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9.『ピザとゲームと日曜日:1』

麺を啜る。冷えた麺が喉を通り、冷えた体を余計冷やす。心までも冷えそうで嫌になる。


何度か麺を口に運んでいると、机に無造作に置いていたスマートフォンの画面が点いた。


スマホに目をやると、MINEから1件のメッセージが入っている。


どうせ公式MINEだ。既読をつけるのも面倒だが、通知に居座られ続けるよりマシだろう。


スマホを持ち上げ、軽やかな動作でパスワードを打ち込む。画面が開くとそこにはメッセージアプリの右上に1という数字が表示されていた。


出〇館か、マクド〇ルドか。


予想しながら、アプリのアイコンをタップし開く。どの予想もハズレだった。画面にはシエルからメッセージが1件と表示されている。


"遅くにごめん!明日暇だよね?"


こんな時間に遠慮なしに送ってくるのか、と呆れた気持ちが湧き上がる。だがもう慣れたものだ。

指を動かして文字を入力する。送信ボタンを押し返事をした。


"暇だけど。また買い物か?"


1分も経たないうちにスマホがまた点る


"暇なのね、了解!明日10時に家行くね!"


早朝に上司が自宅に来ることが決定した。休みの日くらいは休ませろ。そう考えながら冷えた麺をかき込んだ。




「おっはよ〜!ヒロ元気ー!?」


ドアを開けた途端に聞こえる明るすぎる声に頭が痛くなった。

だがそんな頭痛すらも吹っ飛ぶ光景で俺は目眩すらおぼえた。


「ヒロちー昨日ぶりだね!」

「お邪魔するね、トモヒロ」


ニコニコとしながら明るいトーンでそう告げる悪魔ども。

ニナとベルも、何故か俺の家の前に立っていた。




「言っておくけど、なんも出てこねぇぞ。」


多少の苛立ちを胸に抱きつつ、俺は来訪者であるシエル一行に告げる。


「おかまいなく。」


ベルが返事をする。明るく返されるのすら腹が立つ。


今日は日曜日のはずだ。普段通りならこの時間は惰眠を貪るかソシャゲをしているはず、なのに。

ワイワイと楽しそうに談笑するシエル一行。こいつらはなんの目的があって俺の家に来たんだ。怒りと疑問が募っていく。


「あ、そうそう。来た目的教えないとヒロに追い返されちゃうね。」


唐突にシエルが切り出した。今俺が1番気になっていることを察知し話題にあげるところはさすが幼馴染といったところだ。


「今日はみんなでゲームをするよ!いぇ〜い!」


シエルがハイテンションで告げる。

最っ高にわけがわからない。いぇ〜いじゃない。


「どんどんぱふぱふ〜!」


続いてニナが乗り出す。どんどんぱふぱふじゃない。

なんでうちなんだ他でやれ。


「朝から乗り込むのはどうかと思って一応止めはしたんだけど…聞かなくて。ごめんね、トモヒロ」


申し訳なさそうにベルは話すが、満更でもなさそうな様子だ。

あと止めきれよ。一応ってなんだもうちょい頑張ってくれよ。


「てことなんだけど、ヒロももちろん遊ぶよね」


シエルから有無を言わさぬような圧力がかかる。

なんとなく部屋の温度が下がった気がするのは気のせいなのだろう。


今日こそは言おう、お前のわがままには付き合えないと。


「……スゥー。はい、やります」


深呼吸をして、冷静に口から言葉を出す。

出した結果、間違えた。


シエルが持ち込んだのはSw〇tch2とカセット。

我が家のWiFiに接続済なのがなんか癪に障る。


「ねぇシエルぴ、これはどんなゲーム?」


ニナが1つのカセットを指さしながら不思議そうシエルへ問う。


「あー、これね。大〇闘スマッ〇ュブラザーズ。通称スマ〇ラ。格闘ゲームって言ってプレイヤー同士でボコボコに殴りあって最後まで生き残るゲームだよ。」


「おぉ〜、面白そうっ!」

興味深く話を聞いていたニナの目がキラキラと輝いていく。

1つ目のゲームは決まったようだ。


男女4人、大きくも小さくもないテレビモニターを真剣に見つめる。ただ手元のコントローラーを操作しキャラクターを動かす。

静かな部屋の中をゲーム音とカチャカチャとなるコントローラーの音だけがこだましている。


"GAME SET"


「また負けたぁー!」


シエルの悔しがる声が先程まで静かだった部屋に響き渡る。


「ヒロちーナイスっ!3連勝だよ!!」


ニナの歓喜の声があがる。



「やっぱりトモヒロは強いね。ゲームでも開拓でも」


ベルはうんうんと頷きながら感心したように話す。


ニナは未経験だったため、ニナと俺、シエルとベルでチーム乱闘をすることになった。

ついでに2勝したチームには昼飯が贈呈されるというルール付き。


未経験者と組むのは初めてだったが実力的にもバランスが取れるだろうとふんでこのチーム分けだったのだが。


気がつけば圧勝だった。


予想はできていた。ニートの俺が出来る事といったらゲームのみ。

気づけばパーティ内で右に出る者はいないほどの実力を身につけていた。


「シエル、ベル。約束通り昼飯奢りな」


俺は感謝の気持ちを込めつつ、シエルとベルに負けの事実を突きつける。

我ながら酷いことをしているかもしれないと思う。だが、勝負は勝負だ、仕方がない。


「えぇー、もう1回!今度は勝つ!」


シエルは大人気ないくらい駄々をこねる。タイマンだったら負けないと言わんばかりだが、何度やっても同じだろう。

なんかもう1周まわって面白くなってきた。

受けて立とうとした時、ベルが口を開く。


「シエル、もう3回負けたんだから大人しく昼ご飯を奢ろう。」


シエルとは相反するベル。落ち着いて負けを認めている潔さがカッコ良い。

俺も負けたらシエルと同じ反応をする自信しかないため凄く羨ましい。


「まぁそろそろお昼時だし……。しょうがない、うん……。何頼む?」

シエルは不満の色を顔に浮かばせながら、口をとがらせてこちらへ問いかける。

買ったら頼んでやろうと思っていたものがあるのだ。


「ピザ、3枚」


俺は誇らしげに告げる。

そう、ピザ。

そもそもシエルたちが大人数で押しかけておいて昼の用意もしなかったのが悪い。シェアもできるしいい事づくめだ。

俺はニヤけが止まらない。


「えぇ、たっか。嫌なんだけど」


軽蔑なのか恨みなのかよくわからない表情をするシエル。明らかに声からは不満が1000%漏れ出ている。ダダ漏れどころの騒ぎではない。


「そもそも3枚も食べる?食べれる?」


シエルが問う。週3でマック行くやつが何言ってんだ、とツッコミそうになるが後々ダルくなりそうなのでやめる。


「4人もいれば余裕だろ。大丈夫大丈夫」


俺は今の状況が楽しすぎて声から漏れ出る喜びが隠しきれていない。


「……シエル、諦めよう。この状態のトモヒロに何言っても無駄だよ。2人で折半すればそんなに値は張らないし。」


とうとうベルが陥落した。こうなればもうこっちのもんだ。

これから届くピザに思いを馳せながら行く末を見届ける。


「……そうだね、一旦私が全部払うからベル後で半分お金出して」


「わかったよ。ニナもピザでいいかい?」


今更すぎる確認をニナにとる。


「うん、大丈夫だよ」


生返事が帰ってくる。これはきっと何かわかっていない時の反応だ。

ベルも理解したようで、シエルのスマホに表示されるピザを選び始めた。


俺もニナもシエルのスマホを覗き込み、ピザを選ぶ。


結局、Lサイズが3枚とサイドメニューがいくつか、ドリンクが4つ届くことになった。


「値段見たくないよ……いやだぁ……。」


ワクワクしながらピザを待つ3人の中で、1人絶望の声を上げるシエル。

英雄とはここまでピザを嫌うのだろうか、いや値段を気にかけているだけなのだが。


あまりにも情けなく、頼りなさすぎる英雄の姿がなんとも滑稽だ。


いつまでも注文ボタンを押さないシエルに痺れを切らした俺は注文ボタンを押そうとする。


「待って!私が押すから!ヒロはダメ!」


静止がかかる。さすがに俺もそこまで鬼ではない、ボタンを押そうとする手を下ろした。


意を決したような表情で、シエルは注文ボタンを押す。

"注文を受け付けました。しばらくお待ちください。"

という文字が表示される。


シエルの手が震えていたのは見なかったことにしよう。ピザ楽しみだ。

くじらのはらです。Lサイズ3枚は多いだろ。

更新遅くなって申し訳ございません。

よろしければブクマお願いします。

Twitter:@kujirrrranohara

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