが、この調子ならそのうちいなくなります。エキナリウスが来たとなれば、本喰い虫も館内から逃げるでしょうし」

「チチィ」


 近くにいたエキナリウスがローラスの声を聞いていたらしく、返事の代わりに一声鳴いた。


「じゃあわたしは、エキナリウスたちの寝る場所を作ってあげようっと」

「ウィステリアの蔓で編んであげるといいですよ。まだ若いものなら蔓が柔らかいので、エセルさんでも簡単に編めます」

「そうする」


 ウィステリアの咲いている場所なら知ってる。フィカの家から魔法図書館まで歩いている途中にトンネルみたいに茂っていて、紫色の花がこぼれそうなくらい咲いているのだ。夜になると花が光ので、明るくてとても素敵でエセルも大好きな花だった。


「ウィステリアの蔓、取ってくる!」

「気をつけていってきてくださいね」

「うん!」


 ローラスを魔法図書館に残し、エセルは外に飛び出した。


「エセル様、どこへ行くです?」

「急いでいるようなのです」

「ウィステリアの蔓が必要になったから、取りに行くのっ」

「なら、ロフも一緒にいくです」

「ロネもです」

「ありがと、二人とも!」


 フィカの使い魔である白フクロウのロフと黒ネコのロネを伴って、エセルは森を走った。

 ちょうど魔法図書館とフィカの家の中間地点にウィステリアのトンネルがあるので、そこまで一目散に走っていく。


「あったっ」

「ですです」

「あったのですね」


 急停止してその場で膝に手をついて呼吸を整え、あらためてウィステリアを見上げた。

 トンネルは、エセル二人分くらいの高さがある。このトンネル内は夏の日差しを遮ってくれるのでとても心地がいい。涼しくなるまで休んでいるのか、小人が三角帽子を扇子がわりにして扇ぎながらトンネル内でくつろいでいた。


「ロネが嘴で噛みちぎってあげようかです?」

「ロネが爪でスパって切ってもいいのです」


 使い魔二匹がそんな提案をしてくれた。確かに二匹に頼めば、エキナリウスの寝床分の蔦くらあっという間に手に入るだろう。

 けど、それじゃあ意味がないと思った。

 エキナリウスの世話をすると決めたのはエセルなのだ。だから蔦を取るところから自分でやらなければ。エセルは首を横に振った。


「ううん、わたしが自分でやるよ」


 そしてウィステリアのトンネルに近づくと、そっとその蔦に触れる。

 ウィステリアは幾重にも蔦を伸ばし、絡まり合っている。適当に引っ張れば蔦を手に入れることができるだろうが、それだと途中で千切れてしまうかもしれないし、せっかく咲いている花まで巻き込んでしまうかもしれない。


(どうすれば木に負担をかけないで蔦を取れるかな……)


 そうっと幹に手を触れると、ごつごつした樹皮越しにウィステリアの息遣いが聞こえてくるようだった。目を瞑っておでこを幹にこつんと合わせれば、もっと近くにウィステリアを感じることができる。地面から水を吸い上げ、幹の中を通り、細い蔦を伝い、葉や花へと栄養を行き渡らせる。ひどくゆっくりと、それでも確かに生きて循環しているのを感じ、ああ、ローラスさんに似ているなぁと思った。


(もしもこの木がローラスさんだとしたら、無理に引っ張ったり、ちぎったりしたらきっと痛いし嫌だろうな……木にもちゃんと説明して、納得してもらった方がいいよね)


 そんな風にエセルが考えたのは、おそらく種族としての本能だろう。エルフ族は自然を大切にし、自然の中で暮らす。だから植物が嫌がるようなことはしない。自然にそっぽを向かれては生きていけないからだ。

 目を開けたエセルは、ウィステリアの木を見上げる。


「《エキナリウスの寝る場所を作るのに、蔦が必要なの。少し分けてもらえる?》」

「《少しとはどれくらいだ?》」

「《エキナリウス五、六匹分の籠を作れるくらい》」

「《ふむ……》」


 ウィステリアの木は少し悩むように声を出すと、ぱらぱらと頭上から蔦を落としてくれた。


「《これくらいでどうだ?》」

「《うん、多分足りると思う。ありがとう!》」

「《エルフ族の頼みであれば、聞かなければな。また何かあったらおいで、お嬢ちゃん》」


 エセルは落ちた蔦をかき集め、にぱっと笑った。


「ロフ、ロネ! 見て見て、こんなに貰っちゃった!」

「……今、何を話したです?」

「聞き取れなかったのです……」

「え? ウィステリアの木に、蔦が欲しいってお願いしてたんだよ」

「統一言語じゃなかったですよ」

「聞いたことのない言葉でしたのです」

「そうだったの?」

「です」

「のです」


 そうは言われても、エセルとしてはいつもと変わらずにしゃべっているつもりだったのでわからない。ウィステリアの木を仰ぎ見ると、降り注ぐ夏の日差しを遮るように堂々と蔓を伸ばして聳えていて、今はなにも語ってはくれなかった。


(触れてないと木の声は聞こえないのかな?)


 でもとにかく、木を傷つけずに蔦を手に入れることができた。


「ここで籠を作って持って行こうっと」

「エセル、籠の作り方わかるです?」

「ロフとロネが教えてあげるのです!」

「ありがと、二人とも。どうやるの?」

「こーーーーして、魔法で蔦を浮かせて〜〜〜〜」

「びゅびゅーん、ひょいっと編むのです」


 ロフとロネが力を振るうと、二本の蔦がするすると持ち上がり、勝手に編み上がっていく。


「えっ、ちょっと待って!」


 エセルは慌てて蔓を手に取ると、自分の力でエキナリウスの寝床を編むべく、魔法で編み上がる蔓を必死で目で追いかけた。

 トンネルの隅にいる小人はエセルたちを横目に見ながら、相変わらず帽子を扇いで風を送っていた。




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