第96話 忍耐力
帝真一を制圧してから1週間ほど経つ。
あれから、特に誰かに見張られたりとかはないので平和な物だ。
帝真バリアーがきちんと機能してくれている様で、何よりである。
「まあしかし……こりゃ無理っぽいな」
ただ、実は今、ちょっと手を焼いている事があった。
それは――
「爺さん、我慢強すぎ」
―—爺が異常な精神力を見せている点だ。
ああ、爺ってのは、帝真一の隠れ家にいた豪山断崖って奴だ。
どうもこいつは帝真グループの総帥と真一より強く繋がってるって事なので、その情報を引き出そうと拷問を試みた訳だが……これがまあ、口の堅いこと堅い事。
今までの奴らは大抵5分もあれば口を開いていたのに、この爺だけは数日続けても全く話そうとしないのだ。
俺の場合は相手を生かすとか考える必要がないから、常に全力全開だってのに……
「その精神力と忠誠心には感服する。けど、あんまり我慢を続けると色々と毒だぞ?もうどばっと吐き出しちゃえよ」
「殺せ……」
「オッケー」
「ぐ……ががが……」
望み通り、ゆっくり胸に手を突っ込んで心臓掴みだして潰してやる。
流石に痛みは感じてるようで呻きはするんだが、悲鳴一つ上げやしねぇ。
まったく、可愛げのない爺さんである。
「さあ、お前の望みは叶えてやったぞ。今度はこっちの望みを叶えてくれ。別に爺さんのプライベートは聞かないさ。帝真グループで知ってることを全部話してくれるだけでいい。簡単だろ?」
「ころせ……」
蘇生させて話しかけるが、返って来るのは殺せのお代わりのみ。
どんだけ殺されたいんだよ、まったく。
「もしもーし!おじいちゃん!耳聞こえてますかーー!!」
「ころ……せ……」
もうろくし過ぎて、聞こえていないのかもしれない。
そんな気遣いから鼓膜が破れる声量で耳元で怒鳴ってやるが、やはり反応は一緒だ。
「まいったなぁ。ほんと、忍耐力強すぎだろ」
どれだけ強靭だろうと、人間の精神力には限界がある。
なので時間さえかければ頑固爺でもいずれ音を上げるだろう。
だが、特に恨みの無い老人を長期間虐め続けるというのは、流石に俺も心が痛むという物。
なにより……果てしなく面倒くさい。
そう、面倒くさいのだ。
そこまで必須って訳でもないし、爺さんからの情報。
もう止めて昇天させるか?
この様子じゃ、タリスマンの材料にもなりそうにないし。
「とは言え……この忍耐力の強さは興味深くもあるんだよな」
真一が言うには、この爺さんはオーラバトラーの高段者らしい。
ひょっとしたら、このずば抜けた忍耐力はその影響の可能性もあるな。
「高段者は精神力も強化される……か」
正直、オーラバトラーの力とかしょぼい事この上なしだが――その証拠に豪山の爺さんも俺に手も足も出ず拷問されてるしな――もしそうなら少し興味が湧いて来た。
「なあ爺さん。もう帝真グループの事は聞かない。その代わり、オーラバトラーの事を教えてくれないか?そうすりゃ楽に死なせてやるぞ」
豪山の耳を回復させ、質問の方向性を変えてみた。
忠誠から口を噤んでいるだけなら、こっちは素直に話すかもしれない。
「……わしもオーラバトラーの事を詳しくは知らん。使えるから力として使っているだけだ。もし知りたくば、ワシの師匠に会うがいい。あの方なら全て知っている。居場所なら教えてやるぞ」
それまで殺せ一辺倒だった爺が、真面な言葉を口にする。
「あわよくば……そいつに俺を殺させようって腹積もりか?」
「くくく……」
爺さんがにやりと笑う。
自分は一方的に蹂躙されている状態だってのに、それでも師匠なら俺に勝てると思っている様だ。
これだけ自信満々なのだから、相当強いって事かね。
まあ今話した言葉を信じるなら、だけど。
「じゃあそれでいい。話せ」
「わしの師匠は……」
爺さんの師匠はどうやらインドにいるらしい。
もちろんそんな遠くまで行く気は更々ないので、完全に無駄な情報となった。
これが某戦闘民族の宇宙人なら『オラワクワクすっぞ』とか言い出すんだろうが、俺にそんな性質はない。
なので情報はお蔵入りである。
「ま、もうどうでもいいか」
オーラバトラーの情報も諦めるとしよう。
俺は爺さんを殺して亜空間へと放り込み、さっさと家に帰る。
まじで無駄な時間だった。
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