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第91話 貸しを返せ

「あれ?安田くんじゃん。久しぶりだねー」


チャイムを鳴らすと、ケバ目の金髪の女が出て来る。

林亜美はやしあみという女だ。

以前2度ほど助けた事のある奴で、今日はその貸しを回収するためにやって来た。


「まさか君の方から私に会いに来るなんてねー。あ、ひょっとして恋愛相談だったりする?それならおねーさんに任せなさい」


「全然違う。今日来たのは頼みごとがあるからだ」


「頼み事?」


「ああ。悪いけど、今やってる仕事を止めて保育士になってくれ」


こいつにはあのラミア3人組のお守りをやってもらう。

ビジュアル的に子供の世話なんて出来そうにないなりをしているが、以前車で移動した時に子供好きで、親と揉めて高校中退してなかったら教師か保育士になりたかったて話しをしてたからな。

まあ大丈夫だろう。


「は?え?なに?え?なんかの冗談?」


俺の唐突な頼みごとに、亜美が目を白黒させる。


「いたって大まじめだ。色々あって、面倒を見て貰いたい子供達がいるんだ」


「ふむ……安田君が態々私に子供達の面倒を見て欲しいっていう事は……かなり込み入った事情がある感じ?」


「ああ。相当な」


「うーん……それって、仕事を辞めないと駄目な感じ?」


「ああ、まあ秘密保持もあるからな。給料の事なら安心しろ。今の10倍は余裕で出すから」


「10倍って……あたし人気あるから、結構稼いでるんだよ」


「全く問題ない」


仮に年収1億だったとしても、帝真グループならその10倍ぐらい余裕で出せる。

まあこいつがそんなに稼いでる訳はないだろうが。


「言い切るねぇ。まあいいわ。安田君にはいっぱい借りもあるし、その恩返しもしなくっちゃね」


「より良い返事でよかったよ。断ったらイエスって言うまでボコボコにする予定だったから、手間が省ける」


「あははは。もう、安田くんったら冗談ばっか」


亜美がけらけらと笑う。


勿論、冗談でも何でもなく大まじめである。

なにせこちとら命の恩人で、しかも無理な頼み事まで聞いてやっているのだ。

その恩を踏み倒すような奴には、それ相応の制裁を加えるのは当然の事である。


「じゃあ立ち話もなんだし、家に入ってよ。で、その世話をする子達のこと教えて。世話をする子達の事なんだから、ちゃんと事前に知っておかないと。事情があるって事は、踏み抜いたらまずい地雷とかもあるでしょ?」


「まあな」


地雷があるどころか、もはや地雷原の様な経歴の子供達だからな。

こいつがへまをしない様、きちんと事情を話しておく必要はある。


亜美の家に上がる。

見た目がこんなんだが、内部は汚部屋ではなく生活感あふれる可愛らしい感じの内装になっていた。


「紅茶入れるね。もしくはコーヒーの方がいい?」


「いらん」


そう長々と話す気もないので、飲み物など不要である。

俺も暇人ではないからな。


態々誘われるまま室内に入ったのは、内容が内容だったからに過ぎない。

まあそれも、魔法をかけりゃいいだけではあるが、無駄に魔法の痕跡を残すのもあれだからな。


「そう?じゃああたしだけ」


亜美が冷蔵庫から炭酸水を取り出す。

どうやら彼女は無駄に健康志向の様だ。

果てしなくどうでもいい事だが。


「面倒を見て欲しい子供達は――」


俺は亜美に、ラミアっ子三人の説明をした。

すると――


「うっ、うぅ……可哀そうだよ……まだ子供だってのに、なんでそんなひどい事……」


―—亜美がボロボロ泣きだした。


こいつも山田と同じで涙もろい様だ。

まあ、相手に同情して泣いてるぐらいだし、子供らには優しく対応するだろう。


「ま、という訳だ」


「……分かった!」


亜美がタオルで涙をぬぐい。

鼻を『ずびっ』と勢いよく啜る。


そして勢いよく椅子から立ち上がり――


「その子達はあたしに任せて!」


―—そう力強く宣言した。


全然信頼のおける相手ではないが、まあ悪人ではないので、とりあえずコイツにまかしときゃいいだろう。

拙作をお読みいただきありがとうございます。


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