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第56話 荒らし

記憶消去魔法の練習を始めてから数日。

練習の甲斐あってか、0,1秒単位で記憶を削り取れるくらいまで俺の腕は上がっていた。

今なら山田の妹の辛い記憶を完全に消すのではなく、暈して薄める事も可能だろう。


……まあやらないけど。


別に意地悪でそう考えている訳ではない。

どんな形であれ記憶を弄る以上、何らかの影響が出ないとも限らないからだ。

仮に表面上完璧に見えても、時間がたつほど心の内側で、なんて事も十分考えられた。


……絶対の安全を確保できない状態じゃ、とても手出しする気にはなれん。


因みに安全性を確保する為には、それをテストする悪人共(モルモット)が大量に必要となる上に、年単位のつぶさな経過観察が必要になって来る。

やろうと思えば出来なくもないが――悪人なんて世の中腐る程いるし、確保は簡単だからな――流石に手間が過ぎるし、そもそも何年も経ったらその間に勝手に立ち直ってるだろう。


という訳で、記憶系の実験はここまでとする。


「ん?山田、もう登校しても大丈夫なのか?」


朝、教室に入るとそこには山田の姿があった。

自分の席に座り、教科書開いて覗き込んでいる姿が。


「あ、うん。妹も大分落ち着いたから……いや、本当はもう少し休んでようと思ってたんだけど、母さんにさっさと学校行って来いってお尻をけっとばされちゃってさ。ははは」


「そっか」


「あ、それと。タリスマンありがとう。今日早速役に立ったよ」


「ん?」


小声で山田がそう言って来る。

その意味が分からず、俺は首を捻った。


何がありがとうなのだろうか?

タリスマンからは何の反応も来ていないので、特に山田を守ったって事は無い筈だが?


「実は今朝、犬の尻尾踏んじゃってさ。それで滅茶苦茶吠えられまくって、焦って後ろに下がったら石にけつまずいて……で、道路に盛大に背中と後頭部を打ち付けちゃったんだよ」


相変わらずの不幸体質だ。

いやまあ犬の尻尾は気を付ければ踏まずに済んだだろうから、これを不幸と呼ぶかは微妙だが。


「でも全然痛くなかったんだ。あれって、安田のくれたタリスマンの効果だよな。いやー、すげーよ」


「まあそうだな」


確かにタリスマンの効果だが、その程度の些事でスゲーとか言われても困るわ。

そんな下らない事で喜んでもらうために渡した訳じゃ……いやま、頭は打ち所が悪いと大変な事になるけどもさ。


因みに、タリスマンはある一定以上の受動的なダメージのみ俺に知らせる様になっている。

自分で勝手にこけたり、小指を箪笥の角にぶつけたとかのちょっとした能動的なダメージでは俺の(もと)に信号は飛んでこない。

一々そんな些細な物まで全部確認してたらキリがないからな。


「あ、そうだ。それと……安田ってクラスで何かした?俺結構長い事休んでたのに、クラスの奴らが誰も何も言ってこないんだ。ここって不良ばっかだし、普段なら変に絡んで来て小突いたりしてきそうなもんなんだけど……」


「ああ、ちょっとな。まあもう俺やお前にちょっかいかけて来る馬鹿はいないだろう」


クラスの奴らは、山田が俺の友人と知っているからな。

余程の気違いでも無い限り、余計なちょっかいをかけてきたりはしないだろう。


「あ、やっぱそうなんだ。色々聞かれても答えられないし、助かるよ」


「まあ裏でちょっかいかけて来る奴がいたら言ってくれ。二度と学校には来たくなくなる程度には懲らしめてやるから」


「い、いや流石にそこまでは……」


俺の言葉に山田が困った顔になる。

別に殺すと言っている訳ではないんだが……まあ、これが普通の反応なのかもな。

異世界での感覚と、日本との差をしみじみと感じさせられる。


少しは修正して行った方がいいのだろうが……


ま、言動にだけ気を付けてればいいだろう。

バレなきゃいいの精神である。


「冗談だよ。じょーだん。だいたいタリスマンがあるんだから、山田に怪我をさせられる奴なんてこの学校にゃいないしな」


タリスマンがあるんだから冗談だよと、そう言っておく。

まあタリスマンが防げるのは物理的な現象だけで、悪口などの精神攻撃は防げないので、絶対に山田を傷つけられないって訳でもないが。


「ははは、そうだよな。安田は正義の味方だもんな」


「別に正義の味方じゃないぞ。世界平和とかに貢献するつもりはないから、そこんところは勘違いしないでくれ。これは冗談じゃなくて本気だからな」


山田からすれば、何度も手助けしてる俺は正義のヒーローに見えたのだろう。

だが実際は違う。

母との生活を疎かにしてまで、誰かを救うつもりなど俺には更々ない。


だから真剣な顔で、ハッキリとそこは訂正しておく。


「ああ、うん。そうだよな。変な事言ってごめん。けど、安田は俺にとってヒーローなのは変わらないよ」


「思うのは自由だけど、こっぱずかしいから口にはすんなよ」


「ははは、分かった」


朝礼前。

他愛なく山田と会話していると――


「おはよう安田。お、山田登校して来てんじゃん」


「怪我で休んでたんだろ?もういいのか?」


ショーコとエミが登校してきて、気軽に声をかけて来る。

最近は俺に絡んでこなかったというのに、いったいどういう風の吹き回しだろうか?


「ああ……うん、怪我はもう大丈夫だけど……」


山田が困った様に視線を俺に投げかけた。

その目は『二人と仲いいの?』と問いかけている。


もちろん答えは否だ。


「そっか、よかったな。そうだ!快気祝いに放課後飯でも食べに行こうぜ!」


「お、いいね!じゃ、放課後空けといてくれよ!」


二人はそれだけ言うと、さっさと自分の席に行ってしまう。

『何で俺らがお前らと飯を食わねばならんのだ?』と言ってやりたい所だが、山田の快気祝いと言われると断り辛い物がある。


「前々から騒々しいとは思ったけど、まるで嵐みたいな子達だね」


山田が困った様な、それでいてまんざらじゃなさそうな顔をする。

ひょっとして、ああいうアホっぽいのが好みなのだろうか?

だとしたらわが友の女を見る目は絶望的と言えるだろう。


「ああ、そうだな」


俺は山田の言葉に頷く。

山田の言う通り、あいつらは《《荒らし》》も良い所だしな。

拙作をお読みいただきありがとうございます。


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