第80話 話し合い
俺が夜中に、そのまま佐藤の元に乗り込まなかった理由は二つ。
一つは、時間的猶予が余りなかった事だ。
衛星を落とした時点で、もう結構いい時間だったからな。
母が起きた時に俺が家にいなかったら不味いだろ?
そしてもう一つが、この改良型のタリスマンである。
まあ急遽慌てて改造したので、ちょっとした効果を一つ増やせただけだが……
元々のタリスマンの効果は5つ。
防御機能——これには明確な毒や瘴気の排出機能も含まれている――に装着者確認機能。
それに位置把握機能と発動時にそれを確認できる機能だ。
そこに新たに追加したのが、遠隔での魔力放出機能である。
あああと、埋め込んだら心臓と融合する様にもしておいた。
何なら機能追加より、こっちの方が手間がかかった位だ。
「プ……プレゼント……ですか?」
佐藤の顔は、血の気が引いて真っ青だ。
自慢の護衛があっさりやられたのが効いた様である。
「ああ、首輪だ」
――そう、首輪。
最初は力を見せつけ、恐怖や損得勘定で従わせようと考えたのだが、よくよく考えたらそれだけでは足りない事に気付いたのだ。
獣なんかは、自分より圧倒的に強い奴には絶対に喧嘩を売らない。
子供を守る時でもなければ、尻尾を巻いて逃げるのみである。
けど人間は違う。
もちろん、正面切って戦うような馬鹿な真似はしてこないだろう。
だが人間は賢い。
そして賢いからこそ、何とか此方を出し抜こうと悪知恵を働かせるのだ。
……出し抜かれたりやられる事は想像しづらいけど、俺の害にならない保証はないからな。
なので更に確実性を増すため、首輪をつける。
何処にいるか見張り、そして此方の気分次第でいつでも命を終わらせる事が出来る首輪を。
「これをお前の心臓と融合させる。そうすれば随時位置が分かるし、いつでも殺せる。まあ小型の爆弾だと思って貰えばいい」
「ば、爆弾!?じょ……冗談……です……よね?」
佐藤は何とか平静を取り繕おうとしている様にも見えるが、その努力もむなしく、顔面蒼白で体はガタガタと震えていた。
まだ拷問もしてないってのに、やってる事の割に胆力のない奴である。
「冗談ならお前の護衛を殺したりはしない。馬鹿なのか?」
「そんな……なんで……そんな……」
「なんでって……喧嘩売って来たのはそっちだろ?殺すか蹂躙するかの二択なんだが、ひょっとして殺される方がお望みか?その場合、自分で死なせてくださいって懇願するまで拷問するけど?」
まあ勿論、たとえ望んでも死なせてやる気はないが。
帝真でそこそこの位置にいるこいつにはタリスマンの材料ではなく、俺の言いなり人形になって貰わないといけないからな。
「ま、待ってください!て……手違いなんですよ!そう手違いだったんです!我々は貴方に攻撃する意思なんて!!」
佐藤がソファから立ち上がって、涙目でヒステリックに叫んだ。
必死さがよく伝わってくるが、残念ながら俺の心には微塵も響かない。
悪人に情けをかけるなんて甘さは、異世界においてきたからな。
「ワーウルフの嵐子を拷問して聞いたぞ?邪魔する奴や、目撃者は殺せって命令だったんだろ?」
そういう命令だったからこそ、あいつらは迷わず俺に銃を乱射したのだ。
そして拷問されてタリスマン行き。
可哀想な話である。
まあ勿論、本当に可哀想だとかは思ってないが。
「つまり相手が誰だろうと、殺そうとしてた訳だ。なら手違いも糞も無いだろ?という訳で……選べ。服従か地獄体験かを」
「わ、私は帝真の人間で……下手な真似をすれば……帝真を敵に回す事に……」
「いやもう既に敵に回ってるぞ。どうしようもないぐらい」
ワーウルフの一件だけならともかく、此方の身元を暴いたのは致命的だ。
もはや和解などありえない。
情報規制が出来る様に統制下におくか、壊滅させるかの二択のみである。
「て、帝真の力は……お前の考えている以上に……」
「地獄体験か。しょうがないな」
ぐだぐだ話していても仕方がない。
この後、芋づる式に上の奴を型にはめないといけないのだ。
ここはササッと拷問して、相互理解を深めるとしよう。
「ひ……」
俺は立ち上がって佐藤の右肩に手を置き――
「ぎゃああああああ!!」
――そのまま奴の右腕を根元から引き千切った。
「安心しろ。俺は蘇生魔法が使えるから死んでも大丈夫だぞ」
ぎゃあぎゃあうっさい佐藤の悲鳴をBGMに、左手も引きちぎる。
さあ、ぱっぱ話を進めていくとしよう。
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