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魔法図書館の日常  作者: 佐倉涼@もふペコ料理人10/30発売
第一章 エルフの少女と魔法図書館

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初めてのルーン文字 レインワーズ・ルルーシュ著作④

 午後の風が爽やかに吹き抜ける森の中は心地が良かった。足元では草が柔らかく風になびき、バタフライブルーベルの青い花々が踊るように舞っている。

 迷いのない足取りで進むローラスにエセルはついていった。フィカは足が早いのでエセルは小走りにならないとついていけないのだが、ローラスの歩みはゆっくりなのでエセルは走らなくて済む。隣に並ぶと、背の高いローラスを見上げた。


「どこまで行くの?」

「馬がいる場所までですよ」

「メイホウの森には、馬がいるの?」

「正確に言えば馬ではないのですが、それに近しい存在です」


 ドライアドのローラスはメイホウの森に詳しいようなので、着いていけばきっと大丈夫だろう。エセルは深く考えず、ローラスと一緒にゆっくりと森を進んだ。バタフライブルーベルたちも着いて来た。

 魔法図書館を出て南に進み続ける。フィカの家は図書館北西にあるので、こちらには来たことがなかった。森は静かで、ほとんど音がしない。春の女神の祝福のおかげで、バタフライブルーベル以外の花もたくさん咲いていた。色とりどりの花たちが綺麗で、キョロキョロしながら進む。


「いました。あそこです」

「わふっ……」


 突如ローラスが立ち止まったので、よそ見をしていたフィカはローラスの腰の辺りに顔をぶつけてしまった。ズレたベレー帽を直し、ローラスの背中から顔を出して正面を見る。


「わ……ユニコーン!」


 そこにいたのは馬ではなく、一角獣――ユニコーンだった。

 真っ白な毛並みに白銀の角を持つ神秘の獣は、確かに馬によく似ている。


「近づいてみましょう」

「うん」


 ローラスがごく自然な足取りでユニコーンに近づいたので、エセルもわくわくしながら近くまで行く。ユニコーンはローラスとエセルを見て、嬉しそうにブルルンと鳴いた。


「エルフ族ならユニコーンも喜んで乗せてくれるでしょう。さ」


 ローラスがエセルを抱き上げ、ユニコーンの背に乗せてくれる。

 ユニコーンは一切嫌がることなくエセルを乗せると、隣を行くローラスの歩幅に合わせてゆったりゆったりと歩き出した。


「どうですか? ユニコーンに乗った気分は」

「高くて景色がいつもと違う! ローラスよりも背が高くなっちゃったよ」


 いつも見上げていたローラスの顔が今では下にある。彼の被っている月桂樹の冠が、見下ろすと丸い輪っかのようになっていることに初めて気がついた。てっきり頭全体を覆っているのかと思っていたので、これは新しい発見だ。


「このままどこまで行くの?」

「そうですねぇ。月湖まで行ってみましょうか」

「つきこ?」

「月の光をたっぷり浴びて、魔力が色濃い湖のことです。ここからすぐですよ」


 ローラスに導かれるままエセルを乗せたユニコーンは歩いて行く。

 草葉を踏み締める蹄の音は静かで、ツノの生えた頭をわずかに上下させながら進んでいた。たてがみはツノと同じく銀色で、触るとふわふわした。乗っているといつもと見える景色が違うので面白いが、ユニコーンの毛は短く硬いし、背骨の上を跨いでいるので、長時間またがっているとちょっとお尻が痛くなりそうだなぁと思ったりもした。


「着きましたよ」


 エセルのお尻が痛くなる前に無事に到着し、ユニコーンが歩みを止めた。


「わぁ……!」


 丸い泉が陽光を反射してきらきらと輝いていた。かすかに白い靄のようなものが泉から立ち上っていて、それが目に見えるほどに濃い魔力だということがわかる。

 ローラスに手伝ってもらってユニコーンから降りると、エセルは泉へと駆け寄った。しゃがみ込んで湖面を覗き込むと、靄の隙間から湖面に映ったエセルの姿が見える。鏡のように美しい水面だった。思い切り息を吸い込むと、キンと澄み渡った空気が鼻から入って来て、それだけでエセルの中に魔力が行き渡る。


「すごい、魔力を含んだ水がたくさん!」

「月湖は水底に魔力を蓄える鉱石が沈んでいるので、水にも魔力が溶け込んでいるそうなのです」

「ローラスさんも、月湖の水、好き?」

「勿論。たまに散歩に来ては、頂いています」

「へぇ。あ、ユニコーンさんもここの水が好きなんだね」


 ユニコーンがエセルの隣にやって来ると、頭を下げて月湖の水を飲み始めた。エセルも両手で水をすくい、飲んでみる。冷たい水は微かな甘みを含んでいて、先ほどとは比べ物にならないほどの魔力が流れ込んできた。


「おいしー」

「ふふ。エルフ族は魔力量が豊富ですから、月湖の水と相性がいいんでしょうね」

「なんかちょっと、懐かしい感じがするの」

「懐かしい、ですか?」

「うん。こうやって湖で、魔力のある水を飲むのが普通だったような……」


 エセルはうぅーんと唸りながら考える。記憶がなくなっているエセルだが、なんとなく、こんな感じで水を飲んで過ごしていた気がする。


「水を飲むだけじゃなくて、他にも何かやってた気がするような……なんだろう」


 しかしそれ以上は考えても、何も出てこなかった。

 水面には、ぎゅーっと眉を寄せて悩むエセルの姿が映っている。寄せすぎて、眉と眉がくっついてしまいそうなほどだった。

 懸命に過去を思い出そうとするエセルの隣にローラスがしゃがみこんだ。


「ゆっくり思い出せばいいですよ。時間はたくさんあるのですから」

「うん」



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