第24話 希望通り
亜美の件を片付けてから数日。
週明けまでギャオスに呪印を刻んだ奴を張った訳だが、成果は出ない。
なのでこれ以上は時間の無駄と判断した俺は、そこで張り込みを打ち切る事にした。
「今日も山田は休みか……」
山田はあれからまだ学校に出てきていない。
まあ精神的ショックなんて、そう簡単に癒える物じゃないからな。
まだしばらく時間はかかるだろう。
放課後様子を見に行こうかとも思ったが止めて置く。
出来る事など無い訳だし、俺が下手に山田の家を訪ねたらその気配で妹さんのストレスが増えるかもしれないしな。
「安田。今日風早が学校に来るんだ。いっぺん顔合わせだけでいいからさ、うちの集会に出てくれよ」
「そうそう。お前だって風早見れば絶対気にいるって」
昼休み。
エミとショーコが変わらず勧誘して来る。
何を以てして俺がそいつを気に入ると思うのか、それが謎だ。
まさかイケメンだからとかじゃないよな?
女から見たら重要な要素でも、男から見た野郎の顔面偏差値なんざ鼻糞以下の基準なんだが?
と言うか、今日風早が来るって事は、普段は学校には来てない訳か。
まあ顔が良かろうが何だろうが、所詮不良は不良だな。
「興味ないな。仮に行くとしたら、勧誘ウザいから止めろってその風早って奴に苦情を言うけどいいのか?」
「おいおい。こんな美女と一緒に昼めし食えて、休み時間も談笑できるんだぜ?一体何が不満なんだよ」
「比較的全て」
元がアレだったのもあるが、更に俺には25年のブランクがあるため、現在の学力は結構残念な事になっていた。
それを取り戻すべく、出来れば休み時間も勉強したいと言うのが本音だ。
母も息子が馬鹿より、賢い方が喜んでくれるに決まっているからな。
だというのに、エミとショーコの二人はそれを邪魔するかの様に無駄に話しかけて来る。
それでなくても呪印関連に時間を割いているのに、休み時間まで削られたら溜まった物ではない。
「やれやれ。安田は相変わらずつれねぇなぁ」
俺は適当に二人をあしらいながら昼食をとり、勉強する。
「前から思ってたんだけど……安田は喧嘩が強いんだし、別に勉強なんかしなくていいだろ?」
喧嘩が強いと勉強が必要ない?
どんな理論だよ。
それが成立するのは末はチンピラか格闘家くらいのもんだ。
もちろんそんな物になるつもりはない。
母を心配させるような職業――チンピラは職業ではないが――なんざ、ありえないからな。
「意味が分からん」
「風早の所の子会社に、特殊な警備部門があるからさ。安田はそこに入ればいいんだよ。給料凄くいいらしいぞ」
子会社ね。
どうやら風早って奴は、そこそこ金のある家の人間みたいだな。
なんでそんな奴がこんな底辺学校に来ているのか、果てしなく謎である。
「俺はウィング・エッジとやらに入るつもりはないから、その選択肢は却下だ」
まあ仮に、それとは関係なく斡旋してくれると言われても断るが。
体を張る危険な仕事に就くつもりはないからな。
例え俺なら全く問題なかったとしてもだ。
「ほんと安田って頑なだなぁ」
なんら魅力の無い提案にノーを突きつける事は、世間一般では頑なとは言わない。
という正論を言ってもこの二人には通用しないので、適当に流すが。
「エミ、ショーコ。まさかそいつか?今日の集会に連れて来たいって言ってた奴は」
金色の五分刈りに、なんか稲妻っぽい形のそり込みっぽいのが左側に入ってる奴が教室に入ってきて二人に声をかけた。
集会云々言っているので、恐らくウィング・エッジの人間なのだろう。
「お、かっちゃん。そうそう、こいつが噂の安田」
「こいつがかぁ?」
エミにかっちゃんと呼ばれた男が、顏を近付け無遠慮に俺を値踏みしてくる。
「こんなひょろい奴が、ギャオスに勝てたとは到底思えねぇな」
まあ見た目だけで言うなら、そう判断するのも無理はないだろう。
実際異世界に行く前の俺なら、ギャオスを倒す所か、下手したらデコピン一発でやられてもおかしくない程虚弱だったからな。
「ギャオス自身が認めたんだから間違いないって」
「ほんとかよ、嘘くせーな。おい、お前。本当にギャオスに勝ったてんなら、その力を俺に見せて――」
馬鹿にした様な口調の、かっちゃんとやらの言葉が途中で途切れる。
何故か?
簡単な事である。
顔面をぶん殴ったからだ。
俺の力が見たかった様なので、文句はないだろう。
「かかか!かっちゃん!?」
「ちょっ!?安田何やってんだ!?」
吹っ飛んだ奴に、慌ててショーコとエミが駆け寄って批難がましい目を俺に向けてくる。
いや、批難されても困るんだが?
どう考えても、言動全てで俺に喧嘩売ってたし。
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