第26話 酒?
「おい、何処へ連れて行くつもりだ?」
放課後、エミとショーコに連れられてきたのは繁華街だった。
集会は学校のどこかででする物だとばかり思っていたのだが、どうやら違った様である。
「いいからいいから、ついて来いって」
そのまま二人に俺は黒塗りの外観の大きな店——どう見ても酒類を提供するっぽい場所に連れ込まれた。
酒場で集会とか、完全に不良以外何物でもない。
まあ、あの学校には基本不良しかいない訳ではあるが。
「おう、来たな」
少し薄暗い店内に入ると、見知った顔——本田勝次が黒服っぽい服を着て、封の空いたボトル片手に挨拶して来た。
「それは酒か?」
「ん?違う違う。ただのシャンパン風ジュースだ。集会で酒なんて飲む訳ないだろ」
真昼間から学生が飲酒する様なふざけた集まりなら、取り敢えずエミとショーコと勝次をぶん殴って帰るつもりだったが、どうやら酒ではなかった様だ。
……集会じゃなけりゃ飲んでそうな口ぶりではあるが。
まあ個人的に酒を飲む事に対しては、どうこう言うつもりはない。
俺は絶対正義マンじゃないから、明確に問題になる犯罪でもない限りスルーする。
もちろん、俺を巻き込むなら話は別ではあるが。
「風早はそう言うの嫌うからね」
「そうそう。結構お堅い委員長タイプなんだよねぇ」
「ま、そこがまたいいんだけど」
どうやら、不良学校のトップにしては真面目君の様だ。
あくまでも不良のトップにしては、だが。
普通は酒なんて飲まないのが当たり前だし、そもそも集会とかも開かないからな。
「勝次、そいつが例の奴か?」
「とても強そうに見えねーな」
他の連中がこっちに寄って来て、無遠慮な視線を俺に向けてくる。
挨拶もなしでじろじろ見て来るとか、礼儀知らずな奴らだ。
ま、不良にそんな物を求める事自体間違っているのだろうが。
「ああ。こいつ滅茶苦茶つええぞ。俺も一発でのされちまったからな」
勝次が自慢気にそう語る。
殴り飛ばされて嬉しそうにするとか、こいつ変態か?
「マジか?」
「人は見かけによらねーな」
「ふん……単に勝次が弱いだけじゃないの?」
二人より少し遅れてやって来た、金髪とピンクのツートンカラーの髪で露出の多いドレスを着たケバイ女が、不機嫌そうにこっちを見て来る。
エミやショーコより美人だとは思うが、鼻につく感じの、俺が一番嫌いなタイプの女だ。
こういうタイプの女は、旗色が悪くなったら直ぐ裏切るからな。
「おいおい、言ってくれるじゃねぇか」
「ばーか、かっちゃんが弱い訳ねーだろ」
「あたしらがナンバー2連れて来たからっていちゃもんつけんなよ、エリカ」
どうやら女子同士のマウントの為に俺を下げようとしている様だ。
くだらない事この上なしである。
「ふん、そんなヒョロガリ連れて来たくらいで調子に乗らない事ね」
エリカと呼ばれた女はそう吐き捨て、向こうの方にいる女の一団の元へ行ってしまった。
「しかし……結構多いな」
女の一団の規模は10人程。
それ以外にもはチラホラ見かけられ、男も合わせると軽く30名以上になる。
思ってたよりずっと大規模な集会だ。
「こんなのまだまだ一部だぜ。他校の奴らも合わせたら100人は軽く超えるからな、ウィング・エッジは」
どうやらうちの高校限定の集まりではない様だ。
学校限定ならともかく、色んな所から不良を集めて風早って奴は一体何がしたいんだろうか?
生産性皆無の集団を纏めるその意図が、俺にはまったく理解できない。
「どうよ?規模だけでも風早の凄さが伝わって来るだろ?」
「安田ぁ、入りたくなって来たんじゃねーの」
エミとショーコが満面の笑顔でそう言って来るが、烏合を100名集めたからなんだと言う気にしかならない。
チリも積もれば山となるって言葉もあるが、チリは所詮チリでしかないのだ。
吹けば全て飛んでいってしまう。
そんな物を集める行為に、敬意の念を覚える筈もない。
「全然。まったく。微塵も思わないが」
「ほんと、安田は頑固だなぁ」
「ん?」
その時、店の奥の方が騒がしくなる。
騒いでいるのは、さっきエリカと呼ばれた女が混ざった女子の一団だ。
そいつらは誰かを取り囲んでいる様だった。
恐らくそいつが風早だろうと思われる。
奥の扉が開いているので、そこから出て来たのだろう。
つまり、女子の集団は出待ち状態だった訳だ。
「お、風早だ」
「あたし達も行こうぜ。紹介してやるよ」
エミとショーコが俺の手を引っ張って、強引に店の奥へとすすむ。
さて、噂の美男子兼、猿山の大将の顔でも拝ませて貰うとするか。
まああんまり興味自体はないけど。
拙作をお読みいただきありがとうございます。
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