生活基盤と防備の拡充
「これより神殿の設備を拡充する」
「よくやったわ!」
馬車に揺られて数日。帰りは山を登るので時間がかかり何も喋らなくなったプルセだが、一息ついてからした宣言に食いついた。
ポイントは3756。ほとんどはセランが狩りで稼いだポイントだ。
「まずは階層。地下を増やす。罠も少しは置きたいな。祭壇も移して、手前に生活空間を作る。取りあえず石の台でベッドと椅子机。台所。水の湧く石像と、エルクリスにもらった火のついた花、揉むと増える葡萄、剥いても減らないキャベツ、回すと穀物の湧く臼はそこに。毛の代わりに肉が採れる羊と空飛ぶ雄鶏は神殿の前に放そう」
階層の追加は高い。ポイントは1836まで減った。
「そんなに…?エルクリス様を相手に、どんな交渉をしたの?」
「蛇と引き換え。後から気が向いたらまた蛇に戻せるって条件で」
大事にしていた蛇だったらしい。軽い対価ではすぐに蛇が買い戻されてしまう。ダラウコスというイケメンも、『会話のできる眷属は失うと悲しい』と言っていた。プルセはセランを大事に扱うべきだ。
「住環境が揃ったら防備を固める。『交換』で戦力を増やすか」
「ゾンビね!」
「いやゾンビ以外で」
「なんでよ!」
「水に何かまざりそうだし」
パネルを触ってメニューを探す。
「死体じゃない。馬か、犬か、話せそうなのは実体ないのしかないな。幽霊か」
「なら『交換』じゃだめよ。前に出したことあるけど漂うばかりだったわ。敵が目の前まで来たら取り憑いて殺すの」
幽霊の『交換』には5ポイントかかる。ゾンビが3ポイントなので、大差ない。
「その子を素材にして『召喚』をしたら上級モンスターも狙えると思うけど」
「プルセ。今そこに出した毛皮踏んでみろ」
「何よ。きゃあっ!」
めちゃくちゃ滑る。床に敷き詰めたら歩行不能なトラップ部屋とかできそうだ。
「何なのよ!」
「順番はお前のが先だからな」
「…ますたぁ!」
セランがきゅっと腕に抱きつく。
「話すモンスターを『召喚』しようってならそれなりの素材がないと無理よ!」
「素材は『交換』で足せばいいんじゃないか。幽霊をベースにして」
セランのときは服と石だった。メニューの装備品を探す。ポイントの高い順に服を見ると、邸宅の仕事着というのがあった。ドレスのようだ。100ポイントでそれを『交換』する。
魔石を交換しようとすると、既にかなりの数を所持していることになっていた。
「何だこれ」
「162個はゴブリンの魔石ですますたぁ!セランが巣を殲滅したときに取得しました!」
「そんなのあったのか」
10個を取り出す。
「あと何か他にも石がなかったか」
「霊障石ね。ゾンビを87体使って『召喚』したときのやつだから、そこにはないわよ」
「何なら代わりになる」
「うーん。触媒にするなら、なるべく格の高いアイテムがいいわ」
全体でポイント順にすると、一番高いのは装備品のところにあったネックレスだった。いくつも宝石がついていて、300ポイントする。
「じゃあこれで」
最後に幽霊を『交換』する。プルセの言っていたとおり、人の形をした靄のようなものが並べたアイテムの上を漂った。
「ほんとにゾンビじゃなくていいの」
「ゾンビはセランで充分だ」
「はいますたぁ。セランが充分役に立ちます!」
場所は神域だ。部屋の柱の根本が光り輝いた。光は上に登って天井に達し、ネックレスと服と幽霊に降り注ぐ。おさまったときそこには、メイド服を着た幽霊がたゆたっていた。