神の眷属
クワを持って畑を耕す。
「全っ然貯まらないわ」
「文句言うな。働け」
とはいえプルセの言うことも間違いではない。
「おかしいな。村ではこのくらいの畑でポイント入ったのに」
「畑を耕してゾンビポイントが増えるなんて聞いたことないわ」
「実際増えてるだろ。少しずつだけど」
モンスターを倒すと増える履歴情報に、耕した畑の面積が記録されていく。一緒にゾンビポイントが増加するが、お年寄りたちの村で耕したときよりずっと少ない。
「お」
突然大きなゾンビポイントが入った。セランだ。
「ますたぁっ!」
森の方からやってきたセランは冷蔵庫ほどもあるイノシシを担いでいた。
「大きなお肉が獲れました!これはますたぁも食べられますか?」
「食べられるかも。ダコダさんに聞いてみるよ」
そのまま畑の横を通り過ぎて村へと向かう。イノシシには牙とよく似た角が何本か生えていた。
「モンスター倒す方がやっぱり効率はいいんだよな」
「やっぱりゾンビを出した方がいいわ」
「出しても逆にやられてちゃ意味がないだろ」
「セランが倒せたんだから、他のゾンビにもできるわよ」
「無茶言うな」
借りた畑は狭いけれど土が肥えていて、最初に耕した畝には小さな芽が生えている。セランもプルセも食べる必要がないので、暮らしていくことはできそうだ。そう考えまた土にクワを振り下ろす。
地面がぐらりと揺れた。
振り返ると街の様子が一変していた。
「ダラウコスよ!深きを治める古きものよ!かような場所に眷属を生むとは片腹痛い。我が主、エルクリスの名の下に信徒共々平らげてみせようぞ!」
町の象徴である一番高い塔に蛇が巻き付いている。
ただの蛇ではない。塔を何周もできる、巨大で長い蛇だ。
「何だあの蛇」
「眷属だなんて失礼しちゃう。教会の近くってだけで配下にくだった覚えはないわ!」
「俺らのせいじゃん」
頭を順に四方に向けて呼びかける蛇は俺達のことを探しているらしい。
ぐるりと一周して元の位置に戻った蛇の頭に、セランが迫る。塔の下から一息の間に駆け上がり、身を翻して首に切りつけた。しかし弾かれ、身体が空中を一回転する。
蛇の急所。何か器官がなかったか。
「セラン。鼻先」
姿は遠くて聞こえるとは思えなかった。でも言葉のとおり、セランの刀が蛇の鼻先を切り裂く。悲鳴と共に蛇が塔から落ち、轟音が響いた。
「ますたぁ。あれはますたぁも食べられますか?」
血みどろになったセランが、塔を駆け上がったのと同じ速さで街外れの畑に戻ってきて聞く。
「おいしくなさそうだからパスだ」
「食べましょう。相手の身体と一緒にその力も取り込むのよ」
「悪影響がありそうだからパスだ」
『待った待った、待った!』
目の前に半透明のガラスみたいなものが出現して、そこから声がした。
『ちょ、うちの眷属に何してるの。プルセルポナちゃん、君だよね?』
「あら、エルクリス様。ダラウコス様の一眷属たる我が身に何かご用事?」
『あー、あー、聞こえない。ちょ、ごめ。謝るからさぁ〜、返してもらえないかな〜』
画面に映っているのはプルセルポナよりも少し歳上に見えるイケメンだった。服装はプルセやアンリタリテよりも大人しい。優男だ。
「敗者の財産、身命、従属の先はすべて勝ち取った神のもの!当然ご存知のはずだわ!」
『その通りだけどさぁ!何してくれてんだうちの蛇。や、だから』
画面が消えて、閃光が走る。瞬きするとそこには両手を揃えてプルセを拝む男がいた。
「この通り!」
「セラン、切り捨てなさい。早く!」
「ますたぁ、どうしましょう」
「人っぽいからだめだな」
優男は顔を上げてへらりと笑った。
「人じゃないよ。神だよ。ん?何の種族?珍しいね?」
「人間です」
「そっかぁ。うちのは蛇なんだ。食べても美味しくないから返してもらえないかな」
「嘘よ!蛇は土くれでも霞でもないもの。食べられるのよ!」
「味にもっとこだわろう!?」
「うーん」
食べるつもりはない。
「ますたぁ」
「何だセラン」
「敗者の身命が勝者の物ならば、潰すも譲るもますたぁの思うままのはず。お食べにならないなら売り渡してしまっては」
袖をちょんと引いてセランがそう言う。顔と服はまだ血みどろだ。
「じゃあそれで。セラン。プルセは引き離しておいてくれ」
「ちょっ、何でよ!」
セランがずるずると引きずられて行く。優男、エルクリスに向き合って言う。
「ほしいものがあるんだが」
*
エルクリスと蛇は夕方頃に帰った。蛇はエルクリスが画面を操作すると消え、本人は閃光と共に消えた。
塔の下は広場になっているので、蛇が落ちたことで被害を被った建物はないようだった。地面に敷き詰められたレンガはめくれて壊れている。
「さて、セラン」
「はいますたぁ」
「街の人が見当たらないけどどこに居る」
「逃げるのが間に合った人はここにいません。間に合わなかった人は家の中からこちらをうかがっています」
「見られてたよなぁ」
蛇の鼻っ柱を斬ったのはセランだし、エルクリスと話ながら街を歩いたりもした。今回のことが俺達のせいなのは街の人にも知られている。
「出て行くしかないか」
「そうね!」
生きたまま蛇を返したことをぶつくさ言っていたプルセが勢いづいて返事をする。言う通りにすることに不安を覚えるが、帰路のほとんどが馬車の移動になることを忘れているようなので黙っておいた。