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12話 ヴァリアス王国

「ありがたいけど受け取れないよ!」


 馬車に戻った後、エミリーに回復ポーションを渡そうとしたところ、遠慮したのか受け取りを拒否された。


「市販品じゃなくて、俺が作ったものだから効果があるかできれば試してみて欲しいんだ。自分で試したときには直ぐに傷や痛みがなくなったけど、他の人だとどうなるかわからないし…」


「魔法もすごいけど、回復ポーションも作れるなんてすごいんだね! うーん…そういうことなら使わせてもらうね」


 そういうとエミリーはポーションを受け取り、傷口に巻かれていた包帯を取り外し始めた。


 うーん…傷が無事に治るか気になるが、女性の太ももをずっと見ているのは何か悪い気がする。


 俺はそっと視線を外した。


 …


「うわー! すごい! もう治っちゃった!」


 少しするとエミリーのそんな声が聞こえた。


「無事に治ったなら良かったよ」


 俺がそういうと、エミリーは


「前に1回だけ、兄が回復ポーションを使ったことがあるんだけど、こんな直ぐには治らなかったよ!ポーションも1個使い切っちゃったし。けど、このポーションは3分の1も使ってないけど治っちゃった」


と言って、残りのポーションを返そうとしてきたが、今後二人が怪我をするかもしれないので


「残りは何かあったときに使って」


 そう言って、ポーションはそのまま受け取ってもらった。


「うーん… でも… こんな良いポーション受け取れないよ…」


等と小声が聞こえたが、聞こえない振りをしていると、トムから声を掛けられた。


「ポーションありがとな。おかげでエミリーの怪我が治った。少ししかないが礼だ。受け取ってくれ」


 トムがお金が入っていると思われる小袋を渡してきたので断った。


「エミリーにも言ったけど、あのポーションは自分で作った試供品みたいなものだから、礼はいらないよ。どうしても礼がしたいのなら色々教えてくれ」


「わかった。それなら何でも聞いてくれ」


「ああ、そうさせてもらうよ」


 トムとそんなやりとりをしていると、モーケルさんからも声を掛けられた。


「アタルさんは魔法だけでなく、ポーションも作れるなんてすごいですね。差し支えなければどちらの出身なのか教えてもらえませんか。黒髪黒目の方はこの辺では見たことがないですし、服装もこの国では見かけない格好ですが、仕立てが綺麗なので知っている国であれば商品を仕入れてみたいのですが…


 うーん…何て答えようか… 日本って答えるのはやめておくとして、ちょっともじって『ヒノモト』ってことにしておくか。


「『ヒノモト』って国なんですが、聞いたことはありますか?」


「いいえ、残念ですが聞いたことないですね…この大陸にある国ではないのかもしれません。帰国する際のお役にも立てればと思ったのですが、お役に立てずすみません」


「いいえ、この大陸にはないってことがわかっただけでもありがたいです。ちなみにこの国は何て名前なんですか?」


「ヴァリアス王国ですね。国王を中心として貴族が各地を治めており、人や獣人、エルフ、ドワーフ等の多種族が住んでいます。王都が国の中心にあるのですが、今いる場所は国の西南に位置しているアシタニア地方ってところですね。この辺は凶悪な魔物が少なく、平地が広がっているので農業が盛んなんですよ」


 王が統治する君主制なのか。それよりも獣人、エルフ、ドワーフ等がいるとは! ぜひ見てみたい!


「これから行く村には獣人やエルフ、ドワーフ等はいるんですか?」


 興味を抑えきれず、モーケルさんに尋ねると、残念ながらいないとのことであった。王都には様々な種族が住んでいるらしいが、基本的に獣人は南方の大草原地帯で遊牧民として暮らしており、エルフは東の森林地帯、ドワーフは北の鉱山地帯の麓に暮しているらしい。

 しかし、冒険者にもそれなりの人数がいるということなので、そのうち出くわすだろうとのことであった。


 ちなみにこの国のお金についても聞いてみたのだが、単位は『K:キール』で単価としては日本とほとんど変わらないようで1Kが1円相当であった。

 硬貨の種類としては、1K硬貨、10K硬貨、100K硬貨、1000K硬貨、10000K硬貨の五種類。

 モーケルさんに見せてもらったが、1K硬貨が屑鉄、10K硬貨が銅、100K硬貨が白銅、1000K硬貨が銀、10000K硬貨が金でできてとのことであった。

 特殊な偽造防止の魔法が掛けられているとのことで、硬貨の表面には複雑な模様が彫られており、サビ防止の措置もとられているそうだ。


 …それから、しばらくの間、3人と会話していると


「見えてきましたよ」


 モーケルさんからそう声を掛けられ前方を覗くと、木の柵に囲まれた建物がいくつも見えてきて村に着いたのだということがわかった。

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