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 一体何度目なのだろうか、見知らぬ場所で意識が浮上する。

 そこは、下層部で見たような狭い部屋。壁には武器が収納されていて、くたびれたソファがあるだけの、まるで寝るためだけの部屋。

 また『俺』の過去なのだろうか……。けれど、今までと違うのは自分自身の視点ではなく、遠くから声が聞こえること。ふと視線を動かしてみると、白髪に褐色の肌をした……俺と瓜二つの顔が、タブレット片手に誰かに話しかけていた。

「なー、八咫……これ読んでくれよ」

『……ムラクモ、そろそろ文字を覚えるべきでは』

 八咫、と呼ばれた存在は、二メートルを優に超す筋骨隆々の人型のロボットだった。カメラのレンズは一つで、そこから視覚的情報をえているのだろう。側頭部に位置する部分には、左右にそれぞれウサギの耳のような器官がついていた。予測だが、あれは聴覚やレーダーの役割をしているのだと思う。姿かたちこそ全く違うが、どこかあのお節介な球体によく似ている。そのロボットは、何処か呆れたようにタブレットの文字を読み上げていた。

「俺、悲しい事に文字が読めないように設計されてるからなぁ……」

『旧文明の文字は読めたのに、ですか?』

「それはそれ。旧文明の文字とか、もう誰も使わないから除外されてんじゃね?

 それにさ、お前他のロボットと違って俺の我儘聞いてくれるし、いいじゃん」

『……作戦に支障がないと判断したもののみです』

 そんなやり取りを繰り返している。恐らく、あいつらにとって日常の一幕なのだろう。微笑ましくも何処かなつかしさを感じる会話だというのに、その後に続く言葉は随分と物騒な内容だった。


『しかし、タカマガハラ破壊作戦に参加する意味など……』

 タカマガハラ破壊作戦。

 どうしてそれが実行されるに至ったのか、理由など言わなくてもわかった。


「仕方ないでしょ、大戦後にイザナミの倫理回路がぶっ壊れて『人も機械も等しく殺す』なんてプログラム実行したんだから」

『だからといって、貴方が戦う必要はないでしょう

 半数は殺され、半数はここから逃げ出しているのです! 我々ロボットは人の手が入らなかったら、やがて死に至ります。時間が解決……』

 八咫の言葉にムラクモは苦笑して口を開く。

「しないとも限らないじゃん。倫理回路が壊れたのなら、タカマガハラごと爆発させるなんて事もあり得る

 そしたら、もっと人もロボットも死ぬ……それどころか環境汚染が起きて、向こう数百年は人どころか植物が生えない場所になるかも」

『…………』

 八咫が悔しそうにしているが、何も言い返せないのは、ムラクモが言った事が真実になる可能性があるからだろう。表情は分からないのに、しょんぼりとした様子を見せるロボットにムラクモは、奴の胸あたりを叩く。


「それに……誰かがやんなきゃいけないんだったら、俺がやるよ」

『ムラクモ……!!』

 さも当然のように、それが当たり前だというように、俺によく似た俺は告げた。

「俺はさー、戦う事しかほとんど知らないの。だから未来に希望だとかよくわからんの

 けど、俺が戦う事で、そのあとに続く何かを守れるんだったら、いくらでも戦うよ」

『それで貴方が死んだとしても、ですか』

「随分と俗っぽいこと言うね。死んでも、なんも残らん訳じゃないと思うよ

 次に託す人間がいたら、その思いが続く可能性がある」

 そこまで言って、ムラクモは何故かこちらを見た。一瞬気のせいかと思ったのだが、俺と同じ紫色の瞳は、しっかりと俺を捉えて挑発的な笑みを浮かべている。

 気が付けば、ムラクモの隣にいた八咫は消えていて、周囲は白い空間に包まれていた。


 夢の終わり、これは最後の終着点だと自覚する。


「だから、まぁ……あとは頼むわ」

「なっ!」

 はっきりと明確にそう告げて、ムラクモは俺を突き飛ばした。途端に落下するような感覚に思わず目の前の人物に手を伸ばす。けれど、奴は笑って手を振るだけ。

「俺は油断して一回失敗したけど、アンタはそうじゃないだろ

 俺よりも断然頭がよさそうだし、アンタは俺なんだから」

 そこまで聞いて、理解する。

「あの神様に、そう簡単に終わらせてたまるかって、一発ぶちかましてやれ!」

 目の前の俺は、まだ諦めていない。

 次に繋ぐために、消されても、書き換えられても、忘れ去られても……それでも、あがいてあがいて俺のところまでやって来た。

 俺に真実を伝えるために。

「っは……」

 そして、たぶん俺もだ。

 神様から偽物だと言われようが、俺は俺の意思でここまで来た。知りたいから、歩いてきた。そこにはプログラムだからとか、作られた存在だからとか、そういった考え方は一切ない。


 ――神様の戯言にいちいち悩んでいるなど、まったくもって性に合わない。


 だから、敢えて皮肉で返す。 


「まったく……重いもん背負わせるんじゃねえよ!」


 そう言うと、ムラクモはきょとんとした顔を見せたあと不敵に笑う。

「はははっ! けど、嫌じゃねえだろ?」

 そうだな、と返して――

「……っ!」

 意識が浮上し、現状を理解して飛び起きる。先ほど同様の執務室で、思わず息を吐いた。

『目が覚めましたか』

 俺の安堵に反応したのか、エイトがこちらに声をかけてくる。

「あぁ……悪い、どのくらい意識飛ばしてた」

『五分程です』

「了解……」

 五分であれば、まだ先ほどまいてきた警備ボットたちは俺たちを見つけていないだろう。

 問題があるとしたら、この部屋に入られたら逃げ場はないという事。少し考えてから、背にしていたリュックサックを降ろし中身をあさる。


『一花、一体何を』

「奴の狙いは俺だ。だったら、ここから離れたらニーナは安全だろ」

『ですが、それでは一花が危険です』

「知ってるよ」

 そう言って、リュックサックの中にあった予備のナイフを腰につける。その中で、ナイフとはまた違う鉄の塊に手が触れる。考えてからこれは最終手段だと、それも腰のベルトにひっかけた。

「いち、にじゅうななごうも……」

「……今回ばっかりはダメだ」

「なんで!」

「危ないからだ」

 あの警備ボットは下で戦った奴らとは違う。イザナミの命令で動く統率の取れた集団だ。無論ニーナの戦闘能力は知っているが、どんな姑息な手を使ってくるかもわからない。それであれば、ニーナと一次的に離れていた方が彼女は安全だ。

「いち、にじゅうななごうはたたかえる、です!」

「それでもダメだ。俺と一緒にいると今はニーナが危ないんだ

 だから、暫くそこにいれば安全だか――」

「やだ……!」

 俺の言う事を遮り、ニーナはただひたすら「嫌だ」を繰り返す。

「やだ、やだやだやだ!!」

「ニーナ……」

「やだ!!」

 俺が傷つく事がいやだと言うニーナは、この執務室から出れば、廊下で見た惨劇が起きると思っているのだろう。実際にそうなる可能性の方が高いし、危ないことは百も承知である。彼女の我儘が嬉しい半分、今の状況から行こうとも言う訳にもいかない。


 だから俺は、絶対に言わないと誓っていた事を今破る。


「……っニーナ、命令だ『この場から動くな!』」

「――――!!」

 俺の言葉に、ニーナはびくりと肩を震わせ動かなくなった。大きな金色の瞳から涙が溢れそうになるのを、締め付けられるような思いで見るが、頭を振って彼女の手を握って諭すように言う。

「俺が大丈夫だと言うまでここから動かないで……俺が数日たっても戻ってこなかったら、ここから出て、安全なところにいくんだ……」

 まるで今生の別れのような言葉になってしまった。

 けど、俺が戻ってこれなかった事も考えたら、こう言うしかない。彼女にとっての命令は絶対だ。俺が死んでも、死ぬまでここで待っているのだろう。戦闘生命体はそういう風にできている。俺が文字を読めないのと同じように、俺もニーナも戦争というエゴで作られた生命体なのだから。

「ごめんな」

 謝罪だけでは足りない。彼女の目を見ないように頭を撫でて扉を出た。


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