10.『ピザとゲームと日曜日:2』
「お金……私のお金が…………」
ピザとジュースとサイドメニューをしこたま頼みまくった結果、シエルだけでは抱えきれない大荷物となって商品が届いた。
「誰……私の栄一を柴三郎に変えたのは……」
値段を見ずにポチポチとカートに好きなだけ商品を入れまくり、その値段は1万弱にまでなった。4人分とはこれ如何に。
「ま、まぁシエル。ボクも半分支払うから……ね?大丈夫だよ」
ベルの中では励ましているつもりなのだろうが多分そういうことじゃない。
「ベル、そういう話じゃないんだよ……。喪った私の栄一さんは帰ってこないの……」
まぁそりゃその反応になるわな、と思いつつもいつまでもウジウジとされていたら飯が不味くなる。
そもそもまだ手もつけていない美味しい美味しいピザは冷めるばかりだ。
美味しいものが美味しくなくなるのは少しばかり癇に障るせいでうっかり口を挟んでしまった。
「なぁシエル、そんなに悲観的で居続けたらせっかくのピザが台無しだろ。」
「でもさぁ」
「でもじゃない」
なにか言おうとしたシエルの言葉を遮る。美味い飯は美味い、美味い時に食わないでどうするんだ。
「……わかったよぉ」
シエルは口をとがらせて渋々了承した。俺の勝ち。
「じゃあ気を取り直して、コップにジュース注ごー!」
仕切り直したのはニナだった。最年少に気を使わせる大人3人はヤバいのかもしれない。
大前提我が家には食器が少ない。俺が一番くじで当てたタンブラーと適当な皿や箸以外はなかったはず……。
なのに、なのにシエル達は勝手に俺の家に箸やら皿やらコップやらを置きやがった。食洗機を我が家へ導入した時はさすがに目を疑った。
人の家を別荘かなにかだと勘違いしてるであろう3人は各々勝手に棚を開けて皿やらコップやらを運んでいる。
俺はその様子をボケっと観察しながら最近の不可思議な出来事に思いを馳せる。
─ペル・N・スパーコナ。
彼女は何者なのだろうか。そもそも気絶しただけであんな人間ではないような容姿のヒトと会って話して、それで完結せずまた昨日も……。
しかも俺のことを元の世界に返すとか言ってたし、あの奇妙な魔法陣。おおよそアニメでしか見ない光景が目の前で起こって……。
「……ロ……ヒロ!!!」
「うぉ、びっくりした」
ぐるぐると思考を巡らせていたらいつの間にか準備は終わっていたようだ。ご丁寧に俺のタンブラーにもコーラがなみなみに注がれている。
「もー!ヒロちーボーっとしてちゃダメっ!」
「トモヒロが物思いに耽っている間にボク達で準備は終わらせたからね」
ニナからお叱りを受け、ベルから説明を受ける。これは甘んじて受け入れる他ないな。
「まぁまぁ、ヒロもたまには考え事したい日もあるだろうね。ひとまずみんなー!」
シエルが音頭を取る。
「「「「かんぱーい!!!!」」」」
乾杯の勢いのままごくごくと喉を鳴らしコーラを呷る。
炭酸が口、喉で弾ける感覚が心地よい。甘さと多少のカフェインで疲れた脳にも栄養が行き渡る感覚。
─美味い。
やはりコーラは神が生み出した飲み物の中でダントツに美味い。だが、今回のメインはコーラではない。
"ピザ"
トロトロに焼けたチーズ、トマトソースの酸味、バジルやその他具材で纏め上げられた至高の逸品。
俺はまず最初にマルゲリータに手を伸ばした。
円形から1ピース取ってみるとチーズが長く長く伸びる。
ニナは「お〜!!」と歓喜の声を上げている。
1口かぶりつくと熱さで口内が焼けそうになるが、ハフハフと口の中で熱さを逃しているとだんだんとトマトの味とモッツァレラチーズ、バジルの風味が混ざりあって口内を満たしていく。
それと共に心まで満たされる感覚、最高だ。
熱くなった口内をコーラで冷やす。タンブラーを傾ける時、氷がカランとなるのがまた良い。
「ヒロ、ほんと幸せそうにご飯食べるよね」
私はヒロを見て微笑む。
「そうだね、トモヒロは食事の時は無我夢中で食べ進めるから見てて楽しいよ」
ベルもヒロを見て笑う。
可愛らしいんだよね、ヒロの行動は。
子供に対して可愛いと思うような感情に近いのか、はたまた犬猫に対するそれなのかはわからないけど、なんとなく愛おしく感じる。
幼馴染で、ずっと一緒にいたからなのだろうか。
それとも、あの時助けてくれたからだろうか。
ずっと私のことを見ていてくれるからだろうか。
─わからない。
答えを出そうと思えば出せる気もするけれど、今それを出すのは違う気もする。
心がモヤモヤとする、なぜだろう。
この解を出したくて仕方がなくなる。
─でも、楽しい食事の場でこんなことを考えるのは無粋かな。
なんとなく思って、考えることをやめた。
くじらのはらです。最高に遅くなって申し訳ないです。
シエルの湿度が高い。
Twitter:@kujirrrranohara




