第59話 ダークソウル
「……」
ドアの外から、黒髪だらけのクラス内の様子に唖然としていると――
「おはよ!」
「よっす!」
髪を黒く染めたエミとショーコが俺の所にやってきて、満面の笑顔で挨拶して来る。
「はぁ……お前らに矜持はないのか?」
「矜持?何それ?」
「プライドだ。プライド」
俺の言葉に不思議そうにエミが首を傾げたので、分かりやすく言いなおす。
「ああ、プライドね。なら初めっからそう言えよな」
「ひょっとして、髪を染めた事言ってるのか?」
「ああ。言われたままに髪を染めるとか、プライドなさすぎだろ」
「ぷっ、あっはははは」
「安田大げさ過ぎ。髪染めただけじゃん。イメチェンイメチェン」
どうやらこいつらにとって、髪を黒くする事は大した事ではなかった様だ。
校則に背いてまでやってるから、てっきりこだわりがある物とばかり思っていたんだが……
完全に大失敗。
甘く見積もり過ぎた。
「はぁ……」
俺は小さく溜息を吐く。
こいつらが分かりやすい悪人だったら、文句言って来てもぶん殴って黙らせるんだが……
髪染めさせといて、今更アレなしねとは流石に言えんからな。
仕方ない。
まあ最悪、学校の不良共を片っ端から殴り飛ばせばいいだけだから諦めよう。
「どうよ安田。清楚系にイメチェンしてぐっと来たか?」
「あたしらぐらいになると、どんなのでも似合うからな」
顔面に化粧塗りたくってるくせに、何が清楚系だ。
寝言は寝てから言え。
「へへへ……よろしくお願いします」
二人の戯言をスルー。
更にちらちら此方の方を見て来る黒髪の同級生達も無視して席へ向かうと、俺の前の席に座る鼻ピーが照れ臭そうに挨拶して来た。
奴の無駄に赤かった髪も、今や真っ黒である。
「おいおい、安田スルーかますなよな」
「ほうれん草って言葉知ってるか?まったく、リーダーがそんなじゃこの先が思いやられるっての」
ショーコとエミが当然の様に追いかけてきて、鼻ピーを押しのけつつ隣の席から椅子を拝借して座りこむ。
「何がホウレンソウだ。そんな下らない言葉を覚えてる暇があったら、もっと学校の勉強しろ」
「あはははは。こんな底辺で勉強してどうするってんだ」
「ジョーダンきついよ。真面目に勉強する気があるなら、ここには来てないって」
……まあ、正論ではあるか。
向学心がある様な人間は、間違ってもこの学校には入学しない。
なんなら、登校するより自宅学習の方が100倍マシまである。
俺だって母に心配かけたくないから来てるだけだし。
「そんな事より、あたし達チーム名を考えて来たんだよ」
「そうそう」
「その名も――」
「「ダークソウル!」」
二人は目配せしてから、同時に名前を俺に告げる。
「……」
そんなくっさい名前を、よくそんなドヤ顔で言えるもんだと感心するわ。
「ほら、全員黒髪じゃん?だからダーク」
いや黒はブラックな訳だが?
黒でダーク呼びとか、厨二全開も良い所である。
「で、そこにチームとしての魂の繋がりって意味を込めてダークソウルって訳」
チームとしての繋がり、ね。
我が身可愛さに魂売っただけだけの集まりに、とても繋がりがあるとは思えんのだが?
あ、ひょっとしてアレか?
魂を売った奴隷と、そのご主人様的な繋がりって言いたいのか?
その場合はソウルより奴隷の方がふさわしい。
なので黒の奴隷と言う名が……
いや、それは倫理的にアウトか。
「という訳で、今日からダークソウルの本格始動だ」
一瞬名前に待ったをかけようかとも思ったが、どうせ変えても碌な所に着地しないのは目に見えているので止めておいた。
だいたい、どうでもいいチーム名を決める為に余計な時間を喰うのも馬鹿らしいし。
――山田が登校してきて、クラスの様子を見てぎょっと固まる。
「お。山田も来たな。こっちこっち」
「お、おはよう。なんていうかこう……」
山田が教室内を改めて見まわしてから、俺の方を見る。
「それだけ影響力がスゲーって事さ。なんせ、今この学校のナンバーワンは間違いなく安田だからな」
「そうなんだ……」
「んで、チーム名はダークソウルだから。そこんとこ宜しく」
「か、カッコイイ名前だね」
どうやらこの厨二ネームを山田は気に入った様だ。
それが社交辞令でない事は、まんざらでもなさそうな表情が物語っている。
「安田がトップで、アタシらがナンバー2。山田が3番手だ」
「え?俺が3番手?」
山田が目を白黒させる。
自分が3番手だって事に驚いてるみたいだが、俺からしたらエミとショーコが当たり前の様にナンバー2って言ってる事の方が驚きだ。
どう考えても、お前ら等しく寄生虫だろうに。
「おう。今日早速幹部会議するからな。放課後あけといてくれよ。チームのあれこれ決めないといけないし」
「場所は昨日の店で――っと、じゃアタシらは席に戻るわ」
ホームルームのチャイムが鳴ると同時に教師が入って来たので、二人は自分の席へと戻った。
不良なのに注意される前に自発的に戻った?
そう思うかもしれないが、出席の際に席についていないと、たとえ教室にいても欠席扱いされてしまうのだ。
この学校は。
……出席日数足りないと、卒業できなくなるからな。
流石の不良も、卒業はしたいとは思っている訳だ。
まあそれを気にしない様な奴は、そもそも学校自体に足を運ばないだろうが。
「ん……んん!?」
――教室に入ってきた教師が、瞬間、足を止める。
この学校の教師には熱意がない。
というか、真面に生徒に教える気もない。
まあこんな学校だから、それも仕方ない事だろう。
何も期待せず。
只淡々と、自分の仕事を作業的にこなす教師。
なので多少の異常を感知しても、普段は我関せずと言った感じで流すのだが……
流石に半数近くが黒髪になるという事態は想定の遥か外だったのか、ギョッと固まった後、そのまま無言で教室から出て行ってしまった。
まさか黒髪の集団を見て、身の危険を感じたんじゃないだろうな?
普通は逆だろ。
普通は。
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