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49話 フランの手料理

 食欲をそそる良い匂いがして、俺は目が覚めた。


 う~ん、寝たらだいぶ体調が良くなったな。

 今後は飲みすぎないように気をつけるとするか。

 まあ、毎回二日酔いになるとそう思うんだけど、お酒を飲むと結局それを忘れてしまうんだよな……

 

 それより、良い匂いがするけど、フランが料理をしているのか?

 フランって、一応貴族の娘だよな。普段料理していなさそうな気がするけど、ちゃんと料理を作れるのか?

 う~ん、気になるから様子を見に行くか。


 俺はベッドから体を起こすと、フランがどう料理を作っているのか様子を見に行くことにした。


 キッチンに行くと、フランは鼻歌まじりに手慣れた様子で料理を作っており、その足元ではイアンとニーアがフランにじゃれついていた。

 また、料理に髪が入らないようにしたのか、いつものサイドテールからポニーテールに髪型を変えており、服装もラフな白のシャツに黒のショートパンツ、その上から可愛いらしい花柄のピンクのエプロンを身に纏っていた。


 いや、似合っているけど、エプロンをわざわざ持ち歩いているのか?

 まあ、フランの腰のポーチには収納スキルが付与されているから、そこまで荷物にはならないのかもしれないな。


「あら、アタル起きたのね。体調はどう? 昼食は食べられそうかしら」


 俺がそんなことを思っていると、俺に気付いたフランが声を掛けてきた。


「ああ、休ませてもらったおかげでだいぶ良くなったよ。それに、フランが料理を作っている姿を少し見させてもらったけど手慣れているんだな。エプロン姿も似合っているし」


「なっ! 見ていたなら声掛けなさいよ。それにエプロン姿が似合っていて可愛いなんて言われたら照れるじゃない……」


「いや、似合っているとは言ったけど、可愛いとは言って……いや、可愛いな。うん、ポニーテール姿も似合ってるよ」


 直感的に、「可愛いとは言っていない」と言っていたら、フランに殴られる未来が見えたので、俺は寸前のところで、言葉を言い直しそれを回避した。


 ふう、危ないところだった。俺の危険察知能力に感謝だな。

 まあ、実際に可愛いとは思ったから嘘ではないし、問題はないな。


「ふふん、褒めたって料理しか出ないんだから。椅子に座ってもう少し待っていなさい」


 俺が危険を回避したことに安堵していると、フランは機嫌良さそうにそう言ってきたので、大人しく椅子に座って待つことにした。


 まあ、料理も手慣れた様子だったし、匂いも美味しそうだから問題ないだろう。

 てっきり、マンガとかでありがちな、料理とは名ばかりの真っ黒な焦げた物体でも出されると思っていたけど杞憂だったな。


 ……30分後。


 俺が暇潰しにポメラをモフっていると、フランがイアンとニーアを連れて、料理をテーブルに運んできた。


 テーブルには、色鮮やかな野菜やベーコン、チーズが散りばめられた見た目も綺麗なサラダや琥珀色に透き通った卵スープ、ポメラ達用なのか香ばしい香りのする厚切りのステーキ等、味も見た目も美味しそうな料理の数々が並べられた。


「アタルにはこれがおすすめかしら」


 そう言って、フランが指指したのは、茹で豚と千切りされたきゅうりが盛り付けられた料理であった。


「これは午前中にポメラ達と一緒に倒したオークのお肉なんだけど、美味しいところだけ回収してきたのよ。ただ、アタルは二日酔いだから脂っぽいものは駄目かなと思って、茹でて余計な脂を落としたから食べやすいと思うわ。一緒に盛り付けたきゅうりも水分が豊富だから二日酔いには効果があると思うし、そこにあるポン酢をつけて食べると美味しいわよ」


 そう言いながら、その料理を俺に食べて欲しそうにするフラン。


 オークの肉と言われなければ、見た目は豚肉だから気にせず食べたんだけどな。

 けど、せっかく作ってくれた料理を食べないという選択肢は俺にはないないから食べてみるか……

 見た目はただの豚肉だし、自分で解体したわけでもないからいける気がする。


 俺はオークの肉できゅうりを巻き、ポン酢につけると思い切って食べてみた。


「うん……美味い!」


 オークの肉は今まで食べていた豚肉よりも、旨味が強く、味もしっかりしていた。

 茹でたおかげか、脂もしつこくなく、シャッキリとしたきゅうりと一緒にポン酢につけて食べることでサッパリしていて美味しかった。

 

 これは食わず嫌いで損していたな。自分で解体するのはあまりやりたくないけど、食べるだけなら問題なさそうだ。


「ふふ、アタルが美味しそうに食べてくれて嬉しいわ。私がわざわざ作ってあげたかいがあるわね」


 俺がぱくぱく料理を食べ始めるとフランは嬉しそうに微笑んだ。


「フランって料理が上手だったんだな。気を悪くしたら申し訳ないんだけど、貴族だから自分で料理は作らないと思っていたよ」


「普通の貴族なら作らないでしょうね。私の家が特別なのよ。お父さんに連れられて野営させられた時に料理を作ることもあったし、お母さんは自分で料理をして、それを家族や使用人に振るまうのが好きだから、それに付き合って私も料理を作っていたのよ」


「へえ、だから料理が上手なのか。毎日食べたいぐらいだよ」


「たまになら作ってあげてもいいわよ」


 うん? たまに作ってくれるってことは、一緒にいてくれるってことか? これってもしかすると遠回しな告白なのでは……


「何考えてるかわからないけど、お母さんの病気が治ったから、今後は自由に冒険者として活動するつもりなのよ。そこでアタルが迷惑でなければ拠点を使わせてもらって魔境の探索をしてみようと思っているの。その対価のひとつとして料理ぐらいならたまに作ってあげるって意味よ」


 まあ、そうだよな……貴族のフランが、G級冒険者の俺なんかに惚れるはずないか。

 危うく勘違いして、恥ずかしい目に遭うところだったな。

 しかし、フランは魔境の探索をするつもりなのか……旅に誘おうと思っていたけど、それなら誘わないで拠点を貸しておくか。

 俺なら転移結晶さえあれば、いつでも帰って来れるし、フランなら信用できるから拠点を使わせても問題ないしな。


「ああ、そういう意味か。拠点を貸すのは構わないんだけど、実は俺、ポメラ達と一緒にこの国を巡ってみるつもりなんだよ。たまには帰ってくるつもりだから、フランがここを使いたいなら、このままにしておくけどどうする?」


「えっ! 何よそれ……それなら私もアタルについて行ってあげるわよ。この国に詳しい人がいたほうがいざという時に助かるでしょ。それより、ここの拠点はどうするつもりだったのよ。この家も建てたばかりだし、外の木なんかも希少なものでしょ」


「うん? フランが付いてきてくれるなら嬉しいけど、魔境の探索がしたいんじゃないのか……

 あと、フランには言っていなかったけど、俺にはこの家や木なんかを持っていく手段もあるんだよ」


「普通ならこの家を持っていける手段があるって言われても「何言っているんだこいつ」って思うんだけど、アタルならありえるって思えちゃうのよね。あと、私も魔境の探索をどうしてもしたいわけじゃないし、アタル達に付いていくほうが楽しそうなうえに恩も返せるでしょ」


 おぉ、元々誘おうと思っていたから、フランが付いてきてくれるのは嬉しいな。

 ポメラ達以外に話し相手がいるのもありがたいし、フランの言うとおり、この国に詳しい人がいた方が助かることも多いと思う。


「それならフラン。まだ、日程や行く場所も決めていないんだけど、俺たちの旅に付き合ってくれるか?」


「ふふん、任せておきなさい。私がこの国を隅々まで案内してあげるわ」


 そう言って、得意気に胸を張るフランを見て、一緒に旅に出るのが楽しみになるのであった。

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