第39話 パーツ
反応が二つ……
山田の母親の反応が、それぞれ別々の離れた場所にある理由は一つしかない。
体の一部が切り離され、別の場所にある為だ。
二つの反応の内、大きい方が本体で間違いないだろう。
そして小さい方が切り離された部位。
――それは虫歯で抜いた歯や、抜け毛などではない。
何故ならこの魔法で確認できるのは、ある程度大きなパーツだけだからだ。
そのため、髪の毛や歯なんかの小さな物には反応しない。
小さい方の反応は、そのサイズは野球のボールから人の頭部程度。
俺の脳裏に、かつて人の首を集めるのが趣味だった魔物の姿が浮かぶ。
奴は殺した人間の頭部を集め、体を放棄する奴だった。
もちろんそいつはもうとっくに殺しているし、この世界に魔物はいない。
だが、首を切り落とす事件なんかは日本でも十分起きえる事だ。
そしてこの離れているパーツが頭部だったなら、それは山田の母親の死を意味している。
いや、まだそうと決まった訳じゃない。
「山田。最近お袋さんがヘアドネーションとかしてないか?」
髪の毛は小さいため、魔法には引っかからない。
だが、髪の束なら話は変わって来る。
かつら用に自分の髪の毛を提供するヘアドネーションで、大量の毛がかつらとして纏められていれば、魔法に引っかかる可能性は十分考ありえた。
まあ時間が経つとそれも反応しなくなるので、最近の物でないと駄目だが。
「へ?いや、母さんの髪ずっと長いままだけど……」
「そうか……」
ヘアドネーションの線は消えたか。
けどまだ髪じゃないと決まった訳じゃない。
旅先で髪の毛をバッサリ切られて、それが一塊になってる可能性もあるしな。
それに髪じゃなかったとしても、手首や足首が千切れたとかって可能性だってある。
なので、まだ死だと考えるのは早計だ。
とは言え確率的には……
「な、なあ……安田、母さんに何かあったのか」
「お前のお袋さんがどこにいるのかは……まあ分かった」
「ほ、本当か!」
俺の言葉に、山田が凄く嬉しそうな顔になる。
こんな顔を見せられたら、反応が二つに分かれてる事を話し辛くて仕方ない。
「ああ、でもどんな状況かは行ってみないと分からない。だから今から行って確認して来る。ただ……あまり期待はしないでくれ」
二つに分かれてるとは口にこそしなかったが、余り良い状態でない事は伝えて置く。
とにかく、今は確認が優先だ。
「……わかった」
余り期待するなと言う俺の言葉に、山田が泣きそうな顔になる。
「それじゃ、魔法を使って速攻で確認してくるよ」
「安田……よろしく頼む」
俺は山田の家を後にし、少し離れた人気のない場所で魔法の光を纏う。
日中に闇を纏うのは目立ちすぎるからだ。
まあ光も大概目立つ訳だが、闇と違って高速で飛ぶ光なら、謎の飛行物体としてネットをにぎやかす程度で済むだろう。
「魔法を使える奴だと気づくかもしれないが……」
そこは気にせず、とにかく今は急ぐ事にする。
手足が千切れている程度なら、急げば助けられる可能性があるからだ。
逆に時間をかけると、その状態でも死亡する可能性が跳ね上がってしまう。
――だから急ぐ。
俺は魔法で高速飛行し、反応のある場所へと向かった。
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