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味方が弱すぎて補助魔法に徹していた宮廷魔法師、追放されて最強を目指す  作者: アルト/遥月@【アニメ】補助魔法 10/4配信スタート!
二章

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五十七話 力を合わせて

「良いな。良いな、良いな良いな良いな良いな!!! そうだよ、こういう刹那の死線に身を委ねてこそ、己の生を強く実感する事が出来る!! ちゃんと私を殺せる可能性のあるやつとの戦いだけが、私を強くしてくれる!!! く、くく、くははッ、うわはははははははは————!!! さあ! さあさあさあさあさあさあ!! 早く次を見せろ!? アレク・ユグレット!?」


 ————これがメレア・ディアルの本性か。


 自傷覚悟の一撃の後。

 己の血を見るや否や、頭でもおかしくなったのかと見間違う程の哄笑を響かせたのち、一人で勝手に盛り上がりながらメレアは俺に向かって斬りかかっていた。


 戦闘狂という言葉が誰よりも当て嵌まる男である。心の底よりそんな感想を抱いた。


「時間は有限だ。そう悠長に感想を抱く暇はないだろうに? 君のその力も長くは保たない上、私が殺して回っていた羽虫共の残りもまだ幾人か残っていた事だろう。オリビアがいるとはいえ、〝闇ギルド〟の戦闘員連中だ。ほら、そら、死ぬ気で私を倒して助けに向かわねば、誰かが死ぬぞ?」


 ただ、それがきっかけで誰かが死に、それ故に憎しみを抱いた結果、君が覚醒————。

 そんなありきたりなご都合展開があるならば、それはそれで楽しみたい気分ではあるが。


 付け加えられるふざけた一言に、こめかみの血管を浮かばせながら、魔法を行使。

 ……しかし、埒があかない。


 どれだけの大技を重ねようとも、まるで当たる気配がない。


「……誰も死なせねえよ」


 魂の底の底からメレアという男は、戦いに伴う愉楽に溺れたいと願っているのだろう。

 そしてより強い愉楽を求めて、強くなろうと。

 その為にオリビアを利用したのだともつい先程、語ってすらいた。


 本当に、ふざけた野郎である。

 オリビアがああもキレる理由が今ならよく分かる。


「その意気や良し。だが、悲しいなあ? その意気に肝心の力量がついて来ていない」


 意志だけが先行して、肝心の部分が随分と後ろに置いてきぼりを食らっている。


 明らかにそれと分かる嘲りの言葉を付け足すメレアであったが、業腹な事にそれは事実であった。


 これだけ魔法を撃ち放ち、剣を交わし、実力を知らされておきながら裏付ける理由もなく、根性論を展開するほど俺は鈍感にはなれない。

 だから、その発言に対して「それは違う」と声高に反論をする気はなかった。


 なかった————が、


「その通りだろうね。あんたの言う通りだ。俺は、あんたにはまだ、勝てない(、、、、)


 戦闘を好む者ならば、何と弱腰な事かと笑った事だろう。

 もしくは、身の程を弁えていてよろしいとでも感心の言葉の一つくらい漏らしたか。


 母のことを持ち出され。

 エルダスの事を持ち出され。

 頼りない仲間を持つと大変だなと、俺とオーネストの二人だけの状況を見て、そんな煽りを受け。

 挙句、オリビアの身の上話をちらつかされ、かなり頭にきていた。

 散々、怒り散らしたし、その残滓は未だ表情から抜けきれていない。



 ————ただ、メレアは分かっているのだろうか。


 この状況。

 メレアは一人だけであるが、俺は生憎一人じゃない。

 俺は勝てないと白状はしてやったが、あくまでそれは、俺は勝てない(、、、、、、)と言っただけだ。


「だけど、一ついいかな〝剣聖〟サン(、、)

「ぅん?」


 眉間に皺が寄る。

 彼の名を呼ぶ際、俺が侮蔑の色を乗せた事を反射的に悟ったのやもしれない。


「確かに、俺の魔法と剣じゃああんたにはどうやっても届かない。殺せる可能性だって、限りなく低いだろうさ。ただ……悪いんだけど、一人で全部抱え込む時期は卒業したんだ」


 これは、〝タンク殺し〟でオーネストと交わした〝罰ゲーム〟の続き。

 一人で抱え込む事をやめろ。


 そんな意味合いの約束を無理矢理させられた過去に笑みを向ける。

 続け様、散々とも言える傷を負った身体を見つめながら。


「それと、初めに俺が言った事を、あんた忘れてないか? 俺は魔法師(、、、)なんだぞ? 一対一は基本的に専門外(、、、)。魔法師は、多対一が専門だ」


 冒険者であれば、誰もが知っている常識。

 魔法師は基本的に、魔法をぶっ放して多くの敵を殲滅する役割を担っている。


 そもそも、最近はヨルハ達に追いつく為に真面目に修練を積んでいるとはいえ、俺は四年もサボっていた人間だ。

 〝剣聖〟レベルの人間に、奥の手を解放したからといって本気で一対一の勝負に勝てるなどと思える程お花畑な脳味噌を持った覚えはない。


 要するに————。



「随分な大根役者っぷりではあったがよお? 魔法の腕は相変わらずえげつねえ。流石はオレ様が認めた〝天才〟だ。お陰で漸く、こっちは片付いた(、、、、)ぜえ?」

「……待ちくたびれたよ」

「へえ?」


 少なくない傷を負いながらも、文字通り、グロリアを片付けたオーネストが俺達の会話に割り込んできた事により、メレアの片眉が跳ねた。


 元より俺は、〝リミットブレイク〟の状態で押し切れないと悟った時点でメレアに一人では勝てないと内心ではあっさりと認めていた。

 だから、己の中で方針を変えた。


 メレアの攻撃をギリギリのラインを見定めながら耐えつつ、オーネストの援護をしようと。


 だが、オーネストの相手も腐っても〝名持ち〟の人間。狙って撃てば十中八九悟られる。

 グロリアだってメレアが味方であるとは露程も捉えていなかっただろうし、その中で俺の攻撃が飛んでくる事も想定していた筈だ。


 だから、メレアの言葉に怒りに駆られ、我を失っている俺の存在を作る事が何より都合が良かった。そうすれば、警戒がゼロになるわけではないが、ほんの僅かだろうが隙が生まれるから。


「てめえは知らねえだろうが、アレクの我慢強さにゃ、定評がある。怒りに駆られて魔法をぶっ放す? ちげえちげえ。アレクはあの魔窟で四年耐え忍んだヤツだ。一時的な感情の制御くらいやろうと思えば出来ただろうな」


 だが、あえてそれはしなかった。


 ならば、そのあえてに理由が存在している事は明白であると語る。


「てめえはべらべらとくっちゃべって気を良くしてたのかもしンねえが、その間にコイツは良い仕事をしてくれたよ」


 メレアとグロリアの仲が険悪な事は火を見るよりも明らかな事実であった。

 しかし、その両者ともに此方に危害を加える可能性が多分にあった。だからどうしても、二人をどうにか倒す必要があった。


 だが、〝剣聖〟の技量は圧倒的。

 俺との相性は最悪。


 だから、対峙しようとも、出来る事はといえば自傷を代償として小さな傷を与え続けるか、精々が多少の時間稼ぎ。

 どう足掻いても致命傷は与えられない、筈だった。


 俺が、オーネストの援護を本格的に始め、先にグロリアを始末してしまうという事さえなければ。


「これで、二対一。天下の〝剣聖〟サマが相手だ。まさかまさか、卑怯、なんて言わねえよなあ?」


 頰が裂けたかのような唇の歪みは、まごう事なき愉悦のあらわれ。


「くはッ、ははは————それこそ、まさか。私は、大歓迎さ。ちょうど、物足りなく感じていたところでねえ?」

「そりゃあ良かった」


 一切の躊躇いなく答えるメレアの言葉に呵呵とばかりにオーネストが笑った直後。


「オイッ————ジジイ!!!」


 唐突に、声を上げる。


 転瞬、少し離れた岩陰からびくっ、と物音が立つ。まるでそれは、オーネストから「ジジイ」と呼ばれる事に覚えのある者のような反応であった。


「そこに転がしてる〝闇ギルド〟の奴の息は残しといた。理由は知らねえが、ヨルハを攫おうともしてた。だから、そいつ連れてヨルハの方頼むわ。つぅわけで、こっちには手え出すんじゃねえぞ」


 そこまで言ったところで、奥の方から、やれやれと言った様子で顔を見せるレヴィエルと、見慣れない坊主頭の男。

 側にはこの場に何よりも相応しくない物々しい雰囲気の棺が。心なし、闇色に何処か蠢いているようにも見えた。


「……心配せずとも、オレはその〝剣聖(クソ野郎)〟に関わるつもりはねーよ。ただ、まぁそういう事なら、オレらもとっととヨルハの嬢ちゃん達を探しに行くとすっかね」

「……これは驚いた。レヴィエルまでいるのか。引退した癖に、わざわざここまでやって来るとは。仲間想いなのは相変わらずか。あぁ、いや、だからギルドマスターなのか」


 オーネストによって乱雑に転がされたグロリアの身柄を回収に向かおうとしていたレヴィエルの足が止まる。

 明らかに、メレアの物言いは知人に向けるそれであった。


「……オレはてめえとは違うんでな、クソ野郎」


 因縁か、何かか。

 レヴィエルとメレアの間に何かがある事はその一度のやり取りですぐに分かった。


「だから、てめえの自己満足なんぞにオリビアは使わせねえ。分かったら、とっととくたばりやがれ」


 ただ、レヴィエルはそれをここで掘り返す気はないのか、それだけを告げるにとどまった。


「随分と私も嫌われたものだな」


 へらへら笑う。

 先程とは打って変わって、静かな笑いだった。


 やがて、レヴィエルと坊主頭の棺男がくたばっていたグロリアの身柄を確保するや否や、その場を後にしてゆく。


 ただ、何故かメレアはその様子をジッと眺めるだけであった。

 どうしてか、邪魔をしようとはしていなかった。


「……ま、それも仕方ないか。あいつが怒るのは当然だ。仲間を見殺しにした挙句、そいつの子供を育てて自己満足に利用してる時点で友好関係が築けるとは思ってないさ」


 本当か嘘か。

 それを判断する材料は今俺の手元に一切存在しない。


 ただ、実際にオリビアの様子を目にしていたからこそ、メレアが語るその内容が正しい予感が脳裏を掠める。

 その内容であれば、あれだけ怒るのも納得がいく。何を差し置いてでも殺そうと試みるあの想いが理解出来るような、そんな気がしたから。


 そして。


「にしても、レヴィエルがいた上にあの対応って事は……今更だけど、君達はオリビアを連れ戻しにきたってクチだったのか。そりゃ申し訳ない事をしたな。だが、私は実に運が良い。強くならなくては(、、、、、、、、)いけない私にとっては、事情はどうあれ、君達から敵意を向けられるこの展開は実に都合がいい」


 お陰でまた一段、高みに登る事が出来る。


 俺たちの事を体の良い踏み台としか見ていないその物言いに無性に腹が立つ。


「……傍迷惑な野郎だ。付き合ってらンねえ」


 強くなりたい。

 そう願う理由がなんなのかは判然としないが、その願望は迷惑極まりないと心底思う。

 だから、オーネストのその呟きに俺も同意する。


「なら、どうする? 背でも向けてみるか?」


 もしかすると、このまま私が大人しく帰る。

 という未来もあり得るかもしれないぞ、と嘯くメレアであるが、それが心にもない事である事はあえて聞き返さずともよく分かる。


「冗談にしたってもっとマシなのがあるだろ」

 

 逃す気はないって目が炯々としてるぞ。

 と、訴えてやると、苦笑いが返ってきた。


「なあ、〝剣聖〟さん。そういえばあんた、エルダスの知り合いなんだろ? だったら、伝言を一つ頼まれてくれるか」

「伝言?」

「エルダスには、俺は元気にしてると伝えておいてくれ。〝剣聖〟を打ち負かすくらいには、元気にしてると伝えておいてくれよ」

「く、クク、くははッ、ははははははは!! そりゃあいい!! 流石はアレク、分かってやがる!! ひーっ、おっもしれえ」


 ツボに入ったのか。

 ゲラゲラとオーネストが笑い出す。

 ただ、その様子を前にしても、メレアに怒る様子はなく、威勢が良いようで何よりだとばかりに穏やかな笑みを湛えて此方を見詰めるだけだった。


「打ち負かす、か。別行動をしている仲間を助けに向かわなくても良いのか? 既に言ったが、〝闇ギルド〟の人間はまだそれなりの数残ってるぞ?」

「分かってねえな。ヨルハとクラシアがいりゃあ大抵のやつは相手にならねえよ。それこそ、てめえや、あの〝二重人格〟みてえなやつがいない限りな。だったら、心配いらねえンだよ。だから今は、ンなもんはどうでもいいンだ。気に食わねえからてめえをぶっ飛ばす。それだけだ。先に手え出してきたのはそっちだ。死んでも文句は言わせねえ」


 己が絶対的強者であると言わんばかりのその態度。最っ高に苛立たせてくれやがる。

 そう言って、オーネストは嫌味百パーセントの満面の笑みを浮かべた。


 でも、その通りだった。


 俺達に今必要な事は、メレア・ディアルを何とかしてどうにかする事。ただそれだけ。


 ならば、〝剣聖(こいつ)〟は気に食わない。

 だからぶっ飛ばす。

 その単純明快な答えは、特に今は好むところであり、俺の意見とも見事に合致している。


 そして、ロキから譲り受けた〝古代遺物(アーティファクト)〟。その刃先をメレアに向けながら、告げる。


「オーネストの言う通りだ。〝剣聖〟か何かは知らないが、散々邪魔をしてくれた礼だ。戦いたいんだろ? だったら望み通りぶっ飛ばしてやるよ」


 どうせ、ここで食い止めなければ、嬉々として邪魔に入ってくる暴風のような存在。

 だったら、色々と俺の中の地雷を踏み抜いて荒らしてくれたお礼も込めて、真正面からぶっ飛ばしやった方が楽だ。

 何より、そうでもしないと俺の気だって済まない。


「覚悟はいいか、〝剣聖〟————ここからが本番ってやつだ」


 残された〝リミット〟は五分ほどだろうが、それだけあれば十二分。


 ここからは、俺らの戦い方を見せてやる。

 お望み通り、度肝を抜かせてやるから。


「そりゃあ楽しみだ。宴も酣ってかい? んなら、久々に私も、心ゆくまで楽しませて貰うとするかねえ————!!!」


 そう告げた直後、好戦的に笑むメレアを威圧するように、限定的に無尽蔵となっている魔力をフル回転——魔法を頭が働く限り周囲にこれでもかと展開し、並べてゆく。


 たった一人の魔法師の手で成せる限界はとうの昔に超えている。

 そして、その速度も自分が成している事ながら、異常極まりない。


 しかし、それすらも当たり前のように斬り裂いてしまうのが〝剣聖〟という人間。

 付けられた二つ名は伊達じゃない、という事なのだろう。


 やがて、次の瞬間。

 どちらともなく勢いよく大地が爆ぜ、鳴りを潜めていた轟音と剣戟の音に混ざって哄笑が響き始める。


「ヨルハやクラシアにゃ悪ぃが、二人で大物喰らいといくかあ!! ついでに、教師共の鼻も明かしてやろうじゃねえか!!!」


 どうにも、オーネストだけがこっそり学院時代に教師から受けていた忠告の件を未だに引きずっているらしい。


 ————〝剣聖〟は洒落にならないレベルでヤバいから、関わるな。


 その忠告に対する腹いせと言わんばかりに、言葉が吐き散らされる。


「どでかい風穴開けてやンぞ〝貫き穿つ黒槍(アルマレステカ)〟ぁぁぁあああああ!!!!」

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味方が弱すぎて補助魔法に徹していた宮廷魔法師、追放されて最強を目指す2
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星斬りの剣士


前世は剣帝。今生クズ王子
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