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 結局案内を続けてくれ、と頼み込む事でエイトの自分の機体に対する説明は決着がつき(本人は渋々といった感じだったが)、ひたすら長くて暗い廊下を歩いていく。半分以上が移動用の機械と発電に費やしている、というのは本当だったらしい。この最下層はその機械が嫌と言うほどあるらしく、時折見つかる部屋に入っても、機械の制御室が大半だった。

「俺がいた部屋みたいなのは無いのか?」

『否定、ですが個数は少ないかと……

 当個体はタカマガハラの構造は把握していますが、一部施設の機能については閲覧、情報開示の権限はありません

 つまり、現段階ではあくまでも推測の領域となります』

「さいで……トイレとか完全にプライベート無視だったけど、なんかやべーもんだったのかね。俺は」

 最下層で、よくわからない設備に取り囲まれ、外に出ようとした途端に警備ボットがすっ飛んでくるような場所にいたのだ。元の身体は何かしでかしたのだろうかと勘ぐってしまう。

 いや、それならアカウントに記載されていたクレジットの金額の多さに、矛盾が生じるのだけど……。

『不明……改めてお調べしましたが、当個体の権限では、一花のデータ閲覧ができません』

「まぁ、さっきも俺がどうしてあそこに居たのか不明って言ってたもんな……」

 それがわかれば話が早いのだが、うまくはいかないらしい。この教えたがりな球体であれば、何者などさっさと告げていただろう。それに――

「というか、エイトさんは何であそこにいたの」

 気になるのはそれだ。二十年もあそこに居たが、その前にこいつは一体何をしていたのだろう。

『それは……』

「どったの?」

『……申し訳ございません。どうやら当個体に記録のエラーが発生しているようです

 あの部屋で時折再起動をしていた記録はあるのですが、その際に記録データが破損してしまったようです。それ以前の記録が閲覧できません』

「そっか」

 二十年も眠ったり起きたりを繰り返していたのなら、そうなるだろう。人間だって二十年前に何してた? と聞かれても咄嗟に出てこないに決まっている。無いものは仕方ないと切り替えて歩いていれば、また部屋を見つけた。倉庫か何かかと思うが、念のためエイトにスキャンしてもらってから入る。


「……あ……」

 そこには、俺が入っていたような円柱の機械が二つ置いてあった。どちらもガラスが割れていてもぬけの殻。養液は乾いていて、周囲の状況を見るに、ガラスが割れてからずいぶんと時間が経っているようだ。

 ふと壁に嵌っているモニターを見れば、画面は割れていない。そっと手に触れれば、文字化けした何かが画面を砂嵐のように這いずり回った後、パソコンを機動した時のようなロゴが浮かび上がった。どうやらタッチパネルらしい。

『この端末は生きているようです』

「データが見れるといいんだけどな」

 俺はここの文字が読めないが、ありがたいことにこちらにはエイトがいる。指示されるまま、いくつかパネルをタップすれば、ファイルのようなものが出てきた。

『実験記録……のようです』

 そのうちの一つをタップする。文字の羅列が並んでいて、エイト曰く何等かの実験記録なのだという。

『実験記録、一日目……人型生命体の身体能力向上実験について……』

「うわ……」

 早速ビンゴだ。

 すごい勢いでスクロールされていく文字列は理解できないが、エイトが読み込んでいるのか時折ちりちりと機械音が鳴り響いていた。やがてそれも終わると球体のカメラがこちらを向く。

『……要約ですが、成人男性の検体を用意し、後から別の遺伝子を組み込み、無理やり身体能力を向上させるものと、胚……受精卵の段階から遺伝子を組み替えていくものと、二通り行っていたようです』

「マジか……」

『そのどちらも、人による開発であったと記録されています』

 人の業というのは計り知れないのだな、とそっと左の額に生えている角に手を伸ばした。つるりとした何かが手に触れて、俺が一般的に言う人とかけ離れている事が、なんとなく理解できてしまう。

「それで、実験自体はどうなったんだ?」

『成人男性の方は、拒否反応が見られそのまま命を落としたそうです

 もう一方もいくつか胚はダメになったものの、成功例があったと……丁度【オニ】が現れ始めた頃と時代が一致しています』

「なら、俺は人工的に生まれた種族だったって事か」

『肯定』

 エイトがマニピュレータで画面をタップし、ポップアップされた画像を見る。俺と異なるであろうオニの赤ん坊の写真だった。こうもあっさりと見つかった身体のルーツだが、個体名がわからず仕舞いである。エイトにいくつか資料を漁ってもらったが、結局見つかったのは実験の記録ばかりだった。

『残念ながら、一花に関する資料はありませんでした』

「まぁ、しゃーないね」

 最初から期待はしていなかったのだ。むしろヒントを得られただけで僥倖である。


『それと気になる事が』

「んぁ?」

『ポッドにいた生命体の活動維持装置が直近で停止しています。正確な数値が記録されていないのですが、データの状況から数週間ほど前と推測

 もう一方は五年ほど前に停止。ポッド内で死んだという記録は確認できていません』

「ということは、生きている可能性がある?」

『あくまでも可能性ですが』

 なら、そいつらを見つけるというのも手だろう。この体の持ち主について、限りなく可能性は低いが何か知っているかもしれない。

 そんなことを考えて、部屋を後にする。最後に映っていたのは、赤ん坊のオニを抱いて慈愛に満ちた目で見る白衣の女性だった。彼女の意図は知りえない。何しろこちらは事情もわからないのだから。


 だから、せめてその表情だけは、母親としての気持ちであってほしい。と切に願いながら部屋を後にするのだった。

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