第29話 仲良く
「別にお前の話には興味ないし、俺の事を喋るつもりもない」
危険人物でないかを確かめるためと風早は言ったが、嘘なんかいくらでも付けるので、お互いの暴露に意味は全く感じない。
まあ風早は金持ちっぽいので、俺の話が本当かどうか調べる術はあるのかもしれないが、俺側の確認方法は拷問一択だ。
そして拷問をかけるならもう相手を生かしておく意味もないので、結局話が本当か嘘かなどどうでもよくなる。
つまり、聞くだけ時間の無駄という事だ。
「人には話せない事をしたと、考えさせて貰うけど?」
「好きに判断して貰って結構だ」
「そうか。わかった。じゃあ君の話は聞かない。で、俺なんだけど――」
風早は何を思ったか、どういった経緯で人を殺すに至ったかを話し出す。
何考えてるのかよく分からない奴である。
――因みに話の内容はこうだ。
家が金持ちなので子供の頃誘拐され。
そしてそれに対して、風早の親は身代金を出さなかった。
当然身代金を手に入れられなかった誘拐犯共が風早を生かしておく訳もなく、殺されそうになったそうだ。
その際、機転を利かして大人を三人殺したのが彼の殺人歴である。
その話で気になったのが――
「何でお前の親は金出さなかったんだ?お前の扱いが悪い様には見えないけど?」
――この点だ。
風早が冷遇されていたのならその話も分かる。
が、こいつは今こんなデカい店を我が物顔にしている状態だ。
しかも親の子会社の警備部門に顔を利かせる立場——ショーコとエミの話を信じるなら。
冷遇されているとは到底思えない。
まあ状況、風早の家庭内での立ち位置が変化したか。
そもそも作り話だから粗があるってだけなんだろうとは思うが。
「ああ、それかい。単に親を脅して色々と引き出してるだけだよ。例えば、ウィングエッジのメンバーで新聞の一面に載る様な事件を起こすとか、ね」
金持ちは醜聞を嫌う。
いや、金持ちじゃなくてもそうか。
まあだが金や立場のある奴の方が特に嫌う物だ。
身内の醜聞なんて物は。
「ああ、もちろんそんな事は本当にはしないよ。俺を信じて付いて来てくれる仲間を裏切る様な真似はしたくないからね。あくまでも、ただの脅しさ。まあでも、親からしたら不良学校に行った息子の脅しは無視できないんだろうね」
良い所のぼっちゃんなのに、不良のパラダイスみたいな底辺学校にいるのは違和感全開だったが……親を効率よく脅すためなら納得だ。
「なるほどな。所で……何で話したんだ?俺は話さないってハッキリ断った筈だけど?」
「俺の事を知って貰う為だよ。安田君は信頼できると思ったからね」
「どういう状況で人を殺したか話さないのにか?まさか……話さなかったから信頼できるとか、そんな馬鹿な理由じゃないよな?」
嘘で誤魔化そうとしなかったから。
だからこいつは信頼できる。
なんて浅い理由だったらびっくりだぞ。
「ああ、それもあるね。けどそれ以上に――君の眼さ。俺は人を見る目には自信があるんでね。君は私欲のために人を殺す様な人間の眼をしていない。だから」
「目ねぇ……」
確かに、俺が人を殺すのは必要な時だけで、そこに私利私欲は混ざってはいないが……
「目で俺がどういう人間か分るんだったら、何で話を聞こうとしたんだ?」
本当に目を見ただけでそれが分かるのなら、そもそも最初っから聞いてこなかった筈だ。
「ああ、それはさ……お互いの秘密を打ち明け合えば、君と仲良くなれるんじゃないかと思ってね。同じ学校。同じ気孔闘士どうし。仲良くできたらいいと思ってさ」
秘密を打ち明ければ仲良くなる、か。
秘密の共有が仲間意識を作るのは確かだが、そうならなかった場合、俺の経験上殺し合いになる事が多いんだが……
まあそれは異世界の話だから、地球、というか平和な日本ではまた話は変わって来るか。
「悪いけど……俺はウィングエッジに入る気も無ければ、あんたと馴れ合うつもりもない。だからエミやショーコに俺の勧誘を止める様に言っといてくれ」
「そうか、残念だよ。分かった、二人には俺から言っておく」
「そうしてくれ。あ、そうそう。一つ聞きたいんだが、師匠とコンタクトするにはどうすればいいんだ?」
風早からは気孔闘士について大した話を聞けそうになかったので、師匠とやらと接触できないか尋ねてみた。
「いや……俺も師匠に最後に会ったのは何年も前で、連絡先なんかは知らないんだ」
「そうか。じゃあ集会には一切興味ないから俺は帰らせて貰う」
これ以上話をする必要は感じない。
なので風早にそう告げて俺はソファから立ち上がり、さっさと帰宅する。
「ふむ……」
家に戻った俺は、椅子に座ってスマホで風早の口にした事件を探してみた。
「誘拐犯三人死亡って記事はあるな」
但し、誘拐されたのが誰かは乗っていないし、三人の死亡理由も内輪もめ的に書かれている。
つまり、嘘か本当かは判別しようがないって訳だ。
「取り敢えず……風早って奴は一切信用しない方が良さそうだな」
それが今日のやり取りで俺の出した結論である。
理由は至って単純。
全ての話にきちんとした裏付けがないからだ。
こういう時は、全て真っ赤な嘘と疑うに限る。
「ま、基本かかわりのない人間だし。何か余計な事をしてこない限りはどうでもいいか」
果てしなく時間の無駄だった。
まあ元からたいして成果は期待していなかったので、どうでもいいが。
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