第97話 探り
「なにか仕事か?」
風早に呼び出されたので、訓練を切り上げ会いにいったら――
「悪いんだけど、二人には安田孝仁と接触して貰いたいんだ」
―—そう頼まれた。
「安田孝仁?それって、高校の時の?」
「うん。その安田だよ」
「なんでそんな奴の事を?」
一緒に呼ばれたメンツである、古館エリカが疑問符を口にする。
まあ当然の疑問だ。
確かに喧嘩は強かったが、言ってしまえばそれだけだ。
それ以外は特になんて事の無い相手である。
その喧嘩にしたって、今じゃ俺達の方が上だろうしな。
まあ次元が違うって奴?
なにせ今の俺達はオーラバトラーだからな。
しかも呪術による強化まで受けてるんだ。
今の俺達なら、拳銃で撃たれてもどうって事ない。
ま、流石に大型の火器になるとやべーだろうけど。
「実は安田は、今、帝真グループの長男、帝真一のSPをしてるんだ」
「は!?あいつが帝真のSP!?」
帝真グループは、風早グループ以上だ。
そこの長男のSPなど、ただの喧嘩自慢に務まる物ではない。
「実は、こんな事があってね」
風早が、安田と帝真との間にあったと思われる事を説明してくれる。
それはとてもではないが、現実とは思えない様な内容だ。
「……マジかよ。あいつそんな化け物だったのか?」
今なら俺達の方が強いと考えてたが、前言撤回だ。
帝真グループの大部隊を一人で蹂躙するとか、やばすぎだろ安田。
「それってさ……ひょっとして風早より強いんじゃ……」
「まあそうだね。今の僕じゃ、まず勝てないだろうね」
強くなった俺達だが、その中でも風早の強さは頭一つ抜けてる。
その風早でも、聞かされたレベルの大立ち回りは無理だ。
こうやって本人も認めている。
「まあ、あれが完成すれば話は変わって来るだろうけど……まあそれは置いておこう。話を戻すけど、勝っちゃん達には安田に接触して貰いたい。もちろん、偶然を装ってね」
「引き込むのか?」
風早は今、力を集めている。
権力的な物もそうだが、単純な暴力としての力もだ。
安田にそれだけの力があるなら、是が非でも引き入れたいと考えているはず。
「それが理想だけど……帝真以上の条件を兄さんが提示できるとも思えないし、難しいだろうね」
「じゃあどうするんだ?」
「彼には副業を持ち掛けて欲しいんだ」
「副業?」
「要はスパイね」
エリカがドヤ顔で俺を見た。
そんな事も分からないのかと。
コイツとは仲間同士ではあるが、同時に、風早の右手としての立場を奪い合うライバルだからな。
「僕が接触するのは目立ってしまうからね。腐っても風早一族な訳だし。という事で、まだ世に出てない皆に上手く立ち回って貰いたいんだ。出来るかい」
俺達は高校を辞め、風早に付いて来た。
仕事は荒事の実行部隊、正確にはその訓練中な訳だが、世間的にはただの無職って事になっている。
だから偶然を装って安田に接触すれば、帝真グループにばれる心配は少ない。
「おう!俺達に任せてくれ!」
「私一人で十分だけどね」
さて、どうやって安田と接触するか……やっぱエミとショーコを利用するのが一番だな。
一度二人に電話を入れてみるとしようか。
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