二話 鏡に映る者
「へー、こんな感覚なんだ…」
「でっ、何?お前が俺様のヴィランな訳?」
雄馬の右目は更に真っ赤に染まっており、瞳には翼のような黒い紋章のようなものが浮かんでいた。
低魔力の奴の雰囲気がガラリと変わりやがった。
柔道部に入ってるから分かるが、さっきまでと打って変わり隙が無い。こっちから仕掛けても返り討ちに合う未来しか見えない。
全くの別人、目の前にいる低魔力と馬鹿にしていた男は今では獲物を見つけた狩人の顔である。
「ふ、ふざけてるんじゃねぇ!!」
本能で勝てないと分かってながらも、俺のプライドがこんなへなちょこに負けるなんて許せない!
低魔力の奴に1発かましてやろうと最高速度でステップして肩あたりを掴もうとした。
パチン!!
伸ばした手は低魔力野郎に叩かれて逸らされる。
「何俺様に触ろうとしたんだよ。」
それと同時に鳩尾に強烈な衝撃が加わる。
「がっっふぅ!」
それは低魔力野郎の体重が全てのかっているような見事な前蹴りだった。
今まで生きた中で1番痛い衝撃だった、だけどそれ以上に恐怖だったのが低魔力野郎だ。
蹴られたと同時に分かった…コイツは楽しんでいるんだと。
俺と言う敵を倒して正義のヒーローだと自分のことを思い込んでやがる。
俺が気絶していないのもパフォーマンスのためだろう、自分よりカッコよく勝つための見せしめとして俺を!!
今まで相手の弱さに漬け込み喰らってきた俺と次元が違う…怖い…そう本能で思った。
「おいおい、さっきまでの威勢はどうしたんだ。もう終わりか?」
「何だよ、これで終わりか。拍子抜けだな。」
「ひぃ!!ひぃぃいぃぃぃぃ!!!!!!!!」
死ぬかも知れない…コイツならやると本能で感じとってしまった。そう思ったら俺は恐怖のあまりに失禁していた。
しかし、最後の一撃が俺に届く事は無かった。低魔力は右目を押さえながら苦しそうにしている。
「ぐっ、くそ…時間切れかよ…まぁ、でも久しぶりに楽しめそうだ。」
右目を押さえてそう呟きながら低魔力は廊下に出ていく、誰もアイツを止める事が出来なかった。
誰もアイツを止める度胸も無ければ、力も無いから。
そして安心した俺は気を失ってしまった。
僕はパニックのあまり廊下に飛び出して家に向かっていた。あのまま教室にいても、またさっきみたいな状態になったら他の誰かに迷惑をかけてしまうから。
「はぁ、はぁはぁ……何が起きたんだ…体の自由が効かなかった。」
帰宅途中にさっきの事について考える。
今は右目の視力が失われてしまったが、そんなことよりさっきの誰かに体を奪われたことの方が問題だ。
一度家に帰り、すぐさま病院に向かう。母さんには連絡は入れておき入院した病院へと向かう。
少しだけ待ったがすぐに僕の番になった。
「今日は右目に異変があったので来ました。」
「どのような異変が?」
「先程までは全く右目が見えない状態でした。今はボヤけたますが見る事ができます。後……」
「少しでも変化があったら教えて欲しい。」
「その…体の自由が奪われるような感覚が襲ってきたんですよ。」
「!っ、ほぉ…それ詳しく聞いても良いかな。」
先生の顔つきが変わった。それから僕は先程起きた出来事を話した。
「なるほど…雄馬君。早急に君はブラックエデンに行った方が良いかも知れないね。多分だけどその現象は魔力の暴走かも知れない。」
「魔力の暴走?」
「私も専門では無いから詳しくは分からない。君は専門家に早急に見てもらうべきだ。」
「でも……学校が…」
「それは大丈夫だ、私の方から君の病気の事をブラックエデンの方に伝えてある。」
先生は何かを取り出して僕に渡す。
「とある学校の特別推薦の書類だ。これを記入すればテスト無しで学校に入る事ができる。」
「考えるのは君とご両親だ。だが、私はブラックエデンに行くことをオススメするよ。」
「分かりました…ありがとうございます。」
そして僕は先生からもらった書類を持ち部屋から出ていく。
医者は雄馬がいなくなった事を確認し、机の引き出しから一枚の紙を取り出す。
「適合者か…全く〇〇も酷いことを頼んでくれる。」
家に帰った僕はパソコンを開いていた。
「ブラックエデンについて詳しくは知らないからな…」
ブラックエデンについての説明は学校での説明や母さんからの話しか聞いていなく、興味が無かった僕はブラックエデンの知識があまり無い。
「右目の視力が回復してきたな…」
病院の中ではボヤけていた僕の右目の視力は現在は完全に回復していたのだ。
原因が分からない以上、早急にその原因を調べるためにブラックエデンに行った方が良いだろう。
また、自分の体の制御が効かなくなる事も考えられるからだ。
「魔力育成機関カオス学園か…」
お医者さんから貰った手紙にはカオス学園からの特別推薦書が入っていたのだった。
「調べてみるか…」
僕は検索エンジンで「育成機関カオス学園」と打ち込みホームページへと飛ぶ。
そこから分かったのは、カオス学園では魔力についての基本的な授業や、一般的な学校と同じような国語や数学といった基本科目も行うようだ。
生徒のレベルに応じて授業内容は変わっていくようだ。
「魔道具か…」
そもそも何故そんなにも魔力が重要視されているのか。それは魔力と言うエネルギーを使用する事で様々な現象を引き起こせる。
その現象を引き起こすには魔道具と呼ばれる機械が必要となっていく。
魔道具は言わば電子製品のようなものだ。人間が電池であり、魔道具がスマホであると例えると分かりやすい。
魔力だけでは何もできる事が無いが、それを出力するための道具があるだけで様々な事ができる。それは電気では起こす事が出来ない超常現象を起こす事が可能である。
だから、ブラックエデンでは学生のうちから魔道具を使える能力を育てているのだ。年齢が増えるにつれ、魔力を使用する感覚や身体能力の衰えがある事が原因のため、学生を中心に魔力についての教育が行われている。
「でも、魔道具は使ってみたいよな…なぁ、どう思うミラ〜」
自分の部屋にいるため、エアフレンドのミラに話を振る。僕が唯一信用できる友達だから!!
「何だよ、まぁ他の人には出来ない事ができるのはカッコいいな。」
声を少し低くして僕はミラとして答える。
「お前、やっぱり気持ち悪いな。」
「………えっ?」
僕は声を出していない、部屋のどこから声が聞こえて来る。
誰だ………
「だから友達いないからってイマジナリーフレンドとか作っちゃって恥ずかしく無いの?」
「そこまで言わなくても良いだろうがよ!!」
泣いても良いよね?これはいくら何でも言い過ぎだろ。
あれ…僕がまともに人と話せてる。
「もしかして…君がミラ?」
「はぁ?俺様はイド」
「やっぱりミラか!!!初対面の人とは全く会話する事が出来ない僕が話せてるもん。ミラしかいないよ!やっと人格が宿ってくれたの!!」
「……まぁ良いそれで良い。おい、鏡持って来い。」
「イエス!マイフレンド!!」
僕はすぐさま近くにある手鏡を持って来る。
「俺様がミラだ。よろしくなへなちょこな相棒。」
鏡に映るのは僕の顔をしているが、雰囲気が全く違う別人だった。
「か、鏡が喋ってる……」
「いや、喋っていない。正確にはお前の目だけにそう映っているだけだ。俺様の声だって実際はお前にしか聞こえてないだけだ。」
「………もしかして、柳君をボコボコにしたのって…」
「あぁ…あのいかに悪役ズラの男だよな。あれは殺して良い展開だったでしょ。」
「だ、ダメだよ!そんな簡単に人を殺しちゃ!」
「別にああ言うクズは倒してなんぼよ。倒している俺様はカッコいいし、俺様の欲望を発散できる。これはWin-Winな関係なんだよ。」
「人を殺すって言うなら僕は絶対に君を出さない!僕のせいで他人が迷惑をかけるのは許せない…」
「…まぁ、仕方がないな。だが一つ約束をしてくれ。」
「どんな?」
「俺様にカッコいい事をさせろ!」
「…………はっ?」
「良いか俺様はカッコいい、だけどそれをより輝かせる事ができる方法がある。」
「それはシチュエーションだ。例えば悪人に襲われている女子高生をスマートに助けたらカッコいいだろ?」
「まぁ、どうなんだろう?」
「カッコいい、だからだ。俺様は久しぶりにカッコいい事がしたくてウズウズしている!そして、ブラックエデンとか言う面白い場所に、お前は行くんだろ?」
「まぁ、そう言う流れになりましたね。」
「そこでたまに俺様に体を貸せ、悪いようにはしない。ただ問題ごとに首を突っ込むだけだ。」
「ダメでしょ!!聞く限り僕の命が危うくなりそうじゃん!!」
「おっと、時間切れだ。お前の魔力によって俺様の声は聞こえるようになるようだ。」
「そうなんだ…後、お前じゃない、光闇雄馬。」
「分かったよ、雄馬。俺様はミラで良い、これからはよろしくな雄馬。」
「うん!よろしくミラ!!」
そうして声は消えていった。ミラか…ようやく…ようやく僕にも友達ができた!!!
「やった!!やっと友達ができた!!!」
「お、雄馬が一人で話している………」
雄馬は帰ってきたら母親に気づく事は無かった。
母さんは僕が帰宅した5分後には帰っており、僕がミラと話しているのも見ていたそうだ。
そして、今に至る。
「雄馬、学校から電話があって話は聞いているわ。」
「母さん…僕…」
「お医者さんが学校に説明してくれて大事にはならなかったけど、今度柳さんのお家に謝りに行きなさい。」
「分かりました。」
「母さん僕!」
「分かっているわ、ブラックエデンに行くのよね。」
「うん…」
「前々から行く予定だったから準備は出来ているわ。色々準備を行なって明後日から行きなさい。」
「……母さん!ありがとう!!」
「良いのよ、早く治してくるのよ。」
「うん。」
1日が経過した。
今日は柳君の家に訪問して謝りに行くのと、学生寮に持ち込む物についての買い出しだ。
今日は平日のため学校はあるが、僕は右目の病気や昨日の柳君との事件のため休んでいる。
そしてこのまま学校を辞める予定だ。
午前中は予定通りに買い物が終わり一度帰宅して明日に備える。
明日の準備を行なっていたら学校が終わり、登下校の時間になったようだ。
「もう少ししてから柳君の家に行くか。」
正直、行きたくない気持ちでいっぱいだがこれで会わなくなると思えば何とかなる。
昨日調べて分かったがブラックエデンにも複数の学校があり、僕の行く学校は中学校から推薦されている学校とは違うようだった。
これで学校の奴らとはおさらばできる!願ってもない事が叶った。
「そろそろかな。」
時間になったのでお詫びのお菓子を持ち家から出る。
「あっ!光闇君!」
「か、かかかかか風神すわぁん?」
玄関をすぐ出た先には風神風香さんが学校から帰宅途中と思われる格好で待っていたのだ。
そして制服姿の彼女は何故か全身が濡れていた。
「えっ!いや、あのそうなんですよ。てか何で濡れて???」
僕はあまりの非現実的な出来事に慌てていた。それは自分でも何を言っているのか分からないほどに…
「そ、その服可愛いですね?い、いやこれはセクハラとかでは無くただ単純に…透けてる感がいいと言いますか。」
「変態。」
「そ、そうですよね。いや、待ってちょっと待って。」
あまりの出来事に暴走してしまった僕は深呼吸をして緊張をほぐし、意識を集中する。
よし、久しぶりにまともに話しかけて貰ったんだ!頑張ろう!!
「あ、あのところでどうして濡れているのですか?」
「水たまりで転んでしまいまして…」
「それは災難ですね。」
「私ちょっと不幸体質なんですよ〜昨日なんて郵便局行ったら強盗と遭遇したんですよ〜」
「ちょっとどころの騒ぎじゃないですよ!」
「あるあるなのよね〜」
「そ、そうですか…それで今日はどんなご用事で?」
「そう、昨日のお礼を言おうと妹を助けてくれた事についてお礼したかったの!」
「へっ?」
「妹から話は聞いたの、「トラックに轢かれそうになったのを不細工なお兄ちゃんが助けてくれた」って」
「だいぶストレートですね妹さん。」
「それで警察の人に聞いたりして雄馬君が助けてくれた人って聞いて私からもお礼したくて…」
「別に僕は大した事は……まぁ、やってますけど!幼女を体を張って助けた俺様カッケェ的な。」
って何で途中から言おうとしていた事が何で変わってるのー!
「まぁ、あれだ嬢ちゃん。妹ちゃんに俺様のこと伝えといてやってくれ。これはファンクラブの会員証だ。」
「………えっ?お、雄馬君???」
「何が会員証だぁぁあ!!!」
神風さんに渡した会員証を破いた、気を抜いてたらミラの野郎に体を乗っ取られていた。しかも、なんか自分のファンクラブの会員証まで使っていて油断の隙間ない。
「雄馬君!?」
「すみません、ちょっと寝ぼけてたようで…」
「もう17時だよ?」
「昼寝してたんですよ、あははぁ…」
「そうなんだ…でも本当にありがとう。」
「………どういたしまして」
「じゃあ、またね雄馬!」
そう言い走って帰ってしまった。
「風神さん僕は学校を…」
そう言おうとしたが既に風神さんはいなくなってしまっていた。
「知ってる。」
一本の電話がかかってくる。
「姉貴、有象無象のヤクザが表の事務所に攻めてきました。どうします?」
「無論、殲滅よ!」
風神さんの妹だったと発覚、二つお礼される。
風神ヤバいやつだと知る
学校についての話、ブラックエデンに行く事を言ったり。
最後にまたねと言う。
柳君の家に行くが、柳君は出てこなかった。
次回ブラックエデン。