第94話 優しさ
生まれた子は、なんという少々残念な感じだった。
どんくさいと言うのだろうか、とにかく成長が遅い。
私はそれが不思議で仕方なかった。
私は子供の頃から何でもできたし、それに神様の指導もあって、普通の人間の限界を遥かに超えた力を持っている。
そんな私と、偉大な神様の欠片から生まれた子が、なぜこんな平均以下の能力になってしまうのか?
それが不思議で仕方なかった。
ある日神様にその事を尋ねたところ―—
『肉体が強すぎるため、虚弱な人間の魂ではうまくコントロールできていないのだ』
―—とおっしゃられた。
どうやら力が強すぎて、逆に機能不全してしまっている様だ。
どうすればいいのかと神様に尋ねると、今は試練の時なのでそのままにしておくように命じられた。
少し心配ではあったが、神様がそうおっしゃられるのならきっと大丈夫だろう。
暫く時がたち、小学校に入ったころ、息子が周囲からいじめられる様になってしまう。
能力的に難があったためだ。
この時、初めて私は人に殺意を覚えた。
たとえ子供であろうと、愛しい私と神様の子を虐げるなど許される事ではない。
不敬な愚者共を片っ端から皆殺しに。
そう考えたのだが、それは神様に止められてしまう。
こういった人間間の軋轢もまた、息子の成長につながる物だからと。
だから私は断腸の思いで我慢する。
「あの子は……」
息子の事で気をもむ日々。
そんなある日、一人の子供が私の目に入ってくる。
どうやらその子は、いじめで荷物を隠されている様だった。
そんな事は、私が気にする様な事ではない。
だが私はその子を放っておけなかった。
日々虐げられる我が子と、その子が重なってしまったからだ。
神様にお伺いを立てた所、好きにしていいと言われた私は、夜遅くまで必死に荷物を探していたその少年の下へ向かった。
身元がばれるのは宜しくないと思い、顔の見えない占い師のような恰好をして。
「これ、貴方の荷物でしょ?」
「あ……ありがとうございます」
少年は少し私の事を警戒している様だった。
まあ怪しい恰好の大人が夜遅くに声をかけてきのだから、それは仕方のない事だろう。
私は少年の態度は気にせず、問いかける。
「いじめっこを懲らしめる力が欲しくない?」
力が欲しいか?
と。
「え、あー、えっと……欲しい、です……」
そして少年は、戸惑いながらも力が欲しいと私に応えた。
なら、私がその願いを叶えてあげる。
その場ですると目立ってしまうので一旦家に帰り、深夜遅く、マーキングしていた少年の家へと侵入した。
「今から、貴方にいじめっ子を軽く捻る力を上げるわ」
眠る少年。
起きない様に、ちゃんと家全体に眠りの呪いをかけているので、誰かが起きてくる様な事もない。
「持続的な力となると、やっぱり呪いね。でも、あまり強力な物は駄目」
呪いには必ず副作用が付き纏う。
たいていの場合、それは命にかかわるものだ。
けど、それでは駄目だ。
いじめっ子を撃退できても、長く生きられないのでは本末転倒である。
「命に影響を与えず、その上でできるだけ強力な物をかけるとなると……呪印は額に彫る必要があるわね」
呪いの強さは、その触媒たる呪印の位置で変わって来る。
手足などでは効果が弱く、頭部や首、それに胸などが効果が高い。
そしてその中で最も効果を発揮するのは額であった。
「額に呪印を彫るのは目立つけど……力が手に入れれば、それで起きる問題位軽く吹きとばせるわよね」
力には対価が必要だ。
少年もきっとわかってくれるだろう。
「何を彫ろうかしら」
ある程度の量は必要だが、呪印に決まった形はない。
刻む事が大事なのだ。
「そういえばあの子……」
『怪獣大好き!だって強くてかっこいいんだもん!』
息子の言葉を思い出す。
学校でいじめられているあの子は、強い怪獣に憧れていた。
「きっとこの子もそうよね」
そこで私は少年の額に、呪印でこう刻んだ。
『ギャオス』と。
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