第89話 気が進まん
翌日も体調が万全じゃないって事で、俺は学校を休んだ。
もちろんただ休んだだけじゃなく、その間処理できる事はささっと終えている。
で、翌日は学校に出席。
流石にもうこれ以上、母さんに心配をかける訳には行かないからな。
「おう、体調はもういいのか」
「安田が風邪で休むとか、そんな事あるんだな」
学校に行くと、エミとショーコが声をかけて来た。
「まあな」
「あたしら、見舞いに行こうとしたんだぜ」
「そうそう。そしたら、山田がゆっくりさせてあげた方がいいって言ったからさぁ。だから見舞いに行かなかった文句は山田に言ってくれよな」
山田は良く分かってるな。
見舞いなんてこられても迷惑なだけである。
「文句なんて言う訳ないだろ。来られても迷惑なだけだ。間違っても家にくるなよ」
「あたし達と安田の仲なんだから、遠慮はいらねーんだぞ」
「お前らに俺が遠慮なんてする訳ないだろ」
厚かましいマインドしやがって。
誰が気なんか使うか。
――放課後、喫茶店。
「安田がこんな所に寄ろうなって言うの、珍しいね」
「ああ、実はちょっと迷ってる事があってさ」
「迷ってる事?悩み事……ではないんだよね?」
「まあ悩み事って程じゃない。実は――」
俺は声が漏れないよう魔法の結界を張り、山田に蛇っ子三人の話をする。
彼女達がどういう境遇だったとかは、もう完全に把握済みだ。
「う、うぅ……可哀そうだ」
話を聞いた山田が、鼻をすすりながら泣く。
涙もろい奴である。
まあそれがコイツの良い所な訳だが。
かく言う俺も、彼女達の事情を知ってかなり同情してたりする。
本来なら他人の人生なんざ微塵も気にしないんだが、まあ流石にな。
「んでまあ、その三人をどうしようかなと」
蘇生することは出来る。
改造人間だったワーウルフの嵐子を蘇らせる事は出来ているので、同じ要領でやれば蘇生可能なはず。
だが、彼女達を蘇生させるに当たって少々問題があった。
「助けてあげよう!絶対その子達は幸せになるべきだ」
「幸せになるべき、か。まあそうなんだが……問題は、改造された体と戸籍だ」
彼女達は死んだ事になってるので戸籍がない。
そしてあの人間離れした肉体である。
なので、普通の人間としてやっていくのは難しいと言わざるえない。
「戸籍は帝真で用意できるかもしれないけど、体の方はな」
「も、元に戻してあげられないの?」
「んー……遺伝子レベルで弄られてるっぽいから、ちょっと難しい」
蘇生をアレンジすれば、形を弄くる事は可能だ。
だが純粋な人間とは言えない彼女達の形を下手に弄ってしまうと、それが原因で深刻なエラーが発生しかねない。
最悪、藻掻き苦しんで人体が崩壊するとかも考えられる。
なので、形を弄って、とりあえず人間っぽくするってのはあまりやりたくなかった。
他人に厳しめの俺ではあるが、罪のない小さな子供が苦しむ姿を見て喜ぶ趣味はないからな。
「そうなんだ……その子達がかわいそうだ」
「まあな。で、今悩んでるのが三択だ」
「三択?」
「ああ。一つ目は……まず、帝真グループに研究させる。元に戻す方法を。で、それが見つかったら彼女達を蘇生させるって手だ」
「そ、それがいいんじゃないかな?」
「ただ研究主任の糞女、松戸才恵が言うには……融合させるよりも遥かに難しいそうで、まず無理と言ってる」
松戸はかなり有名で、世間からは掛け値なしの天才といわれている女だそうだ。
そいつが念入りに拷問をした上でそう答えているので、まあ望み薄と考えた方がいいだろう。
「う……そうなのか……」
「ああ、期待薄だ。で、二つ目の選択は……もうそのまま死なせてやる、だ」
「!?」
俺の言葉に山田が目を見開いた。
安田は可愛そうな子達を見捨てるのか!
とか考えてそうだな。
「改造人間って……要は化け物だからな。人間の世界じゃ、普通に迫害される対象だ。まあ帝真や俺がいるからそういう事にはならないだろうけど、小さな子供がそんな姿で生きていたいと思うか?」
下半身が蛇の様な姿を見て、それを普通の人間と考える者はいないだろう。
そしてそんな状態で、生きていたいと考えるか?
という問題がある。
「安田……化け物だなんて、そんな呼び方はあんまりだよ」
「分かりやすく伝える為に言っただけだ。悪意がある訳じゃないから、その辺りの粗は勘弁してくれ」
「うん、ごめん。ちょっと感情的になってた」
「それと、その子達は改造の影響で体に色々異常があるっぽい。きっとそれで苦しむ事にもなる」
「……」
長期的に見た場合、不具合による強い痛みや熱なんかが発生する可能性が高かった。
化け物のような姿で、しかも痛みなんかに苦しみながら生きるってのは、相当きつい筈だ。
その上、元の体に戻れる可能性は限りなく0に近い。
そう考えると、もうこのまま死なせてやるのも優しさなんじゃないかと俺は思っている。
「……三つめは?」
「くっそ重いハンデを背負って生きて貰う」
元に戻れる見込みもなく。
当然そんな体じゃ、人間の世界では生きていけない。
そして障害系の苦しみ。
それらをもろもろ抱えた上で、彼女達に生きさせる。
だ。
「……安田。本当にどうしようもないの?」
「ない」
マジでない。
いやまあ、俺も魔法とかで何とかできないか努力するつもりではあるが、まあこっちも望み薄だ。
遺伝子とか弄れる様な魔法はないし。
「正直、良い方策があるなら相談なんてしてないさ」
相談というよりかは、これは愚痴に近い。
明確な答えなんか、初めっから求めてないしな。
山田からしたら嫌な話を聞かされて辟易だろうけど、友人なんだからそれ位は付き合って貰う。
「そっか……まずは……そう、まずは本人達の意見を聞いてみないか?どうするかは、それから決めるのがいいよ」
うん、模範解答。
まあそれが筋だろう。
けど、それはそれで問題があるんだよな。
何故なら、彼女達の意見を聞くには蘇生させる必要があるからだ。
そして蘇生させた結果、死を選んだら……俺が殺さないといけない訳で。
まあ、後味悪いよなって話である。
「そうだな。一旦蘇生させて、本人達の意見を聞いてみよう」
とは言え、それが一番なのは否定しようもない。
気は進まないが、やるしかない様だ。
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