異世界に転生しました
初投稿です。
一話目なのにとても長くなってしまいました。
どうぞ、お付き合いください。
※ちょこちょこ誤りを修正していますが、大筋に変更はありません
僕こと只野人志は、ITベンチャーで勤務するプログラマーで、年齢は30代後半、結婚はしていないが、それなりのナイスミドルだ。
「土日返上で15連勤、徹夜も何回かあったな…。激務とかいうレベルじゃないだろ!疲れすぎてほとんど記憶ないけど…。
久しぶりの休みだし、何かストレス解消して早く寝よう。また明日から仕事だし…。」
駅のホームで電車を待ちながら、誰にも聞こえないよう押しつぶすように小さく独り言を吐いた。それでも聞こえたのか、近くから人が離れていったようだ…。
ただ、それを気にする余裕もない。三連続の徹夜明けだし、栄養ドリンクで体を誤魔化しているだけだから、やや情緒不安定になっている気もする。
(夢を見せてやりがい搾取するだけの会社なんて最悪だよ!こんな会社、もう辞めてやるぞ!
はぁ、ほんとに疲れた………。またラノベを一気読みでもして寝るか。漫画かアニメでも良いな。)
そんな事を考えながら、ふと反対側のホームを見ると、壁に気になるポスターが貼ってある。
(エジプト展、か。この前インカ展に行ったけど、すごかった…装飾品とか土器とか、見てるだけで楽しいんだよね!
エジプトといえばピラミッドか。ピラミッドは持ってこれないだろうけど、珍しいものは見れそうだ。…よし、いこう!)
古代文明が大好きな僕は、気持ちを切り替えてエジプト展に行くことを決め、博物館へ向かった。平日なのに中は人で混雑していた。
(人が多くてあんまりじっくりは見れないけど、やっぱり楽しいわ。金製の仮面とか、感動して何か少しドキドキした。…ん?あそこにあるのは棺か。ミイラが入ってるのかな?)
近づいてみると、綺麗な装飾が施された2メートル以上はありそうな棺があり、中には布に包まれたミイラが横たわっていた。
(うっわ、すご!!棺も立派だけど、ミイラも今まで姿形が残ってるってすごい。死んではいるけど、ファンタジーで不死者に分類されるのも分かるな!)
先程見た金製の仮面よりも感動が大きい。鼓動が早まり、急速に大きくなっていった。
(いやードキドキするわ!
………でもしすぎのような?
…んっ…?…心臓が…苦しい…?!
これは…ヤバい……立って………いられない…………。)
僕はその場で膝から崩れ落ち、うつ伏せに倒れた。
(徹夜明けで…無理しすぎたんだな………、多分。
意識も朦朧としてきた………。
もしかして、………死ぬのか………?
もしそうなら………過労死…か?
まだ何も………成し遂げて…ない…のに…。)
ITベンチャーに転職したのは、何かを成し遂げたいという夢を見たからだった。しかし会社の実態は、ベンチャーとは名ばかりのただのブラック企業だった。
かくいう自分はどうだったか。何かを成し遂げたいとは言いながら、自分自身で何かを始めることもできなかった。言うは易く行うは難し、なのは確かだろうが、ある程度努力した者が使うべき言葉だろう。僕には使う権利もなさそうだ。
そんなことを思っていると、耳からというよりは、頭の中に直接、やや機械的だがはっきりとして聞きやすい、女性の声が響いた。
《あなたは異世界に転生する権利を得ました。異世界に転生しますか?》
(……Whats?どういうこと?まだ僕は生きてるのかね?声が聞こえる。そんで異世界って何?)
《あなたはまだ生きています。異世界とは、この世界と理を異にする、数多存在する世界の総称です。》
(思考が読まれた?!絶対に口には出していない。この声の主は人間じゃない!………もしかして、あなたは神様ですか…?)
《思考を読んだのではなく、思考部分を共有しています。私は神ではありません、【チュートリアル】です。》
(あまりに予想外の回答です。【チュートリアル】ってあの、ゲームとかの初めに色々教えてくれるやつか。)
《異世界に転生しますか?》
(また聞かれた。するって言ったらできるわけ…?夢でも見てるのか?って言ったら夢ではありません、って言われそう。)
《夢ではありません。》
(ほらね。)
ちなみに異世界転生については人並みに知っている。異世界モノの金字塔である転ズラなど、有名どころは紳士の嗜みとして当然読んでいる。その世界に憧れないわけがない。
(では、もし転生しないとするとどうなりますか?)
《あなたはこのまま亡くなり、この世界で輪廻します。》
(うわーやっぱり死ぬのかぁ…。まだ死にたくなかったな。)
《そうですよね、ご愁傷様です。しかしなんと、今異世界に転生すると、あなたの記憶・知識・経験はそのままに、新しい存在へと生まれ変わることができます。異世界には未踏の地がまだまだ沢山あり、勇気のある冒険者を求めています。灼熱の火山地帯、極寒の凍土地帯、乾燥厳しい砂漠地帯。そして、そこには屈強な魔物達が、常に覇権を争いながら暮らしているのです。そんな危険極まりない未踏の地を、剣と魔法を駆使して切り開く。さあ、そんな異世界に転生してみませんか?》
(何かのセールスみたいだね。突然スイッチが入ったみたいに長文で説明しだしたぞ。でも異世界の雰囲気はつかめたし、さすが【チュートリアル】だ。)
正直なところ、もう死ぬことが決まっているこの世界でまた転生を待つことに魅力を感じない。死んでしまった事自体は、両親に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。しかしそれは取り返しのつかないことだ。もう進むべき道は決まっていた。
(異世界転生、お願いします。)
《承りました。それでは初めに、転生する種族をお選びください。ミイラ、スケルトン、ゾンビの3種類から選ぶことができます。》
(………人間ないんだー。生物ですらもない。種族というか魔物だよね。何で?………何でその3種類なんでしょうか?)
《こちらの転生スポットの場合、選べるのはミイラ、スケルトン、ゾンビの3種類になります。》
(あー、エジプト展っていうか、棺のせい?あの棺、転生スポットだったんだ…。
この3種類の中でだと、ミイラはないかな。戦い方がピンとこない。スケルトンは武器も持てるだろうし良さそうだけど、打撃系の攻撃に弱いイメージがある。すぐ骨が折れそうだよね。
しいて言うならゾンビかなー。しぶとそうだし、見た目怖いしね。)
《種族はゾンビを選択しました。次に転生地点ですが、ピラミッドしか候補がありません。自動的にピラミッドが選択されました。
次にスキルをお選びください。スキルは最大3つ選択できます。おすすめの共通スキルと種族スキルはこちらです。》
かなりの数のスキル一覧が頭の中に流れ込んでくる。転生地点にはつっこみを入れたいが、どうせ変えられそうにないのでやめておく。
共通スキルは種族に関係なく取得可能なスキル、種族スキルは種族固有の特殊なスキルだろう。
共通スキルは、言語理解(小)、鑑定(小)、収納(小)、色々な耐性(小)、自然回復(小)、料理(小)やサバイバル(小)など便利そうなスキルが多い。(小)が付いているということは、更にその上がありそうだ。ただピラミッドで役に立つものは少ない印象だ。
種族スキルの方は、毒息(小)、腐息(小)、悪食(小)など、ゾンビらしさがある。
(うーん、良く確認したけどあれがないな。多分、あれがあるのと無いとでは、転生直後に生き残れる確率が全然違ってくると思う。
………あのー、あなたのような、【チュートリアル】というスキルは無いんでしょうか?)
《存在します。共通スキルの1つですが、転生後しばらくすると利用できなくなりますので、あまりおすすめしません。【チュートリアル】を取得しますか?》
(ですよね。ただ、転生直後が1番危険だと思う。何して良いかも分からない気がするんだよな…。
………【チュートリアル】、取得します!…あとは【鑑定(小)】と【悪食(小)】でお願いします。)
《承りました。》
【チュートリアル】がそう言うと、すぐに別の声が僕の頭に響いた。
〔【チュートリアル】、【鑑定(小)】、【悪食(小)】を取得しました。〕
【チュートリアル】の声と比べて、はっきり聞きやすい女性の声という点は似ているが、別人の声だ。
《スキルの取得、ありがとうございます、マスター。これからよろしくお願いします。》
今度は【チュートリアル】の声だ。
(あっ、マスターって僕か。よろしくお願いします!)
《【チュートリアル】のスキルは既に起動しています。尚、転生中に最適スキル自動選択機能が利用可能です。
種族や状況に最も適したスキルを自動的に選択して取得する、初級者支援機能です。利用しますか?》
(えっ?転生中にスキルが取得出来るんですか?)
《はい。転生中に肉体と魂の再構築を進める中で、転生者は特典としてスキルを取得できます。通常、そのスキルは短時間にランダムで付与されます。
しかし、【チュートリアル】の支援機能を利用すると、そのランダム性を軽減することが可能です。》
(【チュートリアル】できる子だわ!!!ではお願いします!)
《承りました。最適スキル自動選択を起動します。それでは転生を開始してもよろしいですか?》
(…はい!)
《承りました。転生を開始します。》
僕の意識は少しずつ薄くなっていく。そんな中で、【チュートリアル】だけは自分の仕事を淡々とこなしていく。
《転生シーケンス開始を確認しました。特典スキル付与フェーズ開始を確認しました。【言語理解(大)】の取得依頼を送信しました。取得に失敗しました(理由:本フェーズで取得可能なスキルは小のみの為)。【言語理解(小)】の取得依頼を送信しました。取得に成功しました。次に…》
聞こえる声が段々と小さくなり、やがて僕は意識を失った。
目を開けると周囲は暗闇に覆われていた。長い時間寝て起きたような、気だるい感覚が体を覆っている。
背中に伝わる感触から、硬い素材の上で寝ていることが分かる。腕を横に動かすと壁にぶつかる。体を起こそうとしたらすぐに額を天井にぶつけてしまった。痛みは感じなかったが、頭への衝撃は大きく波紋のように広がる。
(勢いよく起きなくて良かったな…。硬い何かで上が塞がれているみたいだ。横は壁だし。この壁の硬さや触り心地、多分石だ。)
闇に慣れてきたからか、それとも気づかなかっただけなのか、目の前にざらざらとした質感の石の壁が見えてきた。
(これはいわゆる石棺というやつか、古墳の中とかで見つかるあれ。僕はその中で寝ている。いや、お墓だし埋葬されている、かな。)
普通取り乱しそうな状況に思えるが、妙に冷静に思考を進めることができた。そして、ここまで考えて少し前のことを思い出した。
(そういえば僕は異世界転生したんだっけ………。)
今どこにいるのかとかを確認したいが、この蓋を何とかしないと。多分少しずつ横にずらして開けるのが正解だと思う。でもせっかくだから【チュートリアル】さんに聞いてみよう。
(【チュートリアル】さん、この蓋はどうやって開けるのが正解ですか?)
《この蓋は、マスターの筋力値の場合、両手で持ち上げることが可能です。》
(おっ、反応があった!
初めからそんなに力があるんだ。おっ、結構重い感じがするけど、なんとか持ち上げられたな。)
そう思いながら蓋をそのまま横にずらして棺の外に出た。
広さが10畳程度、高さ3メートル位の部屋の中央に、棺は配置されていた。部屋もまた石造りのようだ。
部屋の奥には、2メートルを超えようというサイズの石像が1つ置かれている。足元付近まであるマントを羽織り、床に立てた幅広の大剣の柄に両手を乗せ、堂々たる佇まいで前方を見ている男性。鎧のようなものは着ておらず、首元からは、大剣とは不釣り合いな細い体躯が窺える。
(【チュートリアル】さん、この像は誰か分かりますか。)
《残念ながら、こちらの石像に関する情報はありません。》
(そうですか。では、この部屋は何か分かりますか?)
《この部屋はピラミッド最上階にある、支配者の墓室です。この墓室は結界で守られており、マスター以外の者が侵入することは出来ません。》
(そっか、安全地帯というわけか。)
《マスター》
(はい?)
《【チュートリアル】はマスターのスキルですので、敬語は不要です。
ピラミッドの攻略というクエストの間の短い期間ですが、使用に当たっては魔力も使いませんので、どうぞお気軽にお願いいたします。》
(ちょっと固かったか。人との距離感の取り方が苦手でして…、話す時はほとんど敬語だったんだよね。
次からそうします!ありがとう。
しかし、魔力があるんだ。魔法があるんだから当たり前か。そういえば自分のステータスって見れるの?)
《はい。こちらになります。》
そう言って、頭の中にステータスを表示してくれた。これが僕のステータスだ。
種族:ゾンビ
体力:13
魔力:12
筋力:11
知力:13
素早さ:3
器用さ:5
運:7
総合:280
スキル:
・共通スキル
初期指導、言語理解(小)、鑑定(中)、収納(小)、罠検知(小)、全属性耐性(小)、痛痒耐性(小)、精神耐性(小)
・種族スキル
不死(小)、悪食(中)、毒息(小)、腐息(小)、痺息(小)、再生(小)、毒耐性(小)、腐耐性(小)、痺耐性(小)
魔法:なし
加護:不死の兵卒
(ありがとう。しかし、ステータス低っ!殴られたら即死するぞこれ!足は遅いだろうから逃げれないし…。ゾンビだから、しょうがないな…。
それにしてもスキルがすごい増えてる?!転生前に取ったスキルに至っては中になってる。)
《ピラミッドの攻略に必要と思われるスキルを優先的に取得しました。重複して取得したスキルは統合し強化しました。
残念ながら時間が足りず、全てを取りきることはできませんでした。》
(全然大丈夫!全て取りきっちゃダメだと思う!いやー【チュートリアル】さん凄すぎ!
そういえば【チュートリアル】って名前が少し長いんだけど、違う名前を付けたりできるの?)
《スキルに別名をつけることは可能です。スキルを使う際、呼び出しやすい名前をつけておくと、発動する速度を上げられる可能性があります。》
(そっか!じゃあ、【チュートリアル】さんの名前は………トト神からとってトト!賢いからな!)
《トトですね。承りました。》
(共通スキルは大体名前で分かるんだけど、種族スキルにいくつか分からないやつがある。トト、【不死】と【悪食】について教えてくれる?)
《【不死(小)】はその名の通り、死にません。正確には、敵に倒された場合、その場で消滅しますが、しばらくしてまた復活するというものです。復活地点はここ、支配者の墓室になります。
【悪食(中)】は、消化できるものなら何でも食べることができ、食べたものに応じて体力や魔力を回復したり、食べたもののエネルギーを得ることができます。》
(【悪食】もなかなか良さげだけど、【不死】が強すぎないか?!死なない=無敵、じゃないですか?!)
《【不死】にはデメリットがあります。消滅の際、魔物にとってのエネルギーである魔素が消費され、その最大値が半減します。魔素が死を肩代わりするイメージです。魔素が半減することは、その者の強さが半減することを意味します。
また、消滅は精神に多大な負荷をかけるため、それが続くと精神が耐えきれなくなる可能性があります。危機的な状況で消滅が選択肢に入るケースでも、ほとんどの場合、それを選ぶのは避けるべきでしょう。
尚魔素は、それに類するエネルギーを持つ者を倒すことで得られます。また、悪食でエネルギーを持つ者を喰らうことで、微量ですが魔素を吸収することができます。》
(なるほど…。せっかくレベル上げしたのに、死ぬたびに半分になる感じか……。それも精神に大ダメージ込みだ…。消滅してみないと何とも言えないけど、怖すぎる!できるだけ死なないようにしよう。あっ、あと加護にある【不死の兵卒】って何か分かる?)
《転生者は、転生中にランダムで加護を付与される場合があり、その加護になります。加護についての情報は、チュートリアルでは保持していません。ただ、【不死】のスキルは、【不死の兵卒】に関連して得られたスキルと思われます。》
(なるほど、そうなのか。まっ、いいや。トトさん、じゃあそろそろクエスト始めますか!)
《はい。ピラミッドから出るとクエストクリアです。簡単な道のりではありませんが頑張りましょう。
それではまず、ピラミッド内部の探索から始めましょう。ピラミッドはこの世界に数あるダンジョンの内の一つです。ダンジョンでは、敵や宝箱が自動的に生成されます。
【罠検知】を常時発動し、罠を回避しながら進んでください。罠がある場合、そこが赤く光ります。もし敵が現れたら、鑑定でステータスを確認してみてください。》
(ピラミッドはダンジョンなんだ。オッケー!では早速、【罠検知】発動!!!)
部屋の入口付近まで行き、【罠検知】を発動した。思いの外あっさりとスキルは発動してくれた。ホッとしたのも束の間、通路の壁も床もいたるところで赤く光る。かなり沢山の罠が仕掛けられているようだ。
(さあ、行きますか。)
入口の正面は壁になっており、左右に道が続いている。壁には松明がついていて明かりには困らない。左から進んでみる。赤く光る場所を避けて道なりに進む。しばらく進んで壁に突き当たったが、右に道が続いている。また道なりに進む。
少し進むと、遠くの方からゆっくりと、引きずるような足音が聞こえてくる。
《敵が近づいています。【鑑定】を使ってみてください。》
(了解。初めての魔物だ。まだ見えてないけど、近づいてくる敵を【鑑定】!!!)
結果が出た。
(ふむふむ。種族は屍人騎士。僕よりもステータスが圧倒的に上だな。
筋力は………さっ、300??!!剣のスキルも凄そうなのばっかりだぞ??!!
いや………勝てないよこれ!!トト!…こいつに勝てる気がしないんだけど??!!)
《ゾンビナイトはピラミッド内で上位に君臨する魔物です。今はまだ、戦闘で勝つのは難しいでしょう。
ですが、知能はとても低く、罠を利用して倒すことができます。》
(えっ……罠?)
《はい。むしろ、罠以外で倒すのは熟練の戦士でも困難です。》
(マジ…?!
なんか初めて遭遇する敵にしては強すぎる気がする………。
まぁ敵と戦うというより、罠にはめる感じだけど………。)
《罠を利用して敵を倒すのも1つの戦術とご理解ください。では早速、敵を罠に陥れましょう。》
(………はい。んじゃあ僕は何をすればいい?)
《神聖魔法の魔法陣が設置された罠があります。通常、先にそれを探す必要があります。今回は私がその場所をお伝えしますので、マスターが敵にその罠を踏ませることができれば成功です。》
(さすがトト様だ!罠の中身まで分かるって有能すぎぃ!)
《前方に見える、あの赤く光っている床が神聖魔法の罠です。神聖魔法はアンデッド特攻なので、ゾンビナイトは一撃で消滅するでしょう。》
(ってことは自分も魔法に当たったら消滅するな。まあ、もちろん当たらないが。
さて、罠のギリギリ近くまで寄ってと。あとは敵を呼ぶだけだ)
《マスター、そちらから1歩分下がることをおすすめします。》
(あっ、そう?1歩って、こんなもんかな。じゃあやつを呼ぶか。まだ距離が10メートル以上はあるから、練習も兼ねて【毒息】を使ってみよう。と言っても、耐性があるだろうから効かないと思うけど、こっちに気づいてはくれるだろう。)
僕は敵に向けて【毒息】を吐いた。緑色の濃い霧が前方のフロアに広がっていく。息が届くと同時に敵が小さくよろめいた。毒が効いたのだろうか。そしてうめき声を上げこちら見た。目が妖しく光り、ゾンビとは到底思えない速度でこちらに迫ってくる。
「グゴァァアアアアア!!!」
敵は一気に間合いを詰め、持っていた剣を僕の喉に突き立てようとした。その瞬間、獲物を待っていたかのごとく床から金色の光が上に放射された。
獲物は為す術もなく、その光に包まれて消滅した。残ったのは、僕の喉に僅か1センチ届かなかった剣と、それを握り締めたままの腕の一部だけだ。
(1歩分下がっていなければやられてたな………。)
そう思い、心からトトに感謝するのだった。
もし少しでも
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