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「……んで、食料があるのはいいけど、エイトのパーツは何処にあるんだ」

『恐らく隣の部屋にあると推測しています』

「なるほどな――というか、お前の修理って何するの

 俺、精密機械の修理とかできねーぞ」

 一旦食料は置いておいて、隣の部屋へ向かう。ふと思った疑問をぶつければ、エイトはどこか不満そうな声を上げる。

『不要です。当個体には自動修復機能が備わっています』

「さいで」

 その三十センチの球体にどんな機能が入っているのか……非常に気になるが、きっと俺が全て理解するまでには時間がかかりそうだ。扉を開けて隣の部屋に行くと、そこには歯医者にあるような椅子が一脚置いてあり、その周りの壁に設置してある棚に、機械のパーツのようなものが、そこかしこに並んでいた。

「ここ?」

『肯定』

「必要なものは?」

 俺わかんねーぞ。と呟けば、エイトは暫く考え込んだ後機械音と共に声を出す。

『反重力制御装置、小型機械用マニピュレーター、補助としてねじをいくつか

 あぁ、ちょうどそこに反重力制御装置が』

「へいへい」

 やっと自分が動けるようになる嬉しさからか、エイトはてきぱきと俺に指示を出してくる。その指示通りにパーツを集めて、部屋の一角にある作業机の上にエイトを置く。すると球体はコンセントのようなものを伸ばし、壁の一角にあるソケットに差し込んだ。暫くすると周囲に設置されていた小さいアームが動き出す。アームが動き、球体の外殻の一部を外し始めた。


「自分で修復って、他のロボットもいけんの?」

『自動修復プログラムをインストールしている個体は可能です

 また、人のような有機生命体も一部を機械化している者もいました』

「サイボーグってやつか」

『肯定』

 目にもとまらぬ速さで自己修復していくエイトを見ながら、疑問を投げかけると意外な答えが返って来た。サイボーグという存在がいたのには驚いた。

 そりゃ、ロボット三原則も撤廃されるだろう。人とロボットの境界線というのは、酷く曖昧で脆いものになっていたのだと思う。


「なんというか自分の身体を弄るっていうのは、不思議だな」

『別個体からも、似たような内容を発していました。まるで自分ではなくなる感覚だと』

「まぁ、わからなくはないかな……

 部品が全て置き換わったとき、それは同じものなのか。っていう思考実験を、どっかで読んだよ」

『思考実験ですか……どのようなものなのですか?』

「あー……テセウスの船って言ってさ」

 ギリシャ神話の英雄テセウスが乗った木製の船がある。その船の全ての部品が徐々に置き換わり、全ての部品が入れ替わったとき、その船は同じものと言えるのか。または置き換わった古い部品を集めて別の船を組み立てたとき、それは同じテセウスの船と言えるのか。という思考実験である。

 それを聞いたエイトは瞬きをするように、レンズを点滅させたかと思えば、奴を修復していたアームの動きが急に鈍った。一体どうしたのだろうかと暫く待っていれば――


『非常に』

「うん」

『非常に良くできたパラドックスですね』

「そうだろうね」

 実に悔しそうな声が聞こえてきた。平坦な電子音混じりの声であるはずなのに、何処か感情がこもっているように聞こえるのは、エイトという個体に慣れ始めているからだろう。

 それに、テセウスの船は、ギリシャ時代の哲学者たちが考え出したものだ。

 同一性アイデンティティとは何かを問うこの思考実験は、どれを定義に持つかで答えが変わってくるだろう。他者から見た自分と、自己から見た自分……果たして己は何なのか、というものだ。


「ちなみに、エイト先生はどう思う?」

『当個体は……パーツが入れ替わったとしても、当個体のままであると認識しています

 当個体としての記録を持っているのであれば、当個体は当個体のまま

 そして、製造番号もある限り、当個体であるといえます』

「なるほどな」

『一花はその思考実験の問いに、答えはあるのですか?』

「さぁね、わからん」


 それは、今の俺が一番知りたい答えだった。

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