第34話 痕跡
廃旅館を一通り回って確認した所、出入りできそうな場所全てに侵入者を感知する魔法が設置されている事が分かった。
そしてそれ以外は――
「床下に空間があるな」
「え?そうなの!?」
――床下に空間がある事を見つける
「ああ。幻覚系の効果で誤魔化されてるから、普通じゃ気づかないだろうけど」
俺はしゃがみ込んで床に手を付き、魔力を流し込んで無理やり解除する。
魔法系の解除方法は色々あるが、魔力に自信があるならこれが一番手っ取り早い。
まあ生物にかかってる物にこれをやると対象を傷つけてしまう恐れがあるが、今回は床なので気にする必要は皆無だ。
「うわ!ほんとだ!」
魔法を解除した事で、床に現れた鉄板の扉を見て亜美が驚く。
その扉を持ち上げる様に開くと、そこは地下へと続く階段になっていた。
「さっきの部屋で最近魔力を使った形跡があった」
魔力の痕跡からだけではどういった物かまでは分からないが、恐らく、連れ去られた7人を無力化するなりなんなりする為に魔法や呪術を使ったのだろうと思われる。
「その魔力の痕跡はこの先に続いてる。誘拐された7人はここから連れ去られたんだろう」
魔法をかけられた側にも、当然だが魔力の痕跡は残る。
だが、魔力の痕跡はこの地下に向かう階段へと繋がる物だけだ。
なので魔法をかけられた後、別ルートで連れ去られた可能性は極めて低いと言えるだろう。
腕の立つ奴なら、魔力の残滓を追跡出来ない様にする事も出来るだろうが……
地下へと続く痕跡をこれでもかと残しているのに、7人の運搬ルートだけそれを消す意味はない。
罠の可能性も考えられなくもないが、出入り口に設置された魔法のレベルを考えるとその可能性は限りなく低いと思われる。
ま、そこも含めて罠って事もあり得るが。
「この先に由香達が……」
「ここから先、いやな物を見る可能性がある。何だったら、俺の作った魔法の亜空間で寝ててもいいぞ」
死体がそこらに転がっている可能性も十分考えられる事だ。
亜美も友人の無残な姿など見たくはないだろう。
そう思って言ってやったのだが――
「ううん、大丈夫。安田君を引っ張り込んでおいて、自分だけ嫌な物に蓋をするような真似は出来ないよ。気を使ってくれてありがとう」
「そうか」
「それに……きっと無事だって信じてるからさ」
状況的に考えて、かなり楽天的な思考と言えるだろう。
だが、希望を持つこと自体は決して悪い事ではない。
亜美が友人達の生存を信じて行動するなら、俺がそれを否定したり止めたりするのは野暮ってものである。
「わかった。無事だといいな」
「うん」
俺は亜美を連れ、地下への階段を下る。
魔法を解除しているので、俺達がたんに廃墟に迷い込んだだけじゃない事は相手にも伝わっているだろう。
なので、ここからは少し気を引き締める必要がある。
俺だけならともかく、亜美も一緒に行動してる訳だからな。
まあアミュレットもあるし、大丈夫だとは思うが。
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