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第22話 うっかり

「……あれぇ?わたしぃ……はっ!?そ、そうだ!私誘拐されて!!ってここ何処よ!?何で安田君がいるの!?」


最初は朦朧としていたが、意識がはっきりしだすと亜美は直前の記憶を思い出して慌てふためく。


「安心しろ。お前を攫った奴らなら全員俺が始末した」


「へ?え?始末?え?」


「俺に粉をかけて来たから殺したって事だよ。後、服着ろ」


俺は拷問をかける前に脱がしておいた服――血で汚れない様に――を、亜美に手渡す。


「あっ!?」


そこで初めて自分が裸である事に気付いたのだろう。

彼女は慌ててそれを身に着けた。

尻の軽そうな女だが、最低限の恥じらいはちゃんと持ち合わせている様だ。


「あははは、裸見られちゃったねぇ。えーっと、ちょっと混乱しちゃってるんだけど……安田君が私を助けてくれたって事だよね?」


「ああ、そうだ」


「それで、そのために(じん)とかを……全員殺したと?」


一瞬、仁って誰だよって思ったが、まあ恐らく元カレの茶髪だろう。


「助けるためにってのは主じゃないな。俺に絡んで来たから、関わった奴らを皆殺しにしたついでにあんたを助けただけだ」


「あー、そうなんだ……」


我が家の安穏を乱そうとしたから、容赦なく皆殺しにしたのだ。

亜美は所詮オマケである。


「まあそれは良いとして…………不味くない?相手は誘拐犯だし、そもそも社会的にアウトな人たちだったけど……流石に殺したら殺人で捕まっちゃうよ。君」


「問題ない。証拠は全て隠滅してある。死体も当然出て来ない」


命を抜いた後の死体は全て燃やし、地下深くに沈めてある。


「そうなんだ……でも、日本の警察は優秀だって言うよ?」


「関係ないさ」


警戒すべきは警察よりも、魔法を扱える者達だ。

魔力を感知出来る人間が偶々近くを通ったりでもしたら、残留した魔力から異変に気付く可能性は0ではないからな。


とは言え、仮に見つけて地下深くまで掘り起こしたとして、完全に燃え尽きて灰になった物からそれが何かを特定する事はまず不可能だろう。

つまり、俺に辿り着く事は無いという訳である。


「自信満々ねぇ。ひょっとして安田君って、凄腕の殺し屋とかだったりする?」


「そんな訳ないだろ。ただ他の人間にはない力があるだけだ」


報酬で人を殺す外道と一緒にされるなど、心外極まりない。

俺が殺すのは基本悪人や邪魔者だけだ。


「人にはない力って?」


「魔法だ」


俺は魔法を唱え、水の魔法を発動させて見せた。

魔法によって生み出された水球は、俺の掌の上で猫や象などの様々な形へと変化する。


「すご……マジ魔法じゃん。この世に魔法なんて本当にあったんだ」


亜美がそれを見て目を輝かす。

だが、急に深く考えるようなそぶりを見せた彼女は――


「ひょっとして、安田君って30歳超えてる?」


――などとふざけた事を聞いて来た。


「それは只の与太話だ」


「あ、やっぱり」


童貞のまま30歳になると魔法使いになる。

そんな物は夢物語だ。

まあ異世界の年齢と合計すれば確かに軽く30は超えるが、もちろんそんな事は全く関係ない。


「まあという訳で、俺が殺人で捕まる心配はない」


「なるほど。所で……魔法使いなんて重大っぽい秘密を打ち明けたって事は、ひょっとして私に惚れちゃったとか?」


「寝言は寝て言え。そもそもお前を助けたのはついでだって言っただろうが」


惚れた相手を、蠅の始末ついで助けるなど聞いた事があるか?

俺はない。


「ああ、違ったかぁ。じゃあなんでそれを私に話したの?殺すつもり……だったら他の人達と一緒に殺してるよね?」


「なにも分らず助かったとして、情報のないお前がどんな行動をするか分からないからだ」


誘拐されて薬を打たれ。

気づいたら自分は助かっていて、意識不明の間に誘拐犯は全員行方不明。

普通の人間の感覚からしたら、それは果てしなく不気味な事態だろう。


それでも助かった事に感謝し、余計な事を考えず綺麗さっぱり忘れる。

もしくは、不明な状態に恐怖して口を噤む。


この二択だけなら秘密を明かす必要はなかっただろう。


問題はそうじゃなかった場合だ。

なぜそうなったのか嗅ぎまわり出したり、なんなら誘拐関連の情報を警察に持ち込む可能性だってありえた。

そうななると果てしなく面倒臭い事になりかねない。


だから敢えて明かしたのだ。

興味本位で嗅ぎまわるな。

余計な事を口にするなと、警告する為に。


まあ正体は隠したままで、余計な事をしたら殺すとシンプルに脅すという手もあったんだが……


純粋な被害者を、正体不明の相手からの恐怖で縛り付ける様な真似はしたくなかったからな。

だから敢えて正体を明かし、正々堂々脅しを入れ様という訳だ。


というのは冗談で……正体を明かす必要がない事には何を隠そう、今気づいた。

つまりただのやらかしである。


まあ正体を隠して裏でこそこそとか、基本馴れてないからな。

こういう失敗もあるさ。

取り敢えず強めに脅しておけば大丈夫だろう。


「亜美。俺はお前の恩人だ。まさかとは思うけど、その恩人の事を詮索したり、情報を他人に売るような真似はしないよな?俺は恩をあだで返されるのが一番嫌いだ。だからその時は、敵としてお前を処理させて貰うぞ」


俺の言葉に亜美の顔色が一気に青くなり、彼女の膝がガタガタと震える。

冗談や脅しではなく、本当に実行する事を亜美にしっかり刻み込むため、意図的に言葉に強い殺気を乗せたからだ。

素人でも確実に感じるレベルの殺気を。


「う、それって……殺すって事だよね?」


「ああ、そうだ。俺は敵に容赦しないタイプだからな。お前はそうじゃないと願ってるよ」


「ま、まあ私も恩知らずじゃないから。そんな真似はしないよ。でもさ……また薬とか使われたら、私の意思に関係なく漏らしちゃうかもしれない訳で……」


「安心しろ。それなら心配ない」


俺は先程作ったタリスマンを亜美に手渡す。


「えと……これは?」


「タリスマン。魔法でつくったお前の身を守る物だ。それを身に着けてれば薬物類は基本効かないし、銃で撃たれた程度なら傷一つ負う心配もない」


「え!?マジで!?そんなに凄いなら最強じゃん」


俺の説明に亜美が目を白黒させる。


「それと防御機能が発動すれば俺には分かるし、お前の居場所も随時把握できる」


「なんか……後半はストーカーが喜びそうな機能だね」


「どこで襲われたか分からないと助けに行けないからな」


誰が好き好んでお前の居場所なんか探るかよ。


まあタリスマンを身に着けている亜美を殺したり誘拐できる奴など、この世界にはそうそう居ないだろうが……


逆に身に着けていてそれでもどうにかされる様なら、相手は高位の魔法を操る者である可能性が高いと言えるだろう。

まあそれはそれで、手っ取り早くこの世界の魔法使いとの接触の足掛かりになる訳だが、歓迎する邂逅方法じゃないのは確かだ。


後は、気孔闘士の可能性もあるか。

6級程度の攻撃なら全く問題ないが、あの禿げデブよりずっと強い力を持つ奴なら話は変わって来る。


因みに、あの禿げからは気に付いての情報は皆無だった。

どうやら何者かに教え込まれた様だが、その相手の事を本人はよく知らなかった様だ。

まああの男からすれば、強い力をくれるのなら他はどうでもよかったって事だろう。


「えっ!?助けに来てくれるの?」


「当然だろう。お前が万一捕まりでもしたら、俺の情報が洩れかねないんだからな」


「あ……まあそりゃそうか」


「タリスマンを付けるぞ」


俺は亜美の手からタリスマンを取り上げ、魔法で生み出した鎖を繋げる。

そしてそれを彼女の左手に付けた。


「腕にピッタリだわ」


「その魔法の鎖は、お前がちゃんと身に着けてるかどうかを俺に知らせる効果がある。だから外して生活しようだなんて間違っても考えるなよ」


特殊な魔法で生み出した鎖だ。

大した効果がない上に、長時間は維持できない。

だがタリスマンに繋げればそこから魔力供給ができるので、タリスマンの力が失われるまでは維持できる。


「信用ないなぁ……」


出会って数日の相手を心から信じたら、それは只の馬鹿だ。

重要な事である以上、複数保険を掛けるのは当然の事である。


「じゃあここから出るぞ」


「そういやずっと気になってなんだけど、此処ってどこなわけ?なんか建物っぽくないって言うか、土っぽい感じがするんだけど。後、出入り口も見当たらないし」


「魔法であけた穴の中だ」


亜美の疑問に答えた俺は天井の土をどけ、彼女の手を掴んで飛び上がる。


「うはぁ!?体が浮いてる!?」


「今から視界が無くなるけど騒ぐなよ」


目立たない様。

飛んでいる姿を見られてもいい様、俺は魔法で闇を纏う。

当然亜美も一緒にだ。


「視界?ってなに!?急に暗くなったわよ!?真っ暗で何も見えない!?」


「静かにしてろ。黙ってられないなら殴って気絶させるぞ」


タリスマンがガードするから殴れない?

それなら問題ない。

俺なら防御機能を簡単に突破できるし、そもそも俺の攻撃は防げない様に設定してあるからな。


「う……はーい……」


「じゃあ行くぞ。舌を噛むかもしれないから、ちゃんと口は閉じとけ」


俺は感知魔法も発動させ、亜美を連れて家の近所まで飛んで帰った。

拙作をお読みいただきありがとうございます。


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