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第1話 私はいらない子

 お姉ちゃんの名前は結愛(ゆめ)

 〝パパとママの愛が実って生まれてきてくれた、夢にまで見た赤ちゃん〟だから。

 弟の名前は(のぞむ)

 〝パパとママが熱烈に望んでできた、待望の男の子〟だから。


 私の名前は二子(にこ)……〝二月生まれで二番目の女の子〟だから。


 もう名前からしていらない子。


 お姉ちゃんはいつも綺麗なお洋服を着ていた。私はいつもお姉ちゃんのお古で、自分のお洋服を一着も買ってもらったことがない。

 私はおもちゃを一個も持っていなかったけど、お姉ちゃんは新しいおもちゃを買ってもらっていつも笑っていた。


 お姉ちゃんはかわいくてちょっとやんちゃで、キラキラしたおもちゃのステッキを振り回して私を殴っても全然注意されなかった。


 二つ違いで生まれてきた弟も、パパとママに可愛がられていた。

 一生懸命一人で勉強して、小学校の先生に学力の太鼓判をもらって、資料も全部自分でそろえてパパとママにお願いした私の中学受験は、資料を見ることもなく「無駄」だし「駄目」だと言ったのに、弟は私立の小学校にいっぱいお金をかけて進学していた。


 私立の小学校に進学するお友達と離れるのが嫌だって弟が泣いたから。

 まだ子供なのに悲しい思いをするのはかわいそうなんだって、パパとママはそう言った。


 お姉ちゃんはピアノとバレエと英会話教室、弟はスイミングと英会話教室とサッカークラブに通っていて、ママはいつも二人の習い事の送り迎えで忙しかった。


 私はその間、だいたい独りでお菓子のパンを食べて待っている。

 お菓子パンは好き。甘くて、だいたいどこででも買えるから。


 習い事の発表会や試合には、私以外の家族みんなで見に行くのが習慣だ。

 だからお姉ちゃんのバレエの発表会があったその日は、日曜日だけれど朝から家には誰もいなかった。


 私は昨日の夜から三十八度以上の熱があった。

 でも家の中には風邪のときに飲むと良いよと保健室の先生が教えてくれた薬もスポーツドリンクもなかったから、仕方なく近所のドラッグストアまで買いに行った。


 なんとかお会計を終えて帰ろうとしたときに、お店の駐車場で女子高校生とすれ違う。私が熱でフラフラしていたから、彼女が持っていたテニスラケットにぶつかってしまった。


 倒れそうになったところを支えてもらう。迷惑をかけてしまったことを謝罪をしようと思ったら、それが私たちの足元に現れた。


 異世界から聖女を呼ぶための転移魔法陣。


 足元からの強烈な光に目を閉じて、ふわりとした浮遊感の少しあとで、目を開けたら異世界だった。


 結論からいえば、私は聖女ではなかった。


 異世界のとある王国が、魔物とそれを発生させる邪気から国を守る結界を修復するために地球から呼んだのは、女子高生の聖月(みづき)さんのほうだった。


 そうだよねって思った。

 もう名前からして、だよねって。

 聖女が二子って名前はないよねって、思った。


 どちらが聖女かを鑑定するために急きょ呼ばれた魔術軍の支援術師団長と王太子殿下が、「いつ日本に帰れますか」と聞いた聖月さんに「帰れない」と気まずそうに答えていた。


 聖月さんは日本に帰れなくて泣いていた。


 お父さんとお母さんとお兄ちゃんとおじいちゃんとおばあちゃんと飼い犬のラッキーにもう二度と会えない。友達とは来週、楽しみにしてた映画を見に行くって約束したのに、って。

 今日はテニスの試合だったのに。試合に勝てたら試合前の食事制限のために我慢していたケーキを食べようと思ってたのにと、泣いた。


 日本に残してきた愛する人たちと、きらめいていた日常生活に二度と戻れないことを聖月さんは嘆いていた。


 私も泣いた。

 戻らない日常や、二度と会えない家族のために泣いたんじゃない。


 結局この世界でも私はいらない子なのだとわかったから、泣いた。

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― 新着の感想 ―
薬剤師さんがいるなら大丈夫です。唯一般的なコンビニに薬剤師さんはいないのでコンビニで薬?と思ってしまいました。私の住んでいる所だと薬=ドラッグストアなので
風邪薬はコンビニでは買えません。一部のドリンク剤は買えるけど
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