第18話 幻覚魔法
皮を被って他人になりすますこの方法には、二つ程欠点があった。
まず自分より極端に細かったり背が低い相手には化けられない事だ。
無理に被ろうとすれば皮が破れたり、違和感全開の体型になってしまう。
逆に太かったり大きかったりするのは問題ない。
足りない分は魔力をワタがわりにして、隙間を埋めればいいだけだからな。
そしてもう一つの欠点だが、それは―—
心理的に物凄く宜しく無い事である。
他人の皮を被るのだから、まあ当たり前だわな。
気にしない。
もしくは楽しいとか言う奴がいたら、そいつは完全にサイコパスである。
なので真面な感覚を持つ俺にとっては苦痛以外何物でもない。
「ふむ……」
スッポリと頭から全身の皮を被った俺を見て、3人が絶句する。
そんな反応を無視して、俺は魔法で水鏡を出して自分の姿を確認する。
「90点って所か」
親しい人間に近くで見られたらバレそう。
そんなレベル。
調整すれば100点に近づける事も出来るが、時間もあまり無いので割愛だ。
まあそもそも、俺と分からなければいいだけだしな。
魔法で声を変えておく。
流石にこの姿と声で俺だと思う人間はいないだろう。
仮に事務所内が録画されていても、そこから俺に辿り着かれる事も無い筈だ。
因みに家周りは少々寂れてる場所なので、この車に俺が乗り込む姿を映されている心配は皆無である。
「おい、車を出せ」
「ひぇあ!?声が……あ、いえ。ど、何処にでしょうか?」
「どこにって、事務所に決まってんだろ?この事を知る残り5人はそこにいるんだろ?」
「あ、はい。全員いると思います……」
「じゃあさっさと出せ。俺は忙しいんだよ」
「はぃい!」
後ろからシート裏を蹴り飛ばすと、車が急発進する。
「そういやお前らの事務所は、外から見えなくする事って出来るのか?」
「可能です……と言うか、基本的に外からは見えません」
外からは基本見えない、ね。
まあ反社だから当然か。
家業を考えたら、逆に中が丸見えな方が問題だ。
「なら余計な心配はいらないな」
車で30分ほど走った所が3人の事務所だった。
外観に小窓はあっても、外から中は覗けない感じの縦長の建物だ。
「着きました……」
周囲に人影がちょろちょろあり、血まみれの三人が車から出てくれば確実に目立つだろう。
と言うか即通報物だ。
近隣の人間は事務所の事を知ってるだろうし。
そこに血まみれの三人が入って行くのを見て通報されない訳がない。
なので――
「これでよし」
俺は幻覚系の魔法を使い、周囲の認識を狂わせる。
これで普通の格好の3人に見える筈だ。
え?
そんな魔法があるなら、わざわざ不快な気分になってまで皮を被らず、それを使えばよかったんじゃないかって?
この魔法はあくまでも、周囲の人間の認識を狂わすだけの物だ。
機械類には効かない。
そのためもし監視カメラがあれば、俺の姿はそのまま映り込んでしまう。
俺は自分の痕跡を限りなく0にしたいからな。
因みに闇を纏って物理的に見えなくする魔法と、幻覚魔法のコンボは使えない。
相性の悪い組み合わせで、干渉しあってしまうからだ。
「じゃあ行くぞ」
建物よこの駐車スペースに止めた車から降りて、3人と一緒に俺は堂々と事務所へと入った。
家から結構遠かったんで、残された時間もそう多くない。
サクサクっと終わらせるとしよう。