48話 二日酔い
翌朝。
「うぅ~頭がズキズキする……」
俺はフランが寝た後、ひとりで日付が変わるくらいまで晩酌をしていたせいで、朝から二日酔いに苦しめられていた。
「アタルおはよう。二日酔いかしら?」
「あぁ、フランおはよう……うん、二日酔いだな。フランが寝た後にひとりで遅くまで飲んでいたらこの様だよ」
「体調悪いなら無理しないで休んでいなさいよ。ただ、休む前に水を飲んでおいたほうがいいわね。脱水症状も防げるし、アルコールを排出するにも水は必要なんだから。
私が汲んできてあげるからベッドか椅子に座って待ってなさい」
「おぉー、フランが優しい。けど、自分で飲みにいけるから大丈夫だよ」
「私はいつも優しいわよ。いいからそこに座っているか、ベッドで横になっていなさいよ。たまには私がアタルのお世話をしてあげるわ。
それと、少しくらいなら何か食べられそう? 二日酔いには果物を食べるのも効果があるみたいだから食べられそうなら剥いてくるけど」
うん……本当に優しくなった気がする。
昨日、お酒を飲んで色々なことを吐露したおかげでスッキリしたのかもしれないな……
わざわざ果物を剥いてくれるというのだから、お言葉に甘えさせてもらうか。
二日酔いは辛いけど、女の子に看病してもらえるなら、ある意味幸せかもな。
「うん、ありがと。少しくらいなら食べられそうだからお願いしてもいいか」
「それじゃあ、先にお水を持ってくるわね」
そういって、フランは水を汲みにキッチンに行ったので、俺はリビングのテーブルに突っ伏して待っていると、すぐに水を持ってきてくれた。
「はい、お水。もし気持ち悪いのが辛いなら吐いちゃいなさいよ。その方が結果的に早く楽になれるわ。あと、果物なんだけどキッチンにグレープフルーツが置いてあったからそれでいい?」
「そこまで酷くはないから大丈夫かな。グレープフルーツなら食べられそうだからそれでいいよ。面倒なら半分に切ってくるだけでいいけど」
「別に面倒じゃないわよ。食べやすいように剥いてきてあげるから、もう少しだけ待ってて」
そして、今度はグレープフルーツを剥きに行ってくれたので、俺は水を飲みながら待つことにした。
グレープフルーツってたまに苦いのもあるけど、甘酸っぱくて美味しいんだよな。
小さい頃はそのまま食べるのが苦手だったので砂糖をかけて食べてたけど、砂糖が溶け出した果汁を最後に飲むのが楽しみだったんだよな。
自分で剥くのは面倒なんだけど、半分に切ってスプーンで食べるのより、剥いて食べるほうが個人的には好きなので、フランの申し出はありがたく感じた。
そんなことを考えていると、フランが皮を剥いたグレープフルーツを皿に盛り付けて持ってきてくれた。
「待たせたわね。ちょっと実が崩れてしまったのもあるけど気にしないでちょうだい」
「わざわざありがとな。実が崩れたくらいじゃ気にしないから安心してくれ。ちなみにフランはグレープフルーツに砂糖をかける派、かけない派のどっちだ?」
「二日酔いで苦しんでいるわりに、しょうもないこと聞いてくるわね。そもそも、グレープフルーツに砂糖をかけるって発想がなかったわね……かけると美味しいの?」
「ここにグレープフルーツがあるのだから試してみるといいさ」
そう言うと、フランはキッチンから砂糖を持ってきて、グレープフルーツに振りかけると、それを口に運んだ。
「うん、これはこれで美味しいわね。何もつけないほうが私的には好きだけど、疲れたときなんかにはこっちのほうがいいかもしれないわね」
「ふふ、グレープフルーツには疲労物質を分解したり、血流や新陳代謝を促進してくれるクエン酸やストレスや病気の抵抗力を強めるビタミンCなんかの成分が豊富だし、そこに砂糖をかければ体や脳を動かすエネルギーになるから、その二つの効果を併せ持つ、砂糖かけグレープフルーツは最高なんだよ」
俺が砂糖かけグレープフルーツの良さについて熱く語ると、フランは俺の変なテンションを心配したのか、俺に近づき右手を俺の額に当てると「熱はなさそうね。まだ酔っているのかしら?」等と呟いた。
フランが接近したことで、フランから女の子特有の良い匂いが漂い、俺はドキッとして顔が熱くなるのを感じた。
「アタルまだ酔ってる? いきなり変なテンションで語りはじめるから心配するじゃない。クエン酸?やビタミンC?が何かわからないけど、疲れに効果がある食べ物ってことでいいのかしら?」
「あ、ああ、その認識で間違いないかな。とりあえず、グレープフルーツを食べたら少し休ませてもらうよ」
「ゆっくり休むといいわ。私はポメラ達と外で遊んでくるけど昼前には戻るわね。昼食は今のアタルでも食べられそうなものを私が作っておいてあげるから楽しみにしていなさい」
「おぉ、フランの手料理か! それは楽しみだな」
「ふふん、アタルの度肝を抜かせてあげるから覚悟しておくといいわ」
「いや、今の俺が食べられるのは胃に優しい普通の料理だからな。度肝を抜かせる料理なんか出すなよな」
「わ、わかってるわよ! 言葉の綾でそう言っただけじゃない。そんなこというなら作ってあげないんだから」
俺が言葉の揚げ足を取ると、フランは顔を真っ赤にしてプイっと顔を背けてしまった。
今回は、フランをからかった俺が悪いので誠心誠意謝罪すると「次はないんだから」と言いながらも料理を作ってくれることになったので、フランの料理を楽しみにしつつ、俺は二日酔いを治すべくベッドに横になるのであった。




