5.『ダンジョン:迷彩の遺跡:2』
「おー、ヒロちーやっと来た〜!」
俺が全力ダッシュをかまし30秒くらいかけて声の元へ辿り着くと、余裕そうなニナとオドオドとした女性がいた。
真っ直ぐ行った道の突き当たりに座っていて、その左右にはデカイ道があった。直前まで通ってきた道と併せてT字になってるようだ。
「ぜぇ…ぜぇ………ニナ、お前…早すぎ……」
死ぬほど息を切らしてニナにそう言うと彼女はケロッとした表情をして
「現役JKだからねっ!あとヒロちーが遅いんだよ」
とダイレクトアタックをかましてきた。やめてくれ、死ぬ。
「ぜぇ…こちとら、はぁ…元ニートなんだわ…はぁ…」
「あ、あの…大丈夫、ですか?」
まだ息の整わない俺を心配する目の前の女性。この人が今回の救出対象者か…と酸素の回らない頭で考える
「あ、ヒロちーに紹介するね!この人は…」
「あ、私から話します…。私は、ハルノ アカリと申します。太陽の陽に乃○坂の乃に燈と里です」
ニナの言葉を遮った彼女が名乗る。やけに細かく自分の漢字を伝えてくるハルノに驚きつつ、服装を確認した。
明るいボブカットに斜めに切られた前髪、黒いパーカー、二の腕にはピニオール・パスのケースが巻かれている。
青いプリーツミニスカート、レギンス、赤と白のスニーカー。
─赤い目
今回の救出対象者と同じ特徴。救出対象でまず間違いないだろう。だが、まともな装備はつけていないようだ。
「あ、続けますね…私、目が見えなくて、どんくさいので、それで…えっと、パーティメンバーに疎まれてたんです。たぶんそのせいで今回の開拓で置いていかれてしまって…。幸い携帯食料と水分を少し持っていたので死ぬことは無かったんですけど…。あ、えっと、置いていかれたのは体感2〜3日前です。」
自虐や順序のわかりにくい話に少し戸惑いつつも状況が把握出来た。盲目の人間にまで開拓者させるとか国はブラックにも程がある。
とはいえ目が見えない状況で何日もひとりは心細かっただろうことが窺える。
「なるほどな、俺たちはお前…じゃなかった。ハルノさん?のことを救出しにきた開拓者パーティだ。安心してくれ」
「…!ほんとうですか!ありがとうございます…!」
不安そうな表情に明るさが少し見えた。
「あ、そういえば自己紹介がまだだったねっ。アタシは水咲ニナ!ヨロシクね〜」
「俺は巴衛ヒロト。」
「ちょっとヒロちー短すぎ!もうちょっとなんかないの?」
「別にこんなもんでいいだろ…。名前さえわかれば困らない」
わちゃわちゃと話しているとハルノがキラキラとした目でこちらを見つめてきた
「先程から声のテンション的にそうかなって思ってたんですけどもしかしてもしかしておふたりとも『始まりの軌跡』のパーティですか!?」
急に饒舌になるハルノ、怖い
「そうだよアカリン!ニナたちはシエルぴのパーティメンバーだよ☆」
「あ、アカリン…!?」
「許してやってくれ、こいつはいつもこうだ…。」
己のあだ名を思い出し、ニナに呆れつつハルノに告げる
「あ、全然大丈夫です!むしろ大歓迎です…!きゃー、私今あの『始まりの軌跡』のパーティメンバーと話してるっ!ラッキー!あ、えと、ヒロトさんもよろしければアカリンって呼んでください!」
急に名前で呼んでくる馴れ馴れしさに気圧されたものの、対象は救出しなければいけない人間だと己に言い聞かせる。
「あー、えっと、アカリさんって呼びますね…。アカリさん、今の体力はどんな感じですか?立ったり動いたりする体力残ってますか?」
俺はとりあえず事務的に質問する。そもそもニナにやってもらいたい、なんでさっきから黙ってんだ。
「2日間座りっぱなしだったからあれですけど、運動は全然できます!」
そう言うと立ち上がりジャンプするアカリさん。元気さはあるようだ
「動けるなら良かった!じゃあ…アタシ達がさっき走ってきた道に逃げて。」
明るい声から一転、真剣な声を出したニナ。
「え、それってどういう…」
「いいから、早く!ヒロちーはアカリンについてってあげて」
「…なるほど、なんか察した。俺が残るからニナは逃げるアカリさんについて行け。ニナのデザートイーグルなら援護射撃余裕だろ。」
「え、え、なんですか?なにが起こるんですか?」
作戦会議を進める俺たちと1人状況が把握出来ていないアカリさん。
「ヨユーだね!よし、アカリン走るよ!」
ニナはそう言い放つと、アカリさんの手を取り走り出した
アカリさんは混乱しながらもニナの手を握り締め足がもつれないようにね走る
「ヒロちー!言い忘れてたけど敵は岩石ゴーレム2体だから!刃こぼれしないよう頑張って!アタシはアカリン安全なとこまで運んだら援護する!!」
大声でこちらに向かって叫ぶニナ。走りながらその声量出るとか肺活量バケモンかよ…。とか思った直後、告げられた内容が頭に入った。
岩石ゴーレム2体?マジか?こっちはハルバードだぞ
…いいね、気分アガるわ。
ニナが走り出して丁度1分後、地ならしと共に現れた高さ10m程のデカブツが現れた
頭部から肩にかけて苔やつるが生え、絡まっている。左胸には金色に光る結晶。あれが奴らの弱点だ。
流石に左右の道から出てくるのは想定外、だが。
「あんますぐ壊れたら笑うからな」
そう吐き捨て、俺は武器を構える
2体のゴーレムが同時に俺のいる場所へ拳を振り下ろした。それと同時に、俺は宙へ跳び上がる。
衝撃は、空中にいても伝わってくる。あれを喰らったら一溜りもないだろう。
「まぁ、俺にはなんも問題ねぇけど。」
1人呟き、俺はハルバードを右の道から出てきたゴーレムへ振り下ろす
ガキン!と音が鳴り衝撃が手から腕、腕から脳へ伝わる
ゴーレムにはほとんど傷がつかない
「やべー、歯立たねぇな」
そう考えるも口元は歪む。人智を超えた敵を前に、言い表せぬ高揚感が俺の脳をショートさせていく。
「こうでなくちゃな」
俺は昔プレイしたゲームのことを思い出す。
─よし、閃いた
ゴーレムの肩に着地しハルバードの刃を首に押し当てる
「アシエ・ブリザード!」
直後、発生するのは鋼の吹雪。それはゴーレムの体を襲う
「じめんくさにはこおりはがねが鉄則だよな。」
腕を振り回し暴れ狂うゴーレム。振り上げた腕がもう一体にもぶち当たりそうになった瞬間。
─銃弾が、天井を破壊
「は!?あっぶねぇ!」
後ろへ跳び降り走る。
するとそこから降りてくる、白銀の天使。
──シエルだ。
続いてベルも落ちてくる。
「『革命後夜』!」
王冠を頭にのせ、ずり落ちないように抑えて。
ベルはそう叫ぶ。
彼が起こしたのは強烈な吹雪。
俺が使った異力の変換により起こったものなどとはわけが違うホンモノの自然現象。
そのまま吹雪と瓦礫に押し潰され、ゴーレムは動かなくなった。
シエルとベルはふわりとそのまま瓦礫に着地する。
「えっぐ…。」
俺が呆気にとられてると、後ろからニナとアカリさんが歩いてきた。
「ベルたゆナイスー!ヒロちーもよく避けれたねっ」
「よく避けれたねっじゃないわ、死にかけたんだが!?」
キレる俺。タイミングが1歩遅ければ瓦礫に埋もれていたから当然だ。
「ごめんねヒロ、私がニナに指示したの。許して?」
可愛くお願いしてくるシエル。許すわけねぇだろ
「許すわけ…いや、さすがに今回はキツかったし…でも……」
モゴモゴと俺がごねだすとベルが瓦礫から飛び降り真っ直ぐニナへ向かって歩く。
「ニーナーー?ボク言ったよね?突っ走るとトラップひっかけるって。」
俺以上にブチギレてるベル。説教開始のゴングが鳴った気がした。
「ニナはいつもそうだ。ボクの忠告を聞いてんのか聞いてないんだか知らないけど突っ走ってパーティに迷惑をかけて反省の色も見せない。キミは何がしたいんだ?」
「…むぅ〜、そんな怒んなくなってよくない?ベルたゆのケチ!」
頬を目いっぱい膨らませ、怒るニナ。
「はい、そこまで。」
瓦礫の山から飛び降りて歩いてきたシエルが2人の間に割って入る。
「一応、救出対象者が目の前にいるの忘れないで。今仕事中、喧嘩はあとあと。」
淡々と喧嘩の仲裁をするシエル。
「…ふふ。」
いつも通りのやり取りをしていると、笑う声がした。
「ん?そんなに面白い?」
シエルが声に反応する
「ふふ、あの『始まりの軌跡』のパーティがこんなにユニークだとは思わなくて、えっと、なんというか新鮮だなって」
笑う、アカリさん
「なんか、楽しそうでよかったね。」
シエルが返す。その声色に優しさは感じられない。
「あ、えっと!ごめんなさい、『始まりの軌跡』のパーティのみなさんにこんなこと言って…!」
「別にアタシたちは気にしないけどなぁ」
「気にしないのはニナだけでしょ…と言いたいとこだけどボクも同感だよ。別にそんな細かいこと気にする奴はこのパーティに入れない。」
さっきまで怒っていた反面、ニナに同感という事実が少し気に食わない様子のベル。
「そうか?」
俺はシンプルに疑問で言葉が出た。
「うん、そうだよ。第一私もそんなこと気にしないし、ヒロもそうでしょ?」
シエルに問われる
「まぁ…そんなこと気にするだけ無駄だからな。」
そんな細かいこといちいち気にしても無駄だしな。とか考えてたら彼らの考えが正しいことがわかる。
「んー、お話もいいけどそろそろ外出ない?ダンジョン内だといつ異生物に襲われるかわかったもんじゃないし。」
唐突に正論が投げ込まれる。たしかに異生物に襲われる危険性が高いしなによりこの薄暗い地下に居続けるといずれ酸素濃度のせいで死ぬ気がする。
「じゃー地上にむかってレッツゴー!」
「ちなみにシエル、道はわかるのかい?」
ベルが尋ねる
「いや全然。床壊してショートカットしたからよくわかんない。」
「「「え」」」
「は?」
絶句。
「いやだから、道壊したからわかんないって。」
再度シエルが話す。
「2回も言わんでいいわ。マジかよ…。」
「…とりあえず、地図確認して外に出ようか……。」
明らかにウンザリしてるベルの提案でピニオールパスを出した。
「あ、ここ地下二層なんだ。」
シエルが驚きの発見をしたかのような声色を発する。怖いよ
「あー…んでこれがこうなって……ふーん、おk。道わかったよ」
「こっからおさらば出来るってわけか。今日はやけに長かった気がするな…。」
俺は体を縦に伸ばす
「ニナがはっちゃけなければさっさと終わった話だろうけどね」
ベルが毒を吐く。なんか今日当たり強くね?疲れてんのかな
「でもでもアタシ結局アカリン見つけたよ!?えむぶいぴーだから!」
「…あははっ」
笑い始めるアカリさん。もしかしてこの人もゲラか?
「…もう、早く行くよ。」
歩き出したシエル。
「待って、シエル」
その後ろを着いていくベル
「ねー2人早い!あ、アカリンはアタシと手繋ごうね」
アカリさんの手を取り走るニナ。
てんやわんやな彼らを見て、俺の頬が緩むのを感じた。
「あいつら、元気だな」
そう呟いて、俺も後を追った。
くじらのはらです。とうとうベルの聖遺物出ましたね
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