第21話 タリスマン
「10個中4個……」
俺は完成した宝玉型のマジックアイテム――タリスマンを見つめそう呟く。
タリスマンは身に着けた者を守るバリアを張るアイテムで、至近距離から銃で撃たれたぐらいではビクともしない防御性能を誇っている。
更に発動時には、制作者である俺に知らせる仕組みも組み込んでおいた。
これは母さんに渡す為の物だ。
今回みたいなトラブルが発生して、万一巻き込まれても問題ない様にするため。
後、ついでに亜美にも渡す。
証拠は残してないが、奴らの仲間が彼女の元に辿り着かないとも限らない。
何せ元カレと揉めてた訳だからな。
そこでまた名前を出されても敵わないので、亜美にもこのタリスマンを渡しておく。
……亜美を処理するのが一番確実で手っ取り早い訳だが、流石に被害者でしかない彼女を手にかけるほど俺も残酷ではないからな。
「成功率4割。まあ短時間だったししょうがないか」
ヤクザ共のアジトを燃やし、家に帰って母が眠りにつくのを待ってから家を出た俺は、人気のない山中に穴を開けてそこで連れ去った10人を拷問している。
情報収集のため?
勿論それもあるが、一番の理由はタリスマン製作の為だ。
そう、タリスマンの原材料は《《人間の命》》である。
命を材料にする事と、拷問に何の関係があるのか?
その答えは簡単。
――生への未練を断ち切る為だ。
タリスマンは命を媒介にする性質上、そこに未練が残っていると宜しくなかった。
未練は執念となり。
執念は怨念となる。
そして怨念は呪いを生み出してしまう。
なので、未練を持つ者を無理やり素材にすると、着用者を守るどころか逆に呪い殺してしまう結果になりかねないのだ。
だから生を放棄させる必要があったのだが――
壊しては治すと言う拷問は強烈だ。
だが、絶望して楽になるため心の底から死を望ませるのは存外難しい。
少なくとも、短時間でそれを成し遂げようとするのは賭けに近かった。
――その結果が10分の4である。
つまり、本心から死を望んだのが4人。
そしてその場しのぎの嘘を吐いていたのが6人という訳だ。
「しっかし……習ったタリスマンの製作がこっちの世界で役に立つとはな……」
異世界での最終決戦に際し、賢者アトリと共に一万近いタリスマンを用意した時の事を思い出す。
全員が未来のため、子供達の為にと、喜んで命を捧げていったあの時の事を。
「思い出すと少し憂鬱になるな」
世界は救われた。
その結果がある以上、彼らの願いは叶ったのだ。
とは言え、どうしても胸に重くのしかかる。
俺にもっと力があったならばと、考えずにはいられない。
「ま、考えても仕方ないか……」
過ぎた事をうだうだしてもしょうがない。
何故なら時は巻き戻らないし、仮に巻き戻っても、あの時点で出来る手段はあれだけだったのだから。
「取り敢えず、亜美を起こすか」
インベントリから亜美を取り出す。
麻薬に関しては、解毒系の魔法を数種類かけて体内を浄化してあるので、既に肉体は正常な状態へと戻っている。
後はかけてある魔法を解除して起こすだけだ。
「ふぁ?」
魔法を解除すると、程なくして亜美が目を覚ました。
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