8.『ダンジョン:迷彩の遺跡:5』
「は?伏せっ…!?」
唐突にニナから飛んだ指示に驚愕しつつ従う。シエルはどうしたのかはここからだと見えない。
「ヴァリアービレ・カンターレ!」
バンバンと鳴る無数の発射音と共に青い光が頭上を通り、視界を緑色に変えていく。火力バカっっ!!
「よーし2キル!調子いーかも!」
急に敵をバンバン倒し始めるニナ。彼らの分のノルマは今の一瞬で終わった。
残りの敵は4体にまで減る。
「ちょ、ニナ!急にどうしたの」
ベルが慌てた声でニナに問う。
「だって長くなってきたんだもんー!しょうがないじゃん!」
最近はあまり聞かなくなってきていたニナの文句。そういえばニナは長時間戦闘が苦手なタイプだ。集中力が続かないと本人が言っていたことを思い出す。
「あちゃー、ニナも暴れ出したか。」
シエルがやらかしたと言わんばかりの声を上げる
「まーいっか、倒せるならなんも問題ないし」
続いて自己完結をした。シエルも疲れが溜まってきているのか判断が鈍ってきている気がする。
「ニナ、体力の消耗にだけ気をつけて!ベルはニナの支援!」
シエルが新たに指示を出す。剣を扱うベルが前に立って銃のニナが支援という形をとる方が一般的には良いのだろうが、幸いにもベルの聖遺物『ナポレオン1世の王冠』からの継承技能『革命後夜』によってこのパーティではそういった固定概念がぶっ壊れることが多々ある。
今回もそのパターンだった
はずが
「…総員っ、戦闘中止!」
シエルの号令の直後、敵が…。
「消えた?」
迷路から抜け出し、ダンジョンを脱出して陽乃アカリに状況説明を行う。
「そう。号令の直前『ジャンヌの旗』から「敵が消えるから戦闘を中止しなさい」って指示されて、その通りに動いたら敵が消えたの」
シエルが説明をする。
「直前まで戦闘態勢を崩さなかったミミクリーパピヨンを見るに、なにかの命令を受けて消えたのか…はたまた彼等の知能によるものかは判明していないからこの後上に報告書を提出する予定。
そして陽乃燈里。とりあえずキミは開拓者保護施設に送り届ける。もうキミの元パーティメンバーは警察のお縄にかけられてる頃だから安心して」
そうシエルが告げるとアカリさんは安心したような、困ったような表情を浮かべた。
「そうですか、そっかぁ…。ありがとうございます」
複雑そうにお礼の言葉を述べるアカリさん
「アカリンどーしたの?」
ニナがアカリさんに問いかける
「えっと、私のパーティメンバーは唯一私の"開拓者になりたい"って願いを叶えてくれた人たちなんです。だから、あのひとたちが悪い目に会わないといいなぁって」
そう言うアカリさんは目を細めた
「…そう。まぁでも彼等のした事は法で裁かれるべきことだから。情があろうとなかろうと郷に入っては郷に従え。裁きを受けるのを待つしかないね」
冷たく言い放つシエル。何をそこまで言わなくても、と俺が言おうとした時
「あ、迎えの車だ。ハルノさん、開拓者保護施設に向かいましょう。ボクたちとはここでお別れですが…。」
ベルが言うと1台の車が俺たちの所へ近づいてきた。
「あっ、本当だ。皆さん、助けていただきありがとうございました!『始まりの軌跡』のパーティと一緒にいられたのは人生最大の幸福です…!」
アカリさんは深々と頭を下げると車へ乗り込んでいった。
ニナとベルが手を振り彼女の乗った車を見送る
車が見えなくなった頃、シエルが口を開いた
「まーでも、彼女別に目が見えないわけではなかったんだけどね。」
「「「え」」」
俺達3人は驚きの声を上げる。そりゃそうだ、先程まで盲目だと思っていた女性の目が見えていたと急に聞かされたのだから。
「異力の力のおかげでダンジョン内では目が見えてるらしいね、真相は彼女しか知らないけど。そんな彼女のことを知らない他のパーティメンバーが彼女に雑用やら開拓やら任せっきりだったんだって。親も親で彼女の介護に辟易してダンジョンで行方不明になることを祈ってたくらい。」
シエルは淡々と説明する。彼女の状況は思っていたよりも過酷なものらしい。
「まぁ、過ぎたことは一旦置いといて。私は報告書作りに行くからお先に失礼。みんなお疲れ様」
そう言い残してシエルは帰路を辿っていった
それに続くように俺達も帰路を辿る。
ニナがどこか遠くを見据えていた気がしたのは気のせいなのだろうか
夜に家でカップ麺を啜っている時急にとてつもない眠気が襲ってきた。
普段ならダンジョンの攻略後でも夜中まで起きていられるはずなのに、何かがおかしい
その眠気に抗うことも出来ずに、俺は目を閉じた。
☆☆☆
「…あぁ、おはよう。」
目を覚ますと、いつの日か見た書斎のような部屋にいた。
辺りを見渡すと、机の上に乱雑に置かれた何枚かの紙といくつかの本。窓の外を眺めるはペルの姿があった。その髪は前と変わらず絹のような白銀の髪を長く伸ばしている。
「…またか」
俺は声を漏らす。この空間がどういうものなのか、夢か現実かすらもわからないのだ。そんな空間に2度も来ることになるとは思ってもみなかったし思いたくもなかった。
「またか、とは失礼だね。今度は土産話の1つでもあるのかい?其方は随分と大変だったようだけれど」
ペルは全てを見透かしたかのように俺に問いかける。その視線は俺の内側すらも貫いて見抜いているようで不気味だった
「大変だった、な。ダンジョンに入ったらゴーレムがいて、倒したと思ったら迷ってデケー蝶が12体。もう少しで狩り切れると思ったら消えた。んでもって助けた人は盲目ではなかった。情報量が多すぎて疲れた」
俺は愚痴るようにペルに話す。今日だけでも情報量が多すぎて疲労が溜まりまくった気がする。
「…なるほど。キミの世界ではそのようなコトになっていたんだね。ワタシ達も大変だったよ。とある国のとある都市で人々が次々に攫われてね。今ワタシのトモダチがその首謀者を叩きに行ってる所なんだ…。あァ、良いコトを思いついた。キミも彼等について行かないかい?きっと愉しいだろう」
そう話すペル。こっちの世界も大変なんだなぁと雑に共感していたところに嬉しくもないお誘いが来た。
「最っ高に嫌だな。俺は今くっそ疲れてるしカップ麺食べてる最中にこっちに来たから麺が伸びてそうで心配なんだ。」
俺は軽く怒りを顕にしながらペルへ話すと彼女は軽く微笑んで足音も立てずに本棚へ向かった。
「そんなに怒らないでくれ。軽率な発言は詫びよう、すまなかった。とりあえず其方の様子は伺えた。今日はキミを元の世界へ戻そう」
なんか引っかかる発言をするペルは本棚の前で迷ったように少し手を動かすと本を一冊取り出し、迷うことなく一つのページを開いた。
「気をつけて帰ってくれ。次こそは紅茶を出そう」
そう告げるペルの足元にはアニメでよく見るような魔法陣一瞬で描かれ光った。
☆☆☆
ハッと目が覚めると自分の部屋だった。
何が起きたかはよくわからなかった。だが何もせず寝ているわけにもいかないと思い、とりあえず起き上がる
机の上に置かれている食べかけのカップ麺を見てみると
「…冷めてる。しかも伸びてる」
だいぶ長い間寝ていたのだろうか。
…まぁ食べるか
そう考え、冷えたカップ麺を啜った。
俺はさっきまで何をしていたのだろう。
くじらのはらです。だいぶ長らくおまたせしました。
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