47話 晩酌
「フラン様、お食事の用意ができました。本日のメニューは、シーザーサラダにきのことチーズのアヒージョ、メインがビッグタスクのステーキ、デザートとして魔境産のフルーツの盛り合わせをご用意させていただきました」
「へえ、美味しそうね。それより、様付けはやめてよね……そのよそよそしい態度がむかつくんだけど」
「いや、貴族だっていうから、敬わないと死刑にされるのかと思って」
「そんなの一部のバカな貴族だけよ。それに私はそういうのが嫌で冒険者をしているんだから、これまでどおりに接してよね」
「そういうなら、そうさせてもらうよ」
あの後、今日持ってきたお礼の品はありがたくいただくことにして、追加の品については丁重に辞退した。
フランは納得していない様子であったが、お金目当てで協力したわけじゃないし、サフロスの花を見つけたのはポメラという設定なので、お礼をするならポメラ達に美味しいものでもあげてくれと伝えた。
そして、今は夕食を作り、フランやポメラ達に提供したところだ。
久しぶりに会ったフランが貴族だということがわかったので、冒頭の茶番をするためだけに、腕によりをかけてコース料理っぽいものを作ってみた。
「アタルって、料理も上手よね。それにこのアヒージョだっけ? こういう料理って初めて見るけど、アタルの故郷の料理なの? 油っぽいのかなと思ったのだけど、きのこやチーズにニンニクや油の旨味が染み込んでいて美味しいわね」
「うーん、故郷の料理ってわけではないけど、居酒屋とかでは食べることはできたかな。ちなみにアヒージョはニンニクとオリーブオイルで他の食材を煮込んだ料理のことだな。その油にパンをつけても美味しいし、パスタに絡ませても美味しいから試してみるといいよ」
そういって、フランの前にパンやパスタを出してあげると、フランはパンを手に取り、それをちぎると油に浸して口に運んだ。
「うん、アタルの言ったとおり、美味しいんだけど、ワインが飲みたくなるわね」
「うん? フランってお酒が飲める年齢なのか? 俺のいた国だと20歳を越えないと飲酒禁止だったんだけど」
「この国だと15歳から成人扱いで飲酒できるわね。ちなみに私は17歳だから何の問題もないわ」
ふーん、フランって17歳だったのか……
まあ、この世界の俺と同い年くらいだとは思っていたけど、まさか年上とはな。
それにしても、15歳から飲酒ができるなら、自宅以外で飲酒してもら問題なさそうだな。
この世界の居酒屋にも興味あったし、今度行ってみるか。
「へえ、フランって、俺より二歳年上だったんだな。ワインやビールならあるけど飲むか?」
「えっ、アタルって年下なの!? 同じくらいの年齢だとは思っていたけど、しっかりしているから、私より年上だと思ってたわ。それにしても20歳になるまで飲酒禁止なのにお酒が何であるのかしら?」
「料理で使うことが多いからな。それに細かいことは気にしない方がいいぞ。そんなことをいうならお酒は出さないからな」
「冗談よ。この国でなら問題ないのだから、飲みたいのなら好きなだけ飲めばいいわ。私には白ワインをお願いね」
「あいよ。それじゃあ、俺も同じのにしとこうかな」
俺は白ワインとワイングラスを二人分棚から取り出し、そのうちのひとつをフランに手渡すと、フランのグラスにワインを注いであげた。
「へえ、いいグラスを持っているのね。それにこのワインいい香りがするわね。味わいもすっきりとした口当たりで飲みやすいし、このアヒージョやステーキにも合いそうね。どこ産のものなのかしら?」
フランは顔にグラスを近づけワインの香りを楽しんだ後、スワリングと呼ばれるグラスを回してワインに空気を含ませる手法を行い、最後に軽く口に含んで味わうとこのような発言をした。
フランのやつ、ワインを飲み慣れているな。
本格的なテイスティングをするとは……さすが貴族の娘といったところか。
まあ、このワインが美味しいのは当然だよな。俺が【創生】スキルで人気の白ワインを再現して創り出したのだから。
「故郷産のワインだからこの辺では売ってないな。一応ストックも結構あるから気にいったなら好きなだけ飲んでくれ。ただ、吐くまでは飲むなよな」
「さすがに吐くまでなんて飲まないわよ。せっかくだから乾杯しましょう」
「うん、それじゃあ、俺たちの出会いとフランのお母さんの病気完治を祝して、乾杯」
乾杯の音頭を取ると、お互いのグラスを軽く打ちあわせた後、ワインを口にしてお酒と食事を楽しむことにした。
その後、フランはお酒を飲んで酔ったのか、フランのお父さんやお母さんについての愚痴や自慢話、お母さんの病気が治るまでの心境についての吐露等、色々なことを俺に聞かせてきた。
うん、フランは喋り上戸だな。
まあ、変な絡み方をされないだけマシか。
お母さんのこともあって、ストレスも溜まっていたのだろうから、好きなだけ話に付き合ってやるとするか。
ただ、これ以上お酒を飲ませるとどうなるか分からないから、そろそろ水を飲ませておくかな。
俺はフランの酔い覚ましのために、一旦水を汲みに席を離れ、水を持って戻ってくるとフランはポメラ達に冒険者としての心構えを説いており、ポメラ達は優しいのか、時折フランの言葉に頷いたりしていた。
うーん、これは完全に酔っているな。さっさと水を飲ませて正気に戻ってもらわないとな。
フランに水を手渡し、飲んでもらった後、しばらくするとフランは喋り疲れたのかウトウトとし始めた。
「フラン大丈夫か? 眠くなったのなら、二階にベッドを用意しといたから、そこを使ってくれ」
「うん……ありがと。それにごめんね、自分の話ばかり聞かせちゃって。アタルは私の話をちゃんと聞いてくれるし、久しぶりにお酒を飲んだから楽しくて飲みすぎちゃった」
そう言って、えへへと笑うフランはお酒の影響で普段と印象も違く可愛らしくみえた。
そんな、フランをポメラ達に寝室まで連れて行ってもらい、俺はひとりでダイニングデッキに移動し、月明かりに照らされる湖の景色や風のせせらぎ、湖の波音をつまみにお酒を楽しむのであった。




