表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
柔の道は鬼ばかり  作者: MIROKU
外伝 月陰の剣
23/29

7 月陰

 七郎の殺気を浴びても魔性に怯んだ様子はなかった。

 命のやり取りすら楽しむ精神性、それゆえの魔性か。

(女は魔物だな)

 七郎は般若面の奥で不敵に笑った。

(いや、人間こそが魔物なのだ)

 七郎は思い返した。人間こそ、いや人間の悪意こそが恐ろしいのだ。

 刀槍の刃など人間の悪意には及ばない。七郎は悪意によって振り回されて辛苦の中をもがいてきた。

 それは眼前の魔性も同じなのだろうか。

 死に勝る辛苦の生ゆえに人間を辞めて魔性に転じたのだろうか。

 そして死すら救いに感じているのか……

「食ってやるよ、頭から」

 魔性は口を開いた。小さく鋭い歯がびっしりと並んでいた。

「そうか」

 七郎はそれだけ言った。

 次の瞬間、月下に魔性が舞い上がり、七郎へと襲いかかった。

 七郎の右手が動いた。刹那の間に左手も動いた。

 二条の閃きが闇を斬り裂いたかに見えた時には、三つに分かれた魔性の体が内裏の庭に落ちた。

 首と胴体を切断された魔性の肉体は、僅かな間、大地の上で震えていたが、やがてドロドロに溶け崩れた。

 七郎は両手に二刀を提げて、魔性が溶け崩れていくのを見下ろしていた。

 般若面の奥の七郎は無表情だ。

 左手の脇差しで横薙ぎに魔性の首をはね、右手の三池典太で胴体をも両断した。

 刹那に閃いた二刀の技は、月陰の剣とでも称すべきか。

 神業にも思える剣技を披露しても、七郎の心には何の感動もなかった。

 七郎の闘志は――

 いや、七郎の剣魂は、夜の闇に現れた新たな魔性の気配を感じ取っていた。

 それは夜の闇に浮かび上がる蝶だ。

 ただの蝶ではない。

 一糸まとわぬ美しい裸身の背に、蝶に似た羽根を生やした魔性……

 月光蝶であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ