三話
風神さんと話終わってから柳君の家に向かったが、家には誰もいなかった。
学校の自転車は庭に置かれているため、既に柳君が帰っている事は分かるがチャイムを押しても出て来なかったのである。
玄関にお土産と謝罪の手紙を置いてきて帰る事にした。
「覚悟してたのに、なんか消化不良だな…」
そんな事を思いつつ家に帰った。
そしてついに引っ越し当日になる。
推薦状を送った日のうちに学校から電話がかかって来て、僕の病気の治療のため入学の手続きは後日でも大丈夫と言われ、先に寮の使用許可を頂くことができた。
今は1が下旬のため高校三年生は丁度自由登校の期間になり、寮から出ていく人がいたため寮の空きはあるそうだ。
「じゃあ母さん行ってくる!」
「行ってらっしゃい。」
「雄馬、まだ学校が始まってないから定期的に帰って来なさいよ。」
「分かってる!!ありがとう母さん。」
そしてブラックエデンに向けて旅立った。
ブラックエデン、それは日本政府より発足された魔力というエネルギーに対しての研究を行う都市である。
ブラックエデンの研究内容は秘密情報のため、場所が明らかにされていない。
ブラックエデンに行くには専用のバスによって行く事ができる。乗るのには厳重な審査の下、そのバスの中に入ることができる。
中からは一切外の光景が見ることができず、外からの音も聞こえないため完全に外と隔離された空間である。
そしてそのバスの中には8時間ほど乗らなければならない、理由としては時間から場所が知られる可能性があるからである。また、バスの外見は魔道具を使用して様々な見た目に変える事が出来るため外からバレる心配は無い。
僕はバスに乗ったが、時期が時期なため僕以外に乗る人がいなかった。それもそうだろう、1月下旬は高校の試験も終わっていないの外からブラックエデンに向かう人はほとんどいないのだから。
そのためバスに乗ってからの8時間をゲームやアニメなどで時間を費やした。
「やっと着いた。」
バスが止まり、ドアが自動で開く。
その音を聞き僕は席から立ち外に出る。
バスを出てから見えたその景色は、一言で言うと「幻想的」だった。
「ここがブラックエデンか…」
目の前には地面が浮かんでいたり、素材が氷で出来ているような建物があったり、火事のように燃え上がっている花畑などまさに魔力がもたらした幻想のような空間が広がっていた。
「すごい!すごいよ!!初めて魔道具を使った魔法ってものを見たけど想像以上だよ!!」
やっぱり、男の子なら憧れてしまうだろう。剣と魔法の世界、そんなファンタジーのような空間に僕はテンションが上がってしまった。
「と、取り敢えず寮に荷物を置いてこよう!それからここを回ろう。」
バスは僕が通う学校に止まったので、歩いてすぐに寮には着く。しかし、寮に入るには先に校長先生に挨拶してからと言われたので校舎に向かう。
現在は16時頃になっているため下駄箱付近には沢山の学生がいる。
「あっれ?新入生かな?」
「早くないか、あれだろ転校生だろ。」
僕は私服のため学生からしたら何でいるのか気になるのだろう。周りはざわついているが、僕はイジメで学んだスルースキルを使い突破する。
学校には入れたが、校長室の場所が分からない。この学校は何故か縦に長いのだ。まるでタワーマンションのような階数を誇っており、どこに何があるのか初見じゃ全く分からないのである。
ま、不味い…これは誰かに話しかけなければならない。
どうすれば……
周りを見渡すと大きな手提げバックを持ったイケメンな男の人がいた。
そうだ、優しそうな男の人なら僕でも自分から話しかけられるはず。
僕は呪いをかけた。
「僕ならできるできるできるできるできるできるできるできるできるできるでーきーる!」
「行くぞ!!」
「すみにゃせん!!」
盛大に噛んでしまった……
イケメンは僕を無視してそのまま歩いて行く。
「すみません!教えて欲しい事があって!!」
「急いでるんで…」
心にダメージを負ってしまった…だが、もうダメだここまで来たらやるしか無い!!
「お願いします!!!」
行き良いよく頭を下げる、それは野球選手のバッターがホームランを打つスピードと同じような速さで
そのお辞儀はイケメン腕にクリーンヒットする。
「あっ!!」
イケメンの持っていた手提げ袋が僕の頭突きにより落ちてしまう。
「ムラムラチェンジーー!ブラブラした中華マン戦士!!チャイニーガール!!!」
袋の中から小さな女の子が遊ぶような玩具が音を鳴らしながら落ちて行く。
その玩具は丸でバナナのような形をしており、皮が剥けて た実の部分が赤く点滅している。それはまるでイケメン先輩の心情を描写しているようだった。
「あ、あのすみません!」
バナナチェンジャー(仮)は変身音らしき音をループしている。大きな音のため周りの人からの注目を集めているので、僕は音を止めようとバナナチェンジャーを拾おうとする。
「やめろ!汚らわしい!!俺の聖具に近づくな!!」
「先輩………」
僕は信じていた節はあったのだろう、決してバナナチェンジャーが先輩の物ではないと…
けれどもこの反応は明らかに先輩の物である。
学校に女の子の玩具を……学校には流石に持ってかないでしょ……
「先輩!大丈夫です!似合ってますから!!」
「お前は馬鹿にしてるのか?」
「違いますよ!!いや、ほら!カッコいいなぁ〜と思ってそこのズル剥けバナナみたいな感じ、セクシーでカッコいいじゃないですか!」
「馬鹿にしてるだろ。まぁ良い、それで何のようなんだ。」
「えっ!聞いてくれるんですか?」
「まぁ、これは俺が急いでいた事が招いた悲劇でもあるからな。」
「ありがとうございます!実は校長室の場所が知りたくて。」
「お前…まさか新入生か?」
「そうです。」
「なる程…ちょうど良いかもな…なら俺も着いていくよ。」
「良いんですか!!」
「あぁ、だがちょっと待って連絡しとかないと行けない事がある。」
「分かりました。」
連絡を入れると先輩は言うとスマホを取り出してどこかに電話をかけ始めた。
「栗亜か、お兄ちゃんちょっと遅れちゃうから先にご飯作っといてくれないか?うん、分かってるよ。霞と杏奈を迎えに行ってから帰るからね。」
誰かと先輩は会話しているようだったが妹さんだったのだろう。自分の事をお兄ちゃんと言っていたし。
そうなると先輩は変態ではないのでは?
「すまない、じゃあ行くか。」
「先輩さっきの電話相手って妹さんですか?」
「えっ、い、いや妹なら良いなぁ…いや、何でも無い。」
えっ!何その反応怖いんですけど!!妹でも無い人にお兄ちゃん呼び、てかキョどり過ぎでしょ。
ガチのロリコン…カッコいいのに…
「そ、そうですか。あっ!そう言えば校長室ってどこにあるんですか?」
先輩と一緒に校舎の中を歩きながら話題を変えた。ひとまず、あれ以上ロリ関係の話は不味いと感じたからだ。
「あぁ、そうだな。校長室はこの建物の1番上の階だ。」
先輩がエレベーターの20階のボタンを押すとエレベーターは動き始めた。
「何でこの学校はこんなに階数が多いんですか?」
「あぁ…そうかまだ入学していないのか。まぁ、入学したら分かるよ。」
「そうなんですか。」
「ところで、お前の名前は何でいうんだ?俺は王版彩木、王版先輩でも彩木先輩でも構わない。」
「分かりました彩木先輩!僕の名前は光闇雄馬です。」
「雄馬か…良い名前だな。」
「ありがとうございます!」
少し話しているとエレベーターは20階に到着した。
エレベーターから降りると目の前には大きな扉があった。
「これ終わった後は用事あるか?」
「えぇ、何もありませんが。」
「じゃあ、ちょっと付き合え。」
「わ、分かりました!」
何だろう。今まで人に誘われる事ってほとんど無かったから嬉しいな。
先輩は校長室に入らないようで、外で待機している。
「失礼します。」
ドアをノックして教室に入る。
「あっ!ちょ、ちょちょちょっ!!待ってくれぇー!!!」
目の前には急いで何かを片付けているオッさんがいた。それは思春期の男の子がお母さんからエロ本を隠すようなものと近しい物を感じた。
そして、それは見事に的中した。
何故なら壁に僕の特大ポスターが貼ってあったのだから…
「…………」
「…………」
「失礼しました。」
「あっ!待ってくれーー!!」
恐怖を感じました。何で僕の写真がデカデカと壁に貼ってあるのですか?もしかして、目が悪すぎて見えないから拡大していたとか、まさか記憶能力が無さすぎて僕の顔を覚えられないとか。
確かにあり得る話だ。もう一度だけ話を聞いてみるか。
「すみません、いきなりのことで取り乱してしまいました。ところでこの写真は何ですか?」
「いや、本当に嬉しいよ。まさか推しと会えるなんてね。あははは。」
前言撤回コイツは変態だ。てか何で僕の推しに?意味がわからない。
「ごめんごめん、君のことは銀次から聞いていてな。」
「銀次?」
「君の手術をした医者がいただろ?」
「なる程、知り合いだったんですね。」
「古くからのマブダチだよ。あいつからの推薦で君をこの学校に入学させたんだよ。」
「そうだったんですね、ありがとうございます。」
「その時に君が子供を庇った時の話とか色々聞かせてもらってファンになったんだ。まぁ、後少し重なった所があったからかな。」
「そうなんですね。」
分からない、けどこの人は良い人なのかも知れないな。
「今日来てもらったのは他でも無い。」
「君のサインを貰うためだ。」
「はっ?」
「いや、コレクター気質でね私も。」
「いやいや、学校の話とかじゃないんですか?」
「別に入学する前に一斉に話す予定だから。」
「えっ?じゃあ、寮についてとかは?」
「管理人さんに聞いてよね。」
「本当にサインなんですか?」
「いや、ついでに握手もだ。」
「失礼しました。」
校長室から僕は出て行った。
「何が聞こえるが用事は終わったのか?」
「はい、特に重大な用事は無くてしょうもない用事でした。」
「そうか…まぁ、この学校の校長だからな。」
「この学校ってそんなにヤバいんですか?」
「まぁ、そうだね。この学校にいると退屈はしないよ。」
「それに、強くなれる。人として…」
「………」