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第一部 Bad End Route

作者からのお願いです。


この作品は、性行為、犯罪、その他様々な不快要素を含んでおります。

苦手な方は申し訳ありませんが、ページを閉じてください。


また、本作品は犯罪その他を推奨するものではありません。


この物語はフィクションです。

実在の人名、地名、事件その他は現実とは一切関わり合いはありません。

ご了承ください。


前置きが長くなってしまいましたが、本作品が第一部です。

三部構成となっております。


それでは上記を理解された方のみでよろしくお願いします。

夏の暑さを残したまだ熱い9月のある夜。


「貴也さん、ちょっといい?」


久しぶりに二人でとった夕食後の短い時間。

私は夫に声を掛ける。

彼は携帯を閉じて私を見る。


「……どうした?」

「あのね、私赤ちゃんができたの。

もう2ヶ月だって」


結婚してもう3年が経った。

きっと夫も喜んでくれるはず。


だけど夫からの言葉は、私の予想を大きく裏切るものだった。


「……………誰の子?」

「……え?」

「それ、誰との子供?」


もちろんあなた、そう言いかけて言い淀んでしまう。

すべてを見透かしたような冷めた瞳。

態度に大きな変化はないけれど、それが逆に恐怖を覚える。


「…それ…は…あな」

「違うよね?」

「な、なんでそんな事言うの?

なんで素直に喜んでくれないの!?」

「なんでって、そんな事は自分が一番わかってるんじゃないの?」


黙ってしまった私に、彼はさらに追い打ちをかけた。


「よく考えてみて。

だって俺達は、もう半年も会ってなかったんだよ?

そんな事も忘れてしまったの?

それなのに子供ができた?」


次の言葉が出てこない。

頭から冷水をかけられたように体が震える。


(半年、うそ、うそよね。

だって私……)


冷静になって考えれば言われたとおりだ。

私はこの半年、夫ではなくあの男たちに抱かれていたのだから。


〜3月〜


「ねぇ、本当に少しでも顔出せないの?」


久しぶりの高校の同窓会。

全員ではなく有志のみの小さなものだけど、それでも卒業して10年も経てば懐かしさも一入だ。

地元を離れてしまった人が多い中、残っている人たちだけで集まろうと誘われた。


「うん、忙しくて終わる時間がよめないし、何より初めて任された大きなプロジェクトだからね。

できるだけ万全の準備をしておきたいんだ。

それに来るのはほとんど女の子たちなんだろ?

俺の分まで楽しんできてよ。

でも飲みすぎないようにね?」


「えぇ、わかってるわ。

短くても私達の結婚式以来だから、それでも3年か。

会わない人はそれこそ卒業式以来かな?

みんな年とったんだろうな……。

まぁそれは私たちもか」


集合場所は通っていた高校の近くに新しくできたカジュアルな洋食屋さん。

最近は気を抜くことが多かったけれど、今日は久しぶりにお洒落をしよう。


渋滞に巻き込まれてしまったけど、なんとかギリギリ間に合った。

パッと見て分かる人もいれば、誰だかわからない人もいる。


私はとりあえずみんなに挨拶をして、仲の良かった子たちのところに合流する。

時間となり、幹事の子を先頭にお店に入ると、なんとオーナーは同級生の坂梨くんだった。


(なるほど、だからこの店だったのね)


私達の高校は立地が少し不便なこともあって、なぜ繁華街ではないのか不思議だったが納得した。

どうやらお店は貸切にしてくれたらしく、他のお客さんに気を使わなくていいのはありがたい。


乾杯をしてお酒を飲み始めると、昔話に花が咲く。

それが一段落すると、次はみんなの近況の話になる。

私が貴也さんと結婚したのはほとんどの人が知っていた。


「でも咲が御崎くんとくっつくとはねー。

高校時代は御崎くん大人気だったのに、誰かと付き合ったって話聞いたことなかったから驚きだよ」

「ほんとそれ。

しかもT大卒で今は大手商社勤務でしょ?

めっちゃ勝ち組じゃん」

「いやー、ほんと羨ましいわ。

うちの旦那も少しは見習ってほしい」


貴也さんを褒められると嬉しくなる。


「でも仕事すごく忙しそうだよ?

出張だって多いし、午前様なんて当たり前だもの。

休みの日も仕事してるみたいだし、体壊さないか心配で」


「はーー、惚気かよ。

だいたい咲も男子から人気あったのにそういう話なかったよね?」

「あー、そう言えばそうだったかも。

でも御崎咲みさきさきって語呂悪くない?」


そう、それだけが私が結婚する時に感じたコンプレックスだった。

まさかさきが続くなんて……。

まぁそれ以外は幸せだからいいのだけれど。


私は別の人に話を振り、この話を強引に終わらせる。

みんな仕事や家庭、彼氏や旦那のことを話していた。


「おぅ、取り敢えず料理はこんなもんだな。

他に食べたいのがあったら個別で注文してくれ」


ある程度調理をし終えたのか、坂梨くんが席についた。

みんながそれぞれ今日のお礼を伝える。


坂梨くんはちょうど空いていた私の前に座り、ビールを飲み干す。


「高柳…今は御崎か。

久しぶり、元気してた?」

「うん、まぁぼちぼちね。

坂梨くんは?」

「あぁ、俺もぼちぼちかな。」


当たり障りのない会話を交わす。

私は実は坂梨くんが苦手なのだ。

高校の時に告白されて断ったこともあるが、調子が良すぎると言うか何を考えているのかわからないと言うか…。


まぁ今日見た彼は真面目に働いているようだし、今さら昔のことを掘り返すこともない。

実際料理は美味しかったし、昔のチャラさも無くなっているように見える。


近くの数人で料理の感想等を話していると、携帯が鳴った。

確認したら、貴也さんから少しトラブルがあって、今夜は帰れなさそうとのことだった。

ため息を吐きつつ携帯を鞄にしまうと、そこを見られていたのか声をかけられた。


「浮かない顔してるけど何かあった?」

「いえ、たいした事じゃないの」

「えー、なになに、何の話?」

「いや、御崎がため息ついてたからどうしたのって」

「え?咲、どうしたの?」

「ほんとにたいしたことじゃないのよ。

貴也さんから今日は帰れなくなったって連絡がきて。

なにかトラブルがあったらしいの。

最近ずっと忙しかったから体が心配でね」

「あー、仕事できる人は大変だねぇ」

「でも忙しくても二人の時間は作ってくれるから余計心配でね。

ほんとはゆっくり休んでほしいんだけど、二人で居られるのは私も嬉しくてつい甘えちゃって」

「あー、また惚気かよ!

はいはいごちそうさま!」


惚気と言われるとその通りかもしれないが、心配なのも本当なのだ。

特にここ最近は睡眠時間もまともに取れていないと思う。


「じゃあ御崎はその間ずっと家に一人でいるの?」

「まぁ家のこととかしてるしね。

家で一人でも何かとやることはあるのよ」


その後は席を変わりながらおしゃべりに花を咲かせた。

時刻も夜9時近くになり、場はお開きになる。

何人かは家のことがあるので帰ると言ったので、私もそれに倣う。


「えー、咲はいいじゃん!

もう一軒行こうよー。

どうせ帰っても一人でしょ?」

「そうそう、旦那さん帰ってこないなら今夜くらい羽伸ばしても叱られないって!」

「ねー。

それに私も今の彼氏と結婚するか悩んでるから、経験者に相談乗ってほしいしー」


友達たちにそう言われてしまってはなかなか断りづらい。

それに10年ぶりに会う友人たちともう少し話もしたかった。


「んー、じゃあもう少しだけ付き合うね。

でもほんとに少しだけだよ?」

「おー、さすが咲!」


帰る人達と別れを告げ、坂梨くんの知り合いがやっているというバーに移動する。

お店は大丈夫なのかと思ったが、この時間からこんなところまで来る人は普段から少ないらしい。

それに自分も飲み足りないし話足りないとのことだった。


まぁそれもそうだろう。

ほとんどの時間厨房で働いていたのだし、配膳はバイトの子がしていたのでゆっくりできる時間はなかったはずだ。


2台のタクシーでバーに向かう。

その間に私は貴也さんに2軒目に行くとメッセージを送った。

暫く待っても既読がつかないので、余程忙しいのだろう。


バーは静かで雰囲気のいい店だった。

他にお客さんはいないようで、これなら少しくらい騒がしくても迷惑にはならないだろう。


6人での昔話は大いに盛り上がった。

誰と誰が付き合っていたとか、誰が誰に振られたとか等の淡い恋の話。

そんな中で一人の友人がとんでもないことを言いだした。


「そういえば坂梨って咲に告ってなかった?」


正直やめてほしいと思う。

当事者二人がこの場にいるのに、なぜそんな話題を振るのかと。


「おー、忘れられてなかったか。

高3だったか?

あっけなく振られたけどな」


気まずい私を他所に、彼はあっけらかんと答える。

その後もその話が続きそうだったので、


「ちょっと、もうやめてよ」


と私は話を制した。

ゴメンゴメンと言いながら席を離れる坂梨くん。

どうやらオーナーさんのところに行くらしい。


ほっと息をつくと、話を振った子に


「ごめん、ちょっと酔っ払いすぎちゃったかも」


と謝られる。

私もこれ以上しないならいいよと伝え、二人で乾杯をした。


どれくらい時間が経っただろう。

一人は完全に酔いつぶれて寝ている。

私はセーブしながら飲んだつもりだけど、懐かしい話を肴に思っているよりも飲んでしまったらしい。


混んでいたのかタクシーがなかなか捕まらず、仕方ないので数人ずつ相乗りで帰ることになった。

私と同じ車に乗るのは女の子一人と坂梨くん。


タクシーで少し走ったところで一人目の女の子の家につき彼女は降りていった。

距離的に次は私の家。

私は途中から朦朧とする意識をなんとか繋ぎ止める。


それが私の家に向かう道ではないことに気が付かないまま。





熱い体が私を包む。

久しく忘れていた熱に私は酔いしれる。


(貴也さん、好き、貴也さん……)


お酒の影響もあったのか、私はその快感に身を委ねた。


「おい、そろそろ目を覚ませよ」


貴也さんとは違う声に意識が急に覚醒する。

私を抱いているのは、あろうことか愛する夫ではなかった。


思わず突き飛ばそうとするが力が全く入らない。

激しい吐き気と割れるような頭痛を堪えつつ、私は声を出すことしかできない。


「な、なにしてんの!」

「なにって、ガキじゃねぇんだ、わかってんだろ?

それに今の今までよがり狂ってたやつが言うセリフじゃねぇよな」

「こ、こんな事して、どうなるかわかってんでしょうね!」

「なんだ、俺が無理矢理ヤッてると思ってんのか?

お前も同意の上だぜ?

ちゃんと動画でも撮ってあるし。

見たい?」

「私が同意なんてするわけ無いでしょ!

それに動画って何よ!消しなさい!」


必死で暴れる私は力ずくで抑え込まれる。

もとより組み敷かれている私に抵抗できる余地などない。


「まぁ落ち着けって。

もうすぐでるからよ」


そう言うと坂梨は腰を荒く振り出した。

私はイヤ!やめて!と言葉で抗うことしかできなかった。


お腹の中がヤツの吐き出したモノでいっぱいになる。

私はその事に絶望し、抵抗する気力さえ失ってしまった。


カシャッ、カシャッという音がする方を見ると、下卑た顔を向けた坂梨が私の肢体を写真に収めている。


「……な…に…を」

「あぁ、お前は寝てたから知らないだろうけど、もうこれで3回目だ。

そろそろ携帯のメモリがお前の裸で埋まりそうだよ。

もしかして孕んだんじゃねぇの?」


はらんだ、その言葉にゾッとする。

貴也さんとの子供のために、妊活はずっと続けていたのだ。

今日が危険日というわけではないが、決して安全ではない。


私は四つん這いでお風呂場に向かう。

体は重すぎて動かないが、じっとしてはいられなかった。


後ろで坂梨が何か言っているがどうでもいい。

体が動くなら、今すぐにでも殺してやりたい。

だけど今はそれどころではない。


シャワーを直接秘所にあて、なんとか洗い流す。

どこまで効果があるかはわからないが、何もせずにはいられなかった。


どれだけそうしていただろう。

浴室のドアが開き、相変わらず下卑た笑顔を見せる坂梨が入ってくる。


「これ、なーんだ?」


その手にはビニールの小袋に入った白い錠剤のようなもの。


「まぁわかんねぇか。

これ、アフターピル。

ほしい?」


その言葉の意味を理解した私は裸で掴みかかる。

相手もその行動は予測していたのか、掴みかかった私を逆に羽交い締めにし、恐ろしいことを言いだした。


「そんなに慌てなくてもちゃんとやるって。

でも俺の言うこと聞いてくれたらな?」

「うるさい!はやくわたせ!」

「そんなこと言っていいの?

潰して排水口に捨てちゃうよ?

これ一個しかないんだぜ?」


この一個のみ。

そう言われて思わず動きが止まってしまった。


「そうそう、分かればいいんだよ」


そう言いながら小袋をひらひらとさせる。


「……それで、条件は?」

「俺のものになると誓え」

「………は?」

「だから、お前は俺のものになると今ここで誓え。

そしたらこの薬はやる。

このままお前も返してやる」


どこまで汚い男だろうか。

だけど今の私に抵抗できるすべがない。

少しだけ冷静になった頭を無理矢理回転させる。


おそらくここはラブホテルだ。

そうなるとドアの鍵はフロントに連絡しない限り開けることはできない。

警察に連絡したとしても、到着するまでの間、目の前のコイツが大人しくしているはずはない。

おそらく撮影した画像をネットにばら撒く気だろう。


そして何よりも厄介なのは、私の携帯電話がヤツの手にあることだ。

ここまでする男が保険をかけていないはずがない。

私の指紋でも何でも使ってロックを解除し、貴也さんの連絡先は抑えられているはず。

私は今の今まで眠っていたのだ、それくらいのことは簡単にできる。


もし連絡先を知らなかったとしても、貴也さんの会社は知られている。

最悪の場合無差別に会社にでも送られる事があれば、それこそおしまいだ。


「わかったみたいだな?

お前が我慢すれば御崎のヤツも知らないまま終わる。

ここでお前が黙って言う通りにすれば、お前たちは今まで通り生活できる。

だけどここでお前が拒否すれば……お前の想像通り写真はバラ撒かれる。

俺はどっちでもいいぜ?

みんなに自分を見てほしいならボタン一つだしな」


私はこの後のことを混乱した頭で天秤にかける。

このまま平穏に暮らすか、周囲の視線に晒されながら過ごすのか。

比べるまでもない。

頭を下げながら弱々しく呟いた。


「……私を…あんたの好きにしてください……」


ここが地獄だと思っていた。

家に帰る時は死にたいと思った。

これから起こりうることが浮かんでくる。

どう考えてもこれで終わりなはずかない。


帰り着いても何もする気力がない。

洗濯物がないから貴也さんは会社からまだ帰ってきてないのだろう。

だけど夕方か、遅くとも夜には帰ってくるはずだ。


(どんな顔をして会えばいいの…)


正直に伝える?

いや、それはできない。

せっかくここまで順調に出世してきたのだ。

私の過ちで足を引っ張るわけにはいかない。


(だけど、どうすれば……)


答えなんて見つかるはずもなく、時間だけが無情に過ぎていく。

結局私は、貴也さんに何も伝えることができず、気分が悪くて先に休むね、とだけ伝え逃げてしまった。


そしてそこからが本当の地獄の始まりだった。

お昼ごろ、あられもない姿の私の写真が送信されてきた。

それも、貴也さんの写真とともに。


どこからか隠し撮りしているのだろう。

食事をしているところや車を運転している所。

なかにはどうやって撮っているのか、会議中らしいものまであった。


そして短い一言がついている。

『〇〇時に〇〇で』と。

要するにいつでも教えてやると言いたいのだろう。


私は黙ってそれに従った。

貴也さんのスケジュールを教えることを強要され、出張の日は無理矢理泊まらされた。

帰りの遅くなる日は、ギリギリまで犯された。

そして毎回、終わる時にあの言葉を強制させられた。


そんな日が一月ひとつき二月ふたつきと続き、三カ月も過ぎた頃、私の中には自分でも理解できない感情が生まれていた。

狂いそうなほどの嫌悪感は徐々に好意へと変わり、押し潰されそうだった罪悪感は快感へと変化した。


或いはそれは自己防衛の一種だったのかもしれない。

だけどボロボロに壊れていた私の心と体は、それを自然と受け入れてしまった。


私の彼に対する呼び方にも変化が現れていて、坂梨と呼んでいたのが坂梨さんになり、いつの間にか康之さんと呼ぶようになっていた。

彼はそれを当然のように受け入れ、私のことを咲と呼ぶようになった。


事後に血が滲むほど体を洗うことはなくなっていた。

嘔吐もしなくなった。

一時は見る事すらできなかった自分の顔も、今では普通に見ることができる。


私達はそれからも毎日のように体を重ねた。

それは彼の家やお店、ホテルや車の中。

夫が出張でいない時は私の家でも抱かれた。


彼は激しく、乱暴に、時に優しく私を犯し続ける。

特に私たち夫婦の寝室でする時は悦んだ。

まるでそこにはいない夫に見せつけるかのように。


そんなことを繰り返していると、私はついに子供を孕んでしまった。

ピルを渡されて飲んでいたにも関わらずだ。


いや、それすら実は嘘だったのかもしれない。

私は彼に言われるがままピルと言われたものを飲んでいただけだったのだから。


それを彼に伝えたら、夫に抱かれるよう命令された。

避妊はするな、無理矢理でもヤレと。

私はどうすればいいのかわからなかった。


抱いてくれと言えば、優しい夫は私を抱いてくれるだろう。

だけど今さら、どんな顔をして誘えばいいのかわからない。

こんな体になってしまった私を、夫は抱いてくれるだろうかという不安もあった。


昼間に散々彼に抱かれた後、私は体をきれいにしてから珍しく早めに帰ってきた夫をベッドに誘った。

だけど、疲れてるからの一言で断られてしまう。


翌日も、その翌日も答えは同じだった。

腹も立ったが、言われたことが出来ていないことが怖かった。


私はその事を正直に伝えた。

彼は夫が寝ている時にでも自分から襲えと言ってきたが、夫は急な出張で今日から暫く帰ってこない。


彼は舌打ちし、お店から出ていってしまう。

残された私はどうすることもできず、せめてアルバイトの子が来る前にと店を去った。


それから数日、彼からの連絡はこなかった。

毎日のように抱かれていたのに、突然連絡が来なくなると不安にかられてしまう。

私から連絡をしても返事はない。

夫にも連絡してみたが、あと10日ほどで帰れるとのことだった。


数カ月ぶりの一人の時間。

昨日までは当たり前のように抱かれていた人は連絡が取れず、この身を犠牲にして守ったはずの夫もいない。

私は何もする気になれず、ただ寝て過ごしていた。


連絡がきたのはそれから3日後。

彼から今日の午後1時に彼の家に来るよう言われた。

その日を待ちわびていた私は即返信し、ここ数日サボっていた化粧をし、着ていく服を選ぶ。


以前のような清楚な下着ではなく、彼が好きなかなり際どい下着を身に着ける。

タクシーに乗り時間より少し前に彼の家についた。

いつ見ても立派なマンションだ。


彼の父親が買ってくれたらしく、家賃は自分では払っていないらしい。

ここでも何度も抱かれたが、それを思い返すとつい身体が熱を帯びてしまう。


インターフォンを押し、到着したことを告げるとオートロックが開く。

彼の部屋にいくと、鍵は開いていた。


ウキウキと部屋に入ると、彼は何故かリビングで正座をしていた。

ソファーには見知らぬ男が二人。


どうしたのかと思ったら、突然彼が泣きついてきた。

彼が言うには、お店を作る時にそれなりの借金をしてしまい、返済が間に合わなくなってきた。

別の所からお金を借りて回していたが、ついにヤバいところからしか借りれなくなってしまった。

もう返済期限を過ぎているが、返す宛はない。

なので助けてほしい、と。


助けたいのは山々だが、私にそんなお金はない。

夫の貯金はあるが、それに手を出せるはずもなく、だからといって実家に頼るわけにもいかない。

彼も実家にこの事が知られたら家も店も、私も失ってしまうと言う。


突然の事態に混乱した私に、ソファーにドンと座っている男が声をかける。


「なぁ、ねえちゃん。

あんたが儂らの相手をチョロっとしてくれるんなら、返済を一週間待ってやる。

いや、無理にとは言わんぞ?

ただコイツが海に沈むか山に埋まるかだけの話だからな。

まぁあんたも訳ありだろ?

こんなやつのためにわざわざ危ない橋渡ることも無い」


彼が涙を浮かべて私を見る。


「………わかり……ました」


……私は彼を見捨てることができなかった。

泣きながらしがみついてくる彼を宥め、


「ただ、ここでは嫌です。

別の場所でお願いします」


「ホントにいいんか?

まぁ自分で決めたんなら俺らが口出すことでもないわな。

じゃあ、行こうか」


そう言って私は肩を抱かれて外に連れられた。

玄関から振り向いた時、もっとよく見るべきだったんだ。


手で顔を隠した彼の、口元だけが嗤っていたことを。


それから数時間、私は徹底的に犯された。

場所は彼に初めて抱かれたホテル。

相手が二人だと思っていたら、いつの間にか四人になっていた。


私が妊娠しているとわかり、四人は避妊具すらつけなかった。

朦朧とした意識の中で嬲られ、泣き喚き、心と体の全てを破壊された。


おそらく撮影もされていただろう。

奥の方で若い人が私達の方にカメラを向けていた。

だけどもうどうでもよかった。

彼さえ助かるのなら……。


全てが終わった後、枕元には何枚かのお札がおいてあった。

それを無造作に握りしめ、彼のもとに戻る気にもならず呆然と家に帰る。


ここ数ヶ月、夫の姿を見ていない。

微かな記憶では、仕事が忙しくて会社の近くにアパートを借りると言っていた気がする。

たぶん、私のことを知っているんだろう。


どんなに忙しくても、週に一日は必ず私との時間を作ってくれていた人だ。

でもそれも今の私相手では仕方がない。

着の身着のままベッドに座り、気絶するかのように意識を堕とした。


それからも呼び出されては体を開き、渡されたお金をそのまま彼に渡した。

最初は喜んでいた彼も、最近は当然のように受け取りそのままどこかへ消えていく。


もうずっと彼に抱かれていない。

……彼のためにしていることなのに。


その日もまた散々に犯されていたが、途中腹部に激痛がはしった。

陰部から驚くほど流血し、私を犯していた男たちは慌てて救急車を呼んだ。


結果は流産。


当たり前だ。

安定期にもなっていないのに、休む間もなく抱かれ続けていたのだから。


避妊具をつけずにしていたことで病気にもなっていた。

処置をした医者は考えられないと絶句していた。


警察を呼ばれていたらしく、事情聴取をされるらしい。


今さらなんて説明すればいいのか。

必死で守ったはずの夫と彼をどう説明すればいいのかわからず、私は病院から逃げ出した。


お腹はかなり痛かったが、それよりも恐怖の方が強かった。

駆け込んできた私を見て、彼はかなり驚いていた。

彼の顔を見て安心してしまったのか、私はそこで意識を失った。


目が覚めたら私はベッドの上だった。

腕には点滴のような管が繋がっている。

必死に体を起こそうとしたら、知らない人に止められた。


それから5分ほどで彼が入ってきた。

事情を聞いたら意識を失った私を知り合いの部屋に運んで処置をしたらしい。


どう考えても医療法違反だと思うが、今の私はそれすらどうでもよかった。

何しろ彼の無事が確認できて、彼とまた会うことができたのだから。


必死に事情を伝える私を抑え、彼はとんでもないことを言いだした。


「お前、取り敢えず家に戻れ。

抱いて欲しい時には俺んとこくりゃ抱いてやる。

金は……まぁ目処はついたが、また頼むこともあるかもしれねぇ。

俺のためだと思って暫くは辛抱しろ。

返済が終わりゃ結婚してやってもいい。

だがとりあえずはアイツのとこで普通に暮らせ。

もしまたガキができても、今の俺じゃどうしようもねぇ。

そんときゃアイツの子供って言えばアイツも喜ぶだろ。

だからアイツとは絶対にナマでやれ。

俺もナマでやってやるから。

あぁ、他の奴らにはゴム付けさせる。

わかったな?」


あぁ、また抱いてくれるんだ。

もう私はそれだけでいい。

きっと他人は私を見て頭がおかしくなったと思うだろう。

だけどそれすら気にならない。

だって彼から結婚してくれるって言ってくれたのだから。


今さら夫に抱かれることはないと思うけれど、それでも彼が言うのなら仕方ない。

もうきっと夫はあの家には帰ってこないだろう。

私が守ったことも知らず、仕事だからって家にも帰らない夫が悪い。


それから三日間、私はその部屋で過ごした。

薬をどこから手に入れているのかは分からなかったが、おそらく彼の父親が経営している病院からでも貰ってきているのだろう。


だけど私はその三日間がとても幸せだった。

体は自由に動かすことができなかったが、手で、口で、胸で彼を悦ばせる事ができたのだから。


薬が効いたのか、四日目には家に帰ることができるようになった。

まだまだ本調子ではないが、日常生活くらいならできるだろう。

何日ぶりかわからない家は、どこか他人の家のような気持ちになった。


彼から命令されているので、私は毎日夫にメッセージを送る。

夫からは返信はあるが、二言三言ふたことみこと返ってくるだけ。


私は家のことを済ませ、その足で彼に抱かれに行く。

彼は昔と違って寝転んでいるだけだけど、それでも充分だ。

昼間はひたすら彼に抱かれ、夜は家に帰って眠る。

それだけで私の心はかつてないほど安らいだ。


こんな私でも需要はあるらしく、彼のために他の人にも抱かれることもあった。

もちろん彼の言っていた通り避妊具はついている。

彼はお金を受け取ると黙って寝転がる。

私は他の男の匂いを消すかのように激しく彼を求め続けた。


そして私は、また彼の子を宿した。

分かったのは暑さが厳しい8月だった。

きっと喜んでくれると思って報告したが、彼からは淡々と


「じゃあその事をアイツに報告しろ。

アイツともヤッてんだろ?」


と言われてしまった。

今さら会ってないなんて言えるはずもない。

そんな事を言えば彼に捨てられるかもしれない。

それは今さら許容できるはずもない。


「……はい、わかりました」


返事はしたものの困ってしまった。

夫は優しいからきっと喜んでくれるはず。

それにもしダメだったとしても、夫とは別れて彼と結ばれればいいだけのこと。


そう考えると気が楽になってきた。

むしろ彼と結ばれるならバレてもいいかもしれない。

その時に慰謝料を貰えれば彼の借金も無くなるし、私が他の男に抱かれなくても済むようになる。


なんだ、簡単なことじゃないか。

まずはこの子が夫の子供だと認知させて、慰謝料と養育費を貰えれば万事うまくいく。

どうせこの子は彼の子供だし、離婚してから再婚すればいいだけだ。


……今考えても目茶苦茶過ぎる。

だけどこの時の私は本気でそう考えていた。

そんな暴論が通るはずもないし、彼が結婚なんてするわけがないのに。


夫に話したいことがあると連絡した。

少し時間が経ってから分かったと返事が来る。

まずは部屋をきれいにしなければ。

面倒だけど仕方がない。

この家は寝るだけだったので荒れ放題になっている。


翌日の夜に帰って来るそうだから時間はある。

明日は彼に抱いてもらうことはできないかもしれないが、離婚して彼と一緒になれば毎日でも抱いてもらえるはず。


翌日は朝から買い物に行き、夕食の支度をする。

もうどれだけ会っていなかったのかもわからない。

このあいだ会った気もするし、1年前のような気もする。


だけど私達は形式上とはいえ夫婦だ。

短い間会っていなかっただけだろう。

きっと最近色々ありすぎて私が混乱しているだけだ。


夕食はかなり豪華なものになった。

時間をかけて作ったが、夫はほとんど手を付けなかった。

その事にはかなり不満だったが、これが最後の夕食になるかもしれないと思うと我慢できた。


ほとんど捨てることになったが仕方がない。

夫のために作ったものを愛する彼に食べさせるわけにはいかないし、私も食べたくはない。


夫は自分で淹れたコーヒーを飲んで寛いでいる。


(話をするならここかな?)


「貴也さん、ちょっといい?」


久しぶりに呼んだ夫の名前。

ひどく懐かしく感じる。

彼は携帯を閉じて私を見る。


「……どうした?」

「あのね、私赤ちゃんができたの。

もう2ヶ月だって」


あなたの子供ではないけれど……。

そんな事を言えるはずもない。

だけど私のことを大好きな夫は喜んでくれるはず。


だけど夫からの言葉は、私の予想を大きく裏切るものだった。


「……………誰の子?」

「……え?」

「それ、誰との子供?」


もちろんあなた、そう言いかけて言い淀んでしまう。

すべてを見透かしたような冷めた瞳。

態度に大きな変化はないけれど、それが逆に恐怖を覚える。


「…それ…は…あな」

「違うよね?」

「な、なんでそんなこと言うの?

なんで素直に喜んでくれないの!?」

「なんでって、そんな事自分が一番わかってるんじゃないの?」


黙ってしまった私に、彼はさらに追い打ちをかけた。


「よく考えてみて。

だって俺達は、もう半年も会ってなかったんだよ?

そんな事も忘れてしまった?

それなのに子供ができた?」


次の言葉が出てこない。

頭から冷水をかけられたように体が震える。


(半年、うそ、うそよね。

だって私……このあいだも……このあいだ?このあいだって、いつ?)


そこから先、私に発言権などなかった。

夫の鞄から出てきたのは私が彼の家やお店、そして私達の家で睦み合っている数々の証拠。


いつから、なんて聞けるはずもない。

それこそ夫が言う半年以上、私たちは会うことさえしていなかったのだから。


もう何もわからない。

彼と幸せになれると信じていた未来が音を立てて崩れていく。


私と彼に慰謝料を請求?この人は何を言っているのか。

それは私と彼がもらえるものではなかったの?


揃えられた書類と写真、そして離婚届の紙。

離婚は望んでいたが、これは違う。


私は思わず家を飛び出した。

行くところなんて一つしかない。


マンションからちょうど人が出てきたので迷わず入っていく。

不審な目を向けられた気もするが気にしていられない。


エレベーターがひどく鈍く感じる。

だけど目的の階はもうすぐだ。


部屋の鍵は相変わらず開いていた。

部屋の中に入ると、彼は電話中のようだ。


彼の電話を邪魔してしまうと殴られる。

つい数日前もそうだったので、私は息を殺して電話が終わるのを待つ。


誰と話しているのだろうか。

ひどく疲れた声をしている。


「つーかよー、マジダルいわ。

だいたい俺があんなのと本気で結婚するとでも思ってんのかね?

いい加減捨てようと思って一芝居打ったってのに、それでもまだ付き纏いやがる。

いいかげんにしろっつーの。

え、金?

あぁ、そこそこ稼いだぜ。

アイツ俺の言うことなら何でも聞くからさ。

変態親父共が大金出してくれて大儲けだよ。

バカだよな?俺の嘘を信じ込みやがって。

だいたいよ、御崎の女だから手を付けたってのに、別れたらなんの面白みもねえっての。

それなのにガキできたから結婚しろとかありえねーだろ。

あぁ、また無茶苦茶やって流させる予定。

そのあと?

オークションにでもすりゃいいんじゃね?

お前サクラで混じれよ?

あぁ、報酬は弾むぞ。

なんなら先に抱かせてやろうか?

何でもできっからそこそこ楽しめんじゃね?

それよりよ………」


私は最後まで話を聞くことができなかった。

信じていたものはすべて無くなった。


覚えているのはマンションを出て、コンビニ向かったこと。

大きめのカッターナイフを盗み、彼の家に行き、彼を後ろから切りつけた。

逃げ惑う彼を捕まえて数度切りつけ、最後はお腹に差し込んでやった。


そして自分の首にナイフを当てた。


結局私は助かってしまった。

彼も一命は取り留めたらしい。

だけどもうどうでもいい。


警察にはすべてを話した。

どこからではない、本当にすべてを話した。


結果、被害者だった彼も捕まった。

証拠がパソコンから押収されたらしい。


通報したのが通話相手なのか、それとも別の誰かなのかは分からないが、それもどうでもいい。


私はあの時死にたかった。

なぜ今生きているんだろう。


狭い部屋の中で独り考える。

私はどこで間違ってしまったのか。

どうすればよかったのか。

もっと違う方法があったのではないか。


答えは出ない。

上着を脱ぎ輪っかを作って首にかける。

もういい、もう全て失った。

疲れた、私はもういい加減休みたいんだ。


最後に男の人の顔が浮かぶ。

優しい笑顔、優しい声。

あれは誰だったっけ。

あの人のために、私は私を殺したはずなのに、それからもうわからない、

お読みいただきありがとうございました。


いかがでしたでしょうか。


私自身書きながら何度もやめようと思いましたが、なんとか胸糞展開に仕上がったかなと思います。


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― 新着の感想 ―
おじさんも間男も救急車呼んだり治療したりと、普通に良心的でした。 遊び相手を上手く使うのは誰でもしますね。 更なる胸糞を期待します!
[一言] レイプされたことを言えない心情は理解できるけど、何も悪くない夫に慰謝料や養育費を請求しようとした行為は普通にクズ。
[一言] 子供は簡単に殺してるのに自分とカレピは殺せないのね 愛してる男だし、自分のことも可愛いから仕方ない このまま真実の愛を貫いて欲しいなぁ
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