第35話 自爆
「お出迎えだな」
地下への階段を下り終え、真っすぐ続く通路の先は広い空間となっていた。
前方から何かが動く気配と魔力を感じ、俺は足を止める。
「お……お出迎えって……」
俺の言葉に亜美がつばを飲み込む。
「言葉通りだ」
俺の魔法が照らす範囲に、人影が入って来る。
何かと激しく争った形跡のあるボサボサの髪にボロボロの格好をした、乾いた血の跡がある女性だ。
その右手には、俺の知る黒い物が握られている訳だが……
「ゆ……由香!」
その女を見て亜美が声を上げる。
どうやら、現れたのは誘拐された彼女の友達の様だ。
「美紀!彩陽も!!」
更に女性が二人。
それと、男が4人姿を現す。
全員同じ様な状態である。
全部で7人なので、亜美の友達と一緒に廃旅館に来たメンバーと考えて間違いないだろう。
「よかった!無事だったんだね!」
「待て」
亜美が彼らに駆け寄ろうとしたので、俺はそれを手で制した。
彼らから感じる魔力が俺のよく知る物だったからだ。
俺は呪術に明るくないが、この魔力は間違えようがない。
異世界において最もよく使われる呪い。
それは――
「安田君?」
「残念ながら、お前の友達はもう死んでいる」
「へ?どういう事?」
「分かりやすく言うと……あの7人はゾンビだ」
――死体操作。
呪術で操られるそれは、死体を使った只の操り人形なので、正確にはゾンビではない。
ゾンビと口にしたのは、その方が亜美に手っ取り早く伝わると思ったからだ。
「ゾ、ゾンビって……じょ、冗談だよね?」
「事実だ」
俺は素早く魔法を詠唱する。
そして亜美を眠らせた。
「は……ふぁれ……いしき……が……」
死体操作は、呪いの核となる物を死体に埋め込んで操る魔法だ。
埋め込む場所は、生前その肉体をコントロールしていた部分。
つまり脳である。
そして死体操作で操られている死体を止めるには、それを破壊する必要があった。
亜美はきっちり見届けると言ってたが、流石に知り合いの頭部を破壊する様を見せる訳にもいかないからな……
因みにタリスマンにはこういった魔法を防ぐ効果もあるのだが、俺の製作した物なので、俺の魔法には反応しない様にしてある。
「どうでもいいけど……隠れてないで姿を見せたらどうだ?」
7人の後ろ。
俺の言葉に反応し、生み出した魔法の光の届かないない場所からローブ姿の男が二人姿を現す。
「気づいていたか」
「魔力でモロバレだぞ」
一応隠してはいる様だが、俺には奴らの魔力がハッキリと見える。
死体操作を使って7人を操っているのは、こいつらで間違いないだろう。
「貴様……魔法協会の者か」
「魔法協会?」
聞いた事のない名だ。
名称に魔法とついているので、魔法に関する組織なのだろうとは思われるが……ゾンビを処理したら、そこの事もこいつらから聞き出すとしよう。
「とぼけるな!」
俺の反応を嘘と捉えたのか、もう片方のローブの男が声を荒らげる。
この様子だと、奥の奴らとは友好関係にはない様だな。
魔法協会とやらは。
「別にとぼけてはいないんだがな」
「答える気はない様だな。まあいい。お前が何者であろうと、此処の事を知られたからには消えて貰うしかない。構えろ」
ローブの男の命令を受けて、7人の死体がその手に持った黒い物を俺に向ける。
少し前に俺に絡んで来た奴らが持っていた物と同じ物。
そう、銃だ。
え?
ゾンビが銃を使うのかだって?
確かに映画とかだと、アンデッドは動きが緩慢で噛みつくぐらいしかしてこない。
だがこいつらは操られた死体であって、ゾンビではないのだ。
身体能力も生前と大差ないし、道具類も問題なく使える。
「貴様の魔法詠唱速度は相当な物だったが……」
ローブの男二人がチラリと倒れている亜美に視線を投げかけ、懐から取り出して銃を俺に向けた。
いやお前らもそれ使うのかよ?
「くくく、果たして銃よりも早いかな?」
「……」
一瞬、相手が何を言ってるのか分からなかったが……
ああ。
魔法を詠唱する前に、銃で撃ち殺すって意味か。
成程、確かに銃の先制能力は詠唱のある魔法より遥かに高い。
恐らくだが、この世界の魔法を扱う者の身体能力は低いのだろう。
呪印で強化されているギャオスを基準で考えるなら、銃程度でも撃たれまくったら確かに厳しいだろうと思われる。
「投降するなら命だけは助けてやる。もちろん、知っている情報は全て吐いて貰うがな」
「そんなもん効かねーよ」
調べたところ、銃は口径次第で威力が変わるとの事。
そして奴らが構えている物の銃口は、前に試しに手を撃った物と大差なかった。
なので直撃してもノーダメージだ。
銃から魔力は感じないし、何らかの魔法で強化されてる可能性もゼロ。
冗談抜きで、俺には何の脅威にもならないオモチャである。
「戯言を……撃て!」
7人の死体が。
そしてローブの男達が銃の引き金引く。
発砲の大音量が連続で響き、大量の銃弾が真っすぐ飛んでくる。
取り敢えず、それを全て俺は手で受け止め続けた。
喰らってもノーダメージなら、受け止める必要はないんじゃないか?
確かに俺はノーダメージだ。
だが、銃弾を受ければ俺の着ている物に穴が開いてしまう。
母が用意してくれた服を、こんな死体遊びするゴミ共のせいでダメにするなど論外である。
まあ躱しても良かったんだが、それより全弾受け止めた方が相手への脅しにはなるかなと。
「ば、馬鹿な……」
「そんな事が……」
カチカチと空撃ちの音が響く。
銃弾を討ち尽くした様だったので、両手を開いてキャッチした鉛玉を全て地面に落としてやると、ビビったのかローブの男二人が及び腰で数歩下がる。
「だから効かないって言っただろ?」
「くっ!奴を始末しろ!」
ローブの男が死体に命令を下す。
と同時に、踵を返してその場から逃げ出した。
中々いい判断能力である。
まあ逃がさないけどな……
突っ込んで来る7人に、俺の方から突っ込む。
そして彼女達の眉間やこめかみに、すれ違いざまに指を突き刺して魔力を放った。
放った魔力に打ち抜かれた呪いが爆発し、全員の頭部が破裂して大穴が開く。
こうなるから亜美を寝かしたのだ。
そのまま俺は逃げた二人を追うが……
「いぎゃああああ!!!」
「ひぎゅあああ!死にたくびぃぃ!!」
俺が追い付くよりも早く、ローブの男達が藻掻き苦しんで地面に倒れてしまう。
駆け寄って確かめると、二人の命はもう尽きていた。
「情報を取らせないため始末しやがったか」
二人の右腕には呪印が刻まれていた。
こいつらの上の人間が何らかの方法で此方の様子を見ていて、この呪印でトカゲのしっぽ斬りをした様だ。
「はぁ……」
続いてそこかしこで爆発音が響き、俺は溜息を吐く。
どうやら下っ端二人切り捨てるだけではなく、あわよくばこの場所ごと俺を消すつもりの様だ。
まあそれが出来なくても、証拠の隠滅は出来ると考えての行動だろう。
「中々徹底してやがるな」
たかだか侵入者二人相手に、自分達の拠点を丸々潰す。
一見やり過ぎの様にも思えるが、それで正体不明の強者を始末できるのなら安い物である。
「まあしょうがない。脱出するか」
崩れ落ちる瓦礫を躱しながら、俺は死んだ二人の死体と、操られていた7人の死体を素早く引きずって亜美の元へと戻る。
彼女の体は大きな瓦礫の下敷きになっていたが、特に怪我はない。
俺の渡したタリスマンがあったからだ。
バリアが完璧に彼女をガードしている。
魔法を高速で唱え、そのまま9人の死体と亜美を亜空間へと纏めて放り込み。
俺自身は魔法で天井をぶち破って外に飛び出した。
拙作をお読みいただきありがとうございます。
『面白い。悪くない』と思われましたら、是非ともブックマークと評価の方をよろしくお願いします。
評価は少し下にスクロールした先にある星マークからになります。




