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「いち」

「どうした」

 ニーナに礼を告げた後、見かけたベンチに腰をおろす。思っていたが、この植物園とやらはそこそこ広いらしく、子供が駆けまわっていても十分に遊べるほどの広さがあった。エイトからタカマガハラの大きさは聞いていたが、実際に動くとその大きさに驚くばかりだ。それだけのでかぶつが走行しているのだから、とんでもない技術である。

 そんな事を考えていると、ニーナに声をかけられた。

 一体どうしたのだろうか、と思っていると「きゅるるる」という動物の泣き声のような音。


「にじゅうななごう、くうふく、です」

「あー、了解」

 時計がないので正確な時間はわからないが、前回の飲食スープからは多少は時間が経っているはずだ。というかスープだけでは腹が減るだろう。リュックサックの中にはいっていた食料を見て、ニーナに声をかけた。

「どのくらいお腹すいている?」

「……いっぱい?」

 それは大変だ。

 とりあえず、あのげろまず携帯食料を渡すわけにもいかないので、持っていた荷物の中から選択肢を絞る。火を使うものは正直この場所では厳しいので、それ以外のものでお腹を満たすものを考える。

 しばらく荷物と睨めっこしてから、真空パックされた保存肉を取り出した。それとパウチされているパンとバターも出す。それらを開けて、下層部の食堂で拝借した調理用ナイフを取り出し、パンに切り込みを入れて、バターを塗り薄切りした保存肉を入れる。少し味見をしたが、塩漬けされた牛肉だったので、下手に味付けしないほうがいい。最後にお好みでチーズを入れれば、簡易的なサンドイッチの完成だ。

「できたぞ」

「あり、がと」

 エイトを大事そうに俺のそばにおいたニーナは、(俺が教えて)手を除菌スプレーできれいにしてからサンドイッチを受け取る。小さい口が開き、サンドイッチを咀嚼しはじめた。

「おいしい?」

「おいし」

 彼女の言葉にほっとして、俺もサンドイッチを口づける。かなり塩気の強い肉ではあるが、いいアクセントになっている。チーズもマイルドな味のものを選んだので、塩辛いという事もない。パンも思っているよりもふわふわで、空腹を満たすには程よい味付けだ。


「いち」

「どうした?」

 サンドイッチを半分ほど食べ終えたところで、ニーナが口を開く。

「にじゅうななごう、いちたち、くる、おいしいもの、たべてない」

 彼女は俺たちが来るまで、パウチの食材をそのまま食べていた。その事を言っているのだろう。もごもごと口を動かしてから、ニーナが話してくれるのを待つ。

「だから、いまの、おいし」

「ありがとう」

 あんな適当な料理にそこまでの感想を言われると照れ臭い。隠すように頬をかいて天井を見た。


 そこには、相変わらず人工の空が広がっている。


「いち?」

「ん?」

「どう、かした」

 口の端にパンくずをつけたニーナが疑問をぶつけてきた。手には何も持っていないので、やはり空腹だったのかあっさり食べ終えたらしい。俺のサンドイッチも半分分け与えれば、嬉しそうに食べ始める。

「空がな……」

「そら?」

 その続きで、ニーナの疑問に答えた。


 スクリーンに映された空に違和感を覚えたこと。

 この植物園は俺たち以外、生きていないこと。

 移動都市タカマガハラに俺たち以外の生き物がいないこと。


 ほぼ独白ではあったが、ニーナにそれらを言ってみると、彼女はサンドイッチを食べてから少し考える素振りを見せる。先ほども思い知ったが、彼女は言葉こそうまく表現する方法がないだけで敏い子だ。俺では気づかない何かがあるだろうか、と思っていれば――


「にじゅうななごう、も、いちいがい、ひと……みてないです」

「そうか」

 やはりニーナも俺たち以外の人を見ていないらしい。

「にじゅうななごう、め、さめた……たぶん、じゅうとよんにちまえ」

「十四日前に目がさめたのか」

「ん、いちばんした、から、うえにきた、です」

 なるほど、では俺とエイトが最下層で見たポットの中にいたのはニーナだったのだろう。もう一人は五年前と言っていたので、死亡したかタカマガハラから出たのかのどちらかだろう。

 では、何故俺たちは目覚めたのか……。考えれば考えるほど疑問がわいてくる。

 このタカマガハラの仕組みと、何故人がいないのか。まるで、ある日突然何かが起きて放棄されたかのような感覚を覚える。早いところ記録を確認しなければ――

「いち」

「ん、ごめん」

 そこまで考えていれば、ニーナが俺の眉間に指を突き立ててくる。また怖い顔になっていたらしい。ニーナの頭をなでてから、もう一度空を見る。


「いち?」

「うん、やっぱり違和感しかねぇな……」

 だって、あの色は本物ではないと理解できるのだ。

「いち、は……そら、へん、おもってるです?」

「うん。知っている色はもっと違うんだ」

 スクリーンに映し出された人工的な色ではない、もっと抜けるようなどこまでも続くような青。そう伝えると、ニーナはいつになく真剣な目でこちらを見つめる。

「そら、きれい……ですか」

 そう言われて、周囲を見渡す。植わっている木も植物よりも

「そうだね。本物はたぶん、ずっともっと綺麗だ」

 木漏れ日も、頬をなでる風もすべて、偽物にはない美しさだ。


「にじゅうななごう、そら……みたい、です」

「ニーナ?」

 それは果たして彼女の本心なのか。俺が言ったからそうなったのではないか、という嫌な考えが頭をよぎる。だが、彼女の目は真剣なまま。

「いちと、はちと……そら、みたいです」

 そこで確信した。

 命令を聞いたから答えたわけではない。彼女の本心からの言葉だということに。


「わかった」

 そっと小指を差し出して、ニーナの指と絡める。

「なら、約束だ」

 三人で、空を見に行くのだ。


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