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第15話 痴話げんか

「そのお姉さんと会ったのはここよぉ」


放課後、ギャオスに案内された場所は家の近所にある公園だった。

どうやらギャオスは比較的近所に住んでいた様だ。

まあそんな事はどうでもいいか。


「そうか、もう帰っていいぞ」


場所さえ分かれば奴にもう用はない。

ギャオスが側にいても無駄に目立つだけだし。


「あら、そう。じゃあ帰るわね」


公園内をぐるっと一周するが、特に魔力の反応は感じられない。


「取り敢えず一旦家にかえって、夜にもう一度来るか」


ギャオスがその女と遭遇したのは夜の11時と、結構遅かった様だからな。

よくそんな時間まで鞄探してたなって思わなくもないが、判断力の弱い子供故の行動って事にしておいてやろう。


家に帰り、夕食後母が眠るのを待つ。

朝起きるのが早い母は夜10時には眠るので、それを確認した俺は音を立てずに家から出て例の公園へと向かった。


「魔法を使うのは止めとこう」


下手に魔法を使えば相手に警戒される恐れがある。

なので4人組の時の様に闇を纏い、上空から見張ると言った手は無しだ。


「地道に待つとするか……」


俺は公園のベンチに腰を下ろす。

ギャオスの時の様に、向こうから接触してこないかを期待して。


「とはいえ、延々見張り続ける訳にもいかないよな」


取り敢えず、1、2週間見張って接触できない様なら諦めるとしよう。

別に絶対見つけないといけない訳じゃないし。


「ふぅ……」


暇つぶしがてら、心を落ち着かせ瞑想する。


この世界に帰って来てからは、暇な時間は全部勉強に費やして来た。

何せ25年もブランクがあった訳だからな。

一から頭に入れなおす事の多い事多い事。


なのでこうやって落ち着いて瞑想するのは久しぶりの事だった。


「ん?」


瞑想を初めて3時間程。

そろそろ切り上げて帰ろうかと思っていたら、遠くから人の争う声が聞こえて来た。

争ってるのは男女だ。


「ただの痴話げんかとも考えられるが……」


呪印を扱った奴との関連が全くないとは言い切れない。

俺は声の聞こえる方へと向かう。

すると人気のない路地に車が止まっており、その横で男女が揉めている姿が見えた。


男はがっしりしたタイプ茶髪ロン毛。

顔は俺の位置からでは見えない、

女性の方はケバ目の、水商売っぽい金髪だ。


……まあ絶対呪印とは関係ないよな。


「もういい加減放せよ!」


「ザッケンナ!お前は俺の言う通りしてりゃいいんだよ!!」


その時、男に腕を掴まれている女性と目が合う。

女性は一瞬俺に向かって何かを言おうとして、だが直ぐに視線を外した。


見るからにひょろい見た目してるからな。

俺。

助けを求めても無駄だと考えたのだろう。


好意的に見るなら、その上で俺が巻き込まれない様に配慮してくれたともとれなくもない。


ま、助けてやるとするか。


俺は気配を殺して素早く近づき、男の背中に掌底をかましてやる。

吹っ飛ばないタイプの、体内で衝撃が爆発するタイプの掌底だ。


「——っぁ!」


それを喰らった男が一瞬で白目を向いてその場に崩れ落ちた。

驚きに目を見開く女性と目が合う。

深くかかわるつもりもないので、俺は片手を上げて――


「じゃ、そう言う事で」


――その場を素早く立ち去る。


いや、立ち去ろうとして何故かその手を女性に掴まれてしまう。


まさか男を気絶させた苦情じゃないだろうな?

たとえ喧嘩してても、彼氏だったならありえなくはない。


「あんた強いね。こいつ格闘技してっから、背後からでも一発とか普通絶対無理だし」


「はぁ……」


苦情ではなかった様だ。


「最初目があった時、あ、こいつに助けを求めても無駄。逆に怪我させちゃうって思って声かけなかったんだけど……いやほんと、人は見かけによらないってのはこういう事よね」


どうやら好意的な受け取りであっていた様だ。

まあどうでもいい事なんだが。


「あいつさあ、顔が良くて喧嘩が強くて超好みだったのよねぇ。だから付き合ったんだけど、付き合って暫くしたら手を上げる様になってきてさ。まあそれでも顔が良かったから我慢したんだけど、その内お金がいるからクラブで働けとか言い出して来て。まあそこも我慢した訳よ。何せ顔が良かったから」


聞いても居ないのに、女は自分の身の上話を始めだす。

それも最高に頭の悪い内容の。


取り敢えず、この女にとって超がつく程顔が重要と言う事だけは分かった。

果てしなくどうでもいい情報である。


「そしたら今度は風俗で働けとか言い出しやがって。流石にあたしも堪忍袋の緒が切れた訳。あたしは体売るような安い女じゃないんだよ!お前とは別れる!って言って車降りた訳よ。そこから先はアンタの見た通りって感じ。いやほんと助かったわ。ありがとうね」


「気にしなくていい。じゃあ俺は家に帰るんで――」


「あんたってさ、学生でしょ?」


さっさと立ち去りたいのに女は俺の手を掴んだまま話を続ける。

俺が手を振り払わないのは、その掴んでいる女の手が僅かに震えているからだ。

矢継ぎ早に話し続けているのも、きっと自分を落ち着かせるための行動なのだろう。


……少々面倒くさいが、まあ少し位は付き合ってやってもいいか。


「ああ」


「学生さんがこんな夜中まで遊び歩いてちゃだめよ。って、アタシみたいな女に言われたくはないか。あははは」


「あんたはこの近くに住んでるのか?」


言っておくが、別に下心があって聞いたわけではない。

家が遠い様なら、大通りくらいまでは送ってやろうと考えただけだ。


「そだよ。あんたも?」


「ああ、この辺りに住んでるよ」


「そっか……あ、そういやまだ名前も言ってなかったね。あたしは林亜美はやしあみ。アンタは?」


「安田孝仁だ」


「今日は本当に助かったよ。あ、そだ。連絡先交換しよ。スマホ出して」


林亜美が俺から手を離してポケットからスマホを取り出し、俺にスマホを出せと言って来る。

だが出せと言われても、以前虐めで壊されて以来スマホは持っていないので出しようがない。


まあそれ以前に、連絡先を交換する意義がないのであっても出す気はないが。


「スマホは持ってない」


「え!?嘘でしょ!?持ってないの?今時珍しいね……ひょっとして拒否られてる?私」


「持ってないのは事実だ。まあ拒否ってるってのもある意味正解だけど」


「まじかー。自分で言うのもなんだけど、あたしってかなり美人でしょ?男の子に連絡先交換断られたのは初めてだわ」


まあ本人が豪語するだけあって、林はかなり美人だとは思う。

ケバイので全く好みではないが。


「ま、しゃーない。ここは素直に引くとするわ。今日は本当にありがとうね。じゃ、縁があったらまたどこかで会いましょ」


林はそう言うと、駆け足気味に去って行った。

さて、俺も家に帰るとしようか。

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