第31話 頼み事
集会の翌日から、ショーコとエミは俺に話しかけて来なくなった。
どうやらちゃんと風早が言い聞かせてくれた様だ。
それから数日、平和な勉強ライフを過ごせた訳だが――
山田どうしてるかな?
そんな考えが頭に浮かぶ。
もちろん妹へのケアに時間がかかるのは分かっているが、それを考慮しても長すぎる気がしてならない。
もう数日待って来ない様なら、いっぺん様子を見に行ってみるとしよう。
そんな事を考えながら、学校から家に帰ると――
「よっす」
――何故か玄関先に林亜美が立っていた。
彼女には、余程の事がない限り俺に関わらないよう言っていおいたのだが……
「どう見ても緊急事態には見えないんだが?」
見るからに元気そうだ。
とても窮地に追い込まれている様には見えない。
「いや、実はちょっと困った事があって……」
「ちょっと困った事程度で訪ねてくんな」
俺は亜美を無視して鍵を開けて家に入ろうとするが――
「ストップストップ!本当に困ってるんだって!力貸してよ!」
――腕を引かれてしまう。
果てしなく迷惑な奴だ。
「はぁ……話位は聞いてやる。言っとくけど、つまらない用事だったら顔面粉砕するぞ?」
冗談抜きで。
俺は相手が女でも、ふざけた真似をするなら容赦しない。
「安心して。つまらない事で安田君の所には来ないから」
「上がれ」
胡散臭いと思いつつも、俺はいやいや亜美を家に上げる。
コイツ結構目立つ容姿してるからな。
玄関先で立ち話をすると、無駄に目立ってしまいかねないのだ。
「まあそこにに座れ」
リビングに彼女を通し、テーブルの席に座るよう勧める。
「そっちは安田君の席?」
「そこは俺の席だ」
座れと勧めたのは、いつも俺の座っている方である。
「ん?そうなの?なんで自分の方を?」
「良いから黙って座れ」
亜美は化粧と香水の匂いで臭い。
そんな彼女を母の席に座らせたら、その嫌な匂いが席に付いてしまうだろう。
だから俺の席に座らせたのだ。
――母の匂いを汚させないために。
ま、流石に面と向かってその事は言わないが。
「お茶でいいな」
「あ、どうも」
取り敢えず麦茶を入れて出す。
コーヒーや紅茶もあるが、こいつにはこれで十分だ。
所詮招かざる客だしな。
「で?困った事ってのは?」
「あ、うん。実はあたしの知り合いと連絡が取れないんだ」
俺は右手で握り拳を作って、それを亜美に見せつける。
「知り合いと連絡が取れないから俺に何とかしろとか、殴って下さいと言ってるとしか思えないんだが?」
「違う違う。ホント緊急事態なんだって。実は三日前――」
亜美の話を纏めるとこうである。
三日前、亜美の友人三人が男四人と一緒に、夜の心霊スポットに遊びに向かったそうだ。
だがそれ以降ぱたりと連絡が途絶え、此方から連絡しようにもスマホの電源が切れている状態だとの事。
まあ要は音信不通って奴だな。
そこで亜美は友人の身に何かあったんじゃないかと心配して、俺の所に相談しに来た。
という訳だ。
「警察行け、警察」
人が消えたなら、それを探すのは国家機関のお仕事である。
一般人の俺が一々腐心する事ではない。
「もちろん行ったよ。けど、アタシは加奈子達の家族でも何でもないからさ。日数もそれほど経ってないし、警察も真面に取り合ってくれないんだよ」
「じゃあまず、家族にその事を伝えればいいだろ?」
「まあそうなんだけど……加奈子達、家族とは折り合い悪くて全員家を出ちゃってるんだよねぇ。だからあたしも連絡先とか聞けてないんだ。だから頼れるのは安田君だけなんだ!このとおり!お願いします!」
亜美が両手を合わせ、俺に頭を下げる。
何を持って、頼れるのは俺だけと思ったのか謎だ。
完全に関わりのない話だと言うのに。
「力を貸してくれたらなんでもするから!マジお願い!!」
何でもする、ねぇ……
俺がこいつに望むのはただ一つ。
二度と俺に近づくな、だけである。
ただそれを求めてしまうと、本当に何かあった時に弊害が出てしまう。
厄介な話だ。
「俺は警察や探偵じゃないんだが?」
「安田君は魔法使えるじゃん。お願い!この通り!」
「魔法は万能でも何でもないんだがな……」
痕跡から追跡する魔法なんかもあるが、俺が扱えるのは低レベルな物だけだ。
魔法が使われてるなら話は変わって来るが、そうじゃないなら、行方不明者の追跡は難しいと言わざる得ない。
「まあ出来るだけの事はしてやるけど、あんまり期待するなよ」
下らない理由なら断ったが、友達の事を心配しての事だ。
多少力を貸してやっても罰は当たらないだろう。
「やったぁ!ありがとう安田君!」
「くっつくな」
亜美が立ち上がって俺に抱き着いて来る。
香水臭くて敵わん。
俺は行方不明になっている7人の痕跡を求め、深夜亜美と一緒にその心霊スポットへと向かうのだった。
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