11話 トムとエミリー
これから行く異世界初めての村に期待を膨らませていると、モーケルさんの隣に座り周囲を警戒していた護衛の男性から話しかけられた。
「さっきはすまなかったな。突然の魔法とお前の格好が変わっていたので警戒してしまった。俺の名前はトム。F級冒険者だ。今は依頼を受け、妹のエミリーと共にモーケルさんの護衛の仕事をさせてもらっている」
トムと名乗った男性は、年齢は10代後半。金髪短髪で体は鍛えているのか引き締まっていた。
目つきが悪く、無愛想な男だがこうして謝罪してきたということは根は良い奴なのだろう。
服装は冒険者だということもあり、素材はわからないが上半身は麻っぽいシャツの上から革鎧を着用しており、手には革製グローブ、下半身は長ズボンに膝下まであるロングブーツ、革製の肘当てや膝当てで関節部分も保護しており、武器は片手剣といういかにも冒険者という風貌であった。
「兄がすみません! 私はエミリーっていいます。兄と同じでF級冒険者です。私が怪我したせいで、モーケルさんと兄を危険な目に合わせてしまったので助かりました」
馬車の中から後方を警戒していたエミリーと名乗った女性は、年齢は10代半ば。金髪ポニーテールが似合う明るい女の子であった。
服装はトムよりは少し軽装で、麻っぽいシャツの上に胸当て、それ以外はトムと同じ服装であり、武器は弓と短剣を使うらしい。
しかし、負傷したと思われる左太もも付近のズボンが裂け、血が滲んでおり痛々しかった。
うーん…痛々しいな。回復魔法が使えればいいんだけど使えないしな。
回復ポーションや薬草なんかが存在するのであれば、【創生】で作ってあげよう。
そう思いながら、俺はとりあえずモーケルさんたちに自己紹介することにした。
「気にしていないので全然大丈夫ですよ。自分はアタルと言います。実は先ほどの場所には別の場所から転移させられてしまい、現在地がわからなくて困っていたのです。なので、この国のことや周辺の地理関係などについても教えてもらえると助かるのですが…」
正直に異世界から召喚されたと言ったら信じてもらえなそうなことと、目をつけられて余計なトラブルを招きそうであったことから、別の場所から転移させられたことにした。
ついでに国の情勢や周辺の情報を教えてもらえれば、次の行動の指針になる。
会社員として働いていたときは、仕事のノルマに追われ、時間外勤務や休日出勤が当たり前になっていたから、この世界ではのんびりスローライフを送りたい。
そのためにも住みやすそうな場所を見つけるのが最初の目標だな。
俺はそう決意した。
それから、シリル村に着くまでの道中、モーケルさんやトム、エミリーと色々な会話をした。
まず、トムやエミリーからは年齢が近いからってことで敬語は不要と言われた。
俺は30歳なのだが…
疑問に思い、休憩した際に、スマホのカメラ機能が使えることを思い出し、自分の顔を撮影して確認したところ、高校1年生の時の顔つきであった。
この世界では15歳ってことにしておくか。
俺は年齢詐称することとし、回復ポーションや薬草がこの世界にもあるということを会話の中で聞き出したので、エミリーのために【創生】スキルを使って回復ポーションを創ることにした。
回復ポーションにも色々な種類があるらしいが、一般的なものとしては、キキ草という薬草をすり潰して、蒸留水と混ぜ合わせた後、加熱しながら魔力を込めて煮詰めていくとできるらしい。
なんだかんだ手間が掛かるそうで、安い回復ポーションでもキキ草に比べると10倍の値段がするらしい。
そのため、F級冒険者で稼ぎもあまり多くないトムとエミリーは応急処置用の薬草は所持していたものの、回復ポーションは所持していなかったみたいである。
【創生】スキルであれば適当に想像するだけでも回復ポーションはできそうだが、工程や素材等をきちんとイメージしながらの方が魔力の消費が少なく、効能も良くなるため、俺はポーションを作る工程をイメージしながら魔力を込めて【創生】スキルを使用した。
スキル使用時に光を放出するため、俺は休憩時にお手洗いに行くと言って、3人から離れた場所でリュックの中でスキルを使用したところ、光は若干漏れたものの、無事リュック内に回復ポーションだと思われる丸底フラスコに入った緑色の液体が出来上がっていた。
しかし、思ったよりも魔力の消費が多く、現時点だと1日に2、3個が限界に感じられた。
いきなりエミリーに使わせて効果が無かったらまずいよな…痛いのは嫌だけど試してみるか…
俺はナイフで指の先を少しだけ切りつけ、傷をつけた。
切りつけたことで血が少し出て、弱い痛みが生じたが、そこに緑の液体を垂らすと、たちまち傷が塞がり、痛みも無くなった。
おぉー! 本当に治った!
俺は効果に驚きつつ、早速エミリーに回復ポーションを渡しに行った。




