第36話 蘇生
地上に出ると廃旅館は完全に崩壊していた。
爆発で崩壊したであろう一帯——かなり広範囲――を探索し、魔力の痕跡を幾つか見つけはしたが、そこから別のモノに繋がる物は残念ながら見つける事は出来なかった。
まあその辺りもちゃんと考えて処理したと言う事だろう。
張ってある魔法から大した相手じゃないと判断したんだが……
確かに出て来た二人はゴミレベルの雑魚だった。
だがその上の人物は侮れない。
中々厄介な相手の様だ。
「うーん……あれ?ここは……」
「起きたか」
取り敢えず旅館の崩壊した跡に戻った俺は、亜美を亜空間から取り出し魔法を解除して目を覚まさせる。
「安田君……あっ!?そうだ私急に眠くなって!」
「俺が魔法で寝かした。対処する様子をお前に見せるのは、流石に憚られたからな」
「そっか……皆、駄目だったんだね……」
「ああ」
「うっ……く……」
亜美が顔を押さえ、泣き出す。
まあ友人が死んだのだから、悲しい気持ちは分かる。
だが、余りちんたらしている時間はない。
廃旅館や、地下道なんかが崩壊する程の爆発が起きたのだ。
いくら山の中とは言え、相当大きな音が響いたはず。
探索にも結構な時間をかけてしまっているので、そう遠くないうちに警察やらなんやらがこの辺りに来る可能性は高い。
「亜美、悪いけどここにあまり長く留まる訳にはいかない。それと、遺体はここに置いて行く」
「そん……な……ヒック、三人を……ここに置いてくなんて」
「遺体を持って帰っても、親族がどこにいるのか分からないからな。勝手に葬る訳にもいかないし、ここに残して警察に身元を調べて貰った方がいいだろう」
これが悪人なら迷わず燃やして地中深く埋めておしまいだが、彼女達はただの被害者だからな。
そう言う訳にもいかないので、親族の元に返すのがベターだ。
まあ友人三人は家族仲が宜しくなかったようだが、それでも亜美が勝手に葬るよりかはいいはず。
「そう……だね。私が勝手にしたら不味いよね……」
「じゃあ出すぞ」
俺は7人の遺体を亜空間から取り出す。
彼女達はネクロマンシーを解く際に頭部を吹き飛ばしているが、その損傷は亜美が目覚める前に魔法で修復しておいた。
まあ、最低限見れる程度ではあるが。
死体の完全修復は流石にできない。
「由香……美紀……彩陽……ごめん。ごめんね、助けてあげられなくって」
三人の死体に縋りつき、亜美が謝る。
もっと早く俺に相談していれば、とでも思っているのだろう。
確かに、連絡が取れなくなって直ぐに俺に泣きついていれば助かっていた可能性は高い。
彼女達の死体の状態から考えると、殺されたのは恐らく昨日あたりだろうからな。
まあだが、過ぎた話ではある。
侵入に気付いた時点で結局殺されていた可能性もあるし、何より、もっと早い段階で相談されても俺が断っていたはず。
そう考えると、結局はこうなる運命だったのだ。
因みに、遺体には特殊な魔法によるコーティングをかけておいた。
触っても分らないタイプの奴だ。
何故そんな真似をしてるのかって?
亜美が泣きついたら遺体に彼女の痕跡が残ってしまうからだ。
変死体だから確実に色々調べられるだろうし、その時亜美の痕跡が彼女達についているのは宜しくないからな。
警察に捜索願を出しに行くほど親しい知人でもある訳だし。
「亜美」
10分ほど待ってから声をかける。
「ごめん……もう大丈夫だから。ありがとう」
「もう一度お前を寝かせるぞ。亜空間に入れて運ぶから」
「え?じゃあ車は置いて行くの?」
「まさか。車も亜空間に入れて運ぶ。爆発の通報があった後に、山の方から車で降りてきたら警察に目を付けられるからな」
「うん、わかった」
俺は亜美を眠らせ、車と一緒に亜空間に放り込む。
そして自分は闇を纏って、空を飛んで家の方へと向かう。
が、そのまま家にはいかず。
一旦山中に降り立ち、精霊魔法で山の中に穴を掘ってその中に入った。
そして亜空間から2体の遺体を取り出す。
ネクロマンシーを使っていた二人の遺体だ。
「取り敢えず、帰る前に試すだけ試しとくか」
何を試すのか?
それはこの二人の蘇生だ。
――俺は蘇生魔法を習得していた。
但し、その成功率は限りなく、というかほぼ0だ。
魔法に特化した賢者のアトリですら、ゼロコンマの確率でしか成功出来ない程この魔法の成功率は低い物となっている。
構築上は問題ないにもかかわらず、成功率が猛烈に低いこの魔法。
その余りの成功率の低さから、死者の蘇生が天の法則に逆らう行為であるため、神が横やりを入れているという説が囁かれる程だった。
まあ俺は神様に転生させて貰ってる訳だが、その辺りが実際どうなのかは知らない。
転生時は蘇生魔法の事など知らなかったし、帰る時もそんな質問をする気力も無かったからな。
まあ要するに、成功率は限りなく0に近いけど、試しにこの二人を蘇生しようって訳だ。
その目的は、もちろん情報収集のため。
え?
蘇生魔法が使えるのなら、亜美の友人達の蘇生も試してやれって?
それは出来ない。
何故なら、失敗した時のリスクがくっそ高いからだ。
失敗したらどうなるかって言うとだな――
「深淵の淵より帰還し、奇跡の元蘇れ。リザレクション」
片方の死体に向かって、俺は蘇生魔法を発動させる。
すると死体がべきべきと音をたてて変形して行く。
皮膚が弾け、筋肉がむき出しになり。
骨と言う骨があらぬ方向にねじれ。
目や口等の穴が、斜めや縦に裂けていく。
その姿は正に新手のクリーチャー。
「失敗だな」
――そう、失敗すると化け物の様な姿になってしまうのだ。
そして一度この状態になってしまうと、回復魔法でその異常な状態を回復させる事も出来ない。
何故なら、そう言う姿の生き物として蘇生されてしまっているからだ。
化け物の様な姿が通常の状態である以上、回復魔法などでそれを癒す事は出来ないという訳である。
もちろん、殺してもう一度蘇生しても同じ。
むしろもっとひどくなるのは目に見えていた。
「が……ぎゅぎゅぐゆ……ぐえ……がっっっっ!?」
当然の話だが、機能的に滅茶苦茶な状態の生物になってしまった者がそう長く生きられる訳もなく。
苦し気に呻いた後、そいつは断末魔の声を上げて絶命してしまう。
化け物になって、更にもう一度死ぬ。
ハッキリ言って、かなり残酷な状態である。
だから亜美の友人や一緒にいた4人には、蘇生魔法を掛けなかったのだ。
まあ持ってきた二人は屑だから気にせずかけるけど。
「深淵の淵より帰還し、奇跡の元蘇れ。リザレクション」
もう一人にもかけたが、そっちもやはり大失敗。
「ちっ、使えない奴らだ」
まあ成功率を考えたら、上手く行ったら超絶ラッキーってレベルだから仕方がない事だが。
「ワンちゃんタリスマンの材料にするって手もあるけど……」
何となくそんな事を考えたが、まあ止めとこう。
本人が死にたいって望むぐらい蘇生させまくるのも面倒くさいし。
そもそも、何処まで意識が残ってるのかも怪しいからな。
死体を燃やして地下深くに沈めた俺は、今度こそ家の方向に向かう。
そして近所の人気のない場所で車と亜美を亜空間から取り出し、亜美を起こしてから帰宅した。
因みに、亜美の側について慰めてやるなんて真似はしない。
変に優しくして依存されても敵わないしな。
ま、大人なんだから一人で立ち直るだろ。
たぶん。
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