「本喰い虫」駆除大作戦②
フィカの声により、エセル、フィカ、ローラスによる本喰い虫の捕獲作戦が始まる。
フィカは宙に浮いて天井近い上段の本棚を、ローラスは体を幹に変えてするすると伸ばし中段の本棚を調べ出す。エセルは宙を浮いたり体を自在に伸ばしたりできないので、自分の背丈が届く範囲の下の方の本棚を調べ出した。
「本喰い虫、本喰い虫……」
大きささえもわからないが、虫という名前からしてそこまで大きくないだろう。
「虫さーん出ておいでーおーい」
と呼んだところで出てこないのは明らかだ。
エセルは懸命に本棚の隅を調べたり、本と本を引き抜いて書物の間に隠れていないか探す。
ちょっとずつ探すのが面倒になってきたので、がばっと本を引き抜いて床に積み上げた。どういうわけだか今エセルが作業している書架に収まっている本たちは動いたり作者が出てきて喋ったりしない。しぃんとしている。
せっせと本を引き出して、とうとう一列全部の本を抜き去ってしまったところで、ようやく片隅に黒く動く物体を発見した。
「いたっ」
隠れる場所がなくなった本喰い虫が身を隠す前に、エセルがシュッと素早く手を伸ばして素手で掴んだ。
「ギギッ。ギィッ」
「これが本喰い虫かぁ」
本喰い虫はエセルの小さな手でも掴めるくらいの大きさだった。丸い胴体にコウモリのような羽を生やしている。顔は小さく、目はひとつしかなく、口が顔中に広がっていて、そこから尖った牙がのぞいていた。エセルの手から逃れようと、羽をバタバタ動かしている。ちょっとかわいそうな気がしたが、この虫は本を傷つける虫なので情けをかけてはダメだ。少なくとも今、図書館内で解放してはならない。
「フィカさん、ローラスさん。本喰い虫一匹見つけたよー!」
「でかしたわエセルちゃん!」
「早いですね」
フィカが天井付近から急直下し、ローラスは幹を縮めてするすると降りてくる。
本喰い虫はフィカの手の中でバタバタ羽ばたきながらギーギー喚いていて、捕まえておくのに一苦労だった。本喰い虫を逃がさないよう、フィカは両手でがっちりと捕獲する。
天井から降りてきたフィカがエセルの指の隙間から暴れる本喰い虫を睨んだ。
「生きがいいわねぇ。えいっ」
「ギィッ」
フィカのデコピン一髪で本喰い虫は動きを止めた。ひとつしかない目が×になり、羽がぐったりとしている。
「こ、これ……死んで?」
「ないわよ。気絶させただけ。エキナリウスを誘き寄せるのに必要だし」
ぐったりした本喰い虫を人差し指を親指でつまんで持ち上げてから、虚空に向かって使い魔の名を呼んだ。
「ロフ、ロネ」
「はいです」
「およびでしょうか、ご主人様!」
魔法図書館にいなかったはずの二匹が突然ポポンと姿を現し、主人の前に馳せ参じる。
「本喰い虫を捕まえておくための籠を持ってきてちょうだい」
「はいです!」
「お安い御用なのです!」
二匹の使い魔は来た時同様煙を上げていなくなると、数分待っただけでまたしても図書館内に現れた。こんどは小ぶりの、蔦を編んで作った籠を持って。
「お待たせいたしましたです!」
「お持ちいたしましたのです!」
「あんがと」
フィカは使い魔二匹から籠を受け取ると、蓋を開け、ポイっと気絶している本喰い虫を放り込む。
「本喰い虫が多いほどエキナリウスを誘き寄せられるわ。もう少し探しましょ」
フィカに言われるがまま、本喰い虫を探す作業が続行される。
どうやら本喰い虫は上の方ではなく下の方に多く巣食っていたらしい。エセルが本をごそっと引き抜いて見通しを良くしてはびっくりして逃げ出す本喰い虫が何匹もいた。
相手は腐っても虫なので、そうそう毎回素手で掴んで捕まえられない。バタバタと羽を動かして逃げる本喰い虫をエセルが慌てて後を追う。本喰い虫は素早いが、ついている羽は体のサイズに比べると小さく、そこまで高く飛べないらしい。どちらかというと、胴体から生える五本の足を動かして走るようにして逃げている。翼はその補助的な役割を果たしていた。エセルはそんな本喰い虫を懸命に追いかけ、両手を伸ばして体を床にダイブさせ、あと二匹捕獲することができた。スライディングした拍子にベレー帽がずれ落ちる。両手が塞がってしまったのでベレー帽をそのままに、「捕まえたっ!」と叫んだ。
ちなみにフィカは二匹、ローラスは一匹捕まえていた。
フィカが気絶させ、まとめて籠に放り込む。一つの籠に一、二匹、全部で籠は三つ。
両手が自由になったエセルは、取り落としたベレー帽を拾って被り直した。
「それじゃ、森に行くわよ」
「ええ」
「はい」
フィカの声かけに合わせ、一行は魔法図書館内から森へと移動することになった。




